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準備が出来ていなければ窮地に陥るのは当然だ。

「来ないでぇぇぇぇぇ!!!!」


 体育館中に女の子の悲鳴が響き渡る。

 生徒の目が一点に集中した。一瞬で注目の的になる。

 不味い。


「ちょっと話を――」


「いやぁぁぁぁ!! 助けてぇぇぇぇぇ!!!」


 ダメだ。話を聞く気がない。恐怖でパニックになっているのだ。

 彼女の悲鳴は人々の関心を集め、野次馬が少し離れた位置で俺たちを取り囲む。

 ここで逃げたら何がどうあれ自分たちが悪いことになってしまうし、ここに残って弁解しようとしても自分たちが悪いことをしていることに変わりはないのだ。俺たちは彼女の身内ではないし、ここに入る権利を有していない。

 考えうる中でもかなり不都合な状況に陥っている。

 唯一の救いがあるとするならば、周りの人間がパニックに陥っていないことだ。周りの人間までパニックになれば自分たちを問答無用で犯罪者とみなすだろう。警察を呼ばれて終わりである。


「待ってくれ! これは誤解だ! 俺はただ君と話がしたいだけなんだ!」


 こんなことを言っても悪手にしかならないということを口に出してから気づく。

 弁解をしてもそれを受け取る側も見ている野次馬も信じてくれないだろう。

 まさに四面楚歌。

 力づくでどうにかしようとする敵の気持ちが分かった。 


「助けて、あかりぃぃぃぃ!!!」


 泣きそうになりながら少女は誰かの名前を叫んだ。


 その言葉でとあることを思い出す。

 この学校には2人のチーターが居る可能性が高い。

 そしてそのどちらかが真理の探究者を撃退し警察送りにしたという。

 目の前の少女は臆病者だ。ここまで追い詰められて能力を使わないのであれば、おそらくチーターではあるが、そこまで大きな能力は持っていないのだろう。

 だとすれば......警戒するべきはあかりだ。


 自分の頭が警戒モードに入っていくのが分かる。


「山田さんはもう少し近くへ、猫谷は離れてくれ。そして二人ともチートは発動状態で」


「......わかりました」


 その言葉を聞いた山田さんがいち早く従う。

 頭の中にレーダーが現れた。

 自分の位置と仲間の位置、それと生徒たちの位置が点で表されている。自分は黄色、仲間は青、そして少女は赤く表示されている。自分の認識によって勝手に色が付けられているのだろうか。

 猫谷は少し離れて周りを警戒している。多分、俺の頭の中を読み取っているはずだ。


「チートが発動された痕跡はありま――」


 キンッと耳鳴りが強く響いた。頭が強い衝撃で塗りつぶされる。思わず膝をついた。

 殴られたわけではない。

 だが後頭部に強い痛みがあり、視界がぐらりと歪んだ。脳震盪を起こしたことはないが、これは脳震盪に近いものだと思う。

 山田さんが俺の体を揺さぶっている。肌の感覚が鈍い。一枚の厚紙を挟んだ上から触られているような感じだ。

 耳鳴りには少しずつ慣れたが痛みは言えない。頭の痛みがズキズキとした痛みに変わる。


「体育館の向こうで能力の反応が見られました! 相手の能力は遠隔操作型だと思われェッ!?」


 自分の体を揺さぶっていた山田さんが甲高い声を上げて倒れた。

 山田さんが指さしていた方を注視するとぼんやりと赤丸が浮かび上がる。

 敵の反応だ!

 次第に痛みが強くなると同時に赤丸がこちらに近づいてくるのが見えた。


 倒れた俺たちの姿を少女は怯えた目で見ていた。

 その目は恐ろしい相手が倒れてホッとするでもなく、自分の目の前で人が倒れていることすら恐ろしいというような目だった。

 おそらくこの少女はこういった争いに慣れていないのだ。

 俺も慣れていないからわかる。目の前で人が倒れたら、敵だろうが味方だろうがこんなことは起きてほしくないと思うだろう。


「大丈夫か」


 俺の声は届いていないみたいだ。おそらく俺と同じ攻撃を受けたのだろう。

 姿はまだ見えてこない。レーダー上ではこの野次馬の壁の向こう側である。


 近づいてくると同時に痛みが増していることを鑑みると、物理的に透明なもので殴られたというよりは真理の探究者の幹部の呪い女に近い能力なのだろう。

 猫谷はまだ倒れていない。目をつけられていないのだろうか。それともこれが範囲攻撃みたいな何かなのだとすれば......?


 ダメだ。

 頭が働かない。

 痛みのせいでぼうっとしてきた。


 せめて俺の考えていることを猫谷が読み取ってくれているなら、喋らずに意思を伝えることが出来るはずだ。

 それも猫谷が能力を嘘偽りなく伝えてくれていたらの話だが。


 こんな時になって、仲間に頼りきれないことがこんなにも苦しいことなのだと気が付いた。

 いつも俺を支えてくれていた存在が誰であるのかを改めて知った。

 ここに俺を支えてくれた人はいない。

 それでも、俺は――


「やる、しかない」


 俺はゆっくりと立ち上がる。

 ずっと立ち眩みが続いており前もまともに見ることが出来ないが、それでも相手がやってくる方向を眼中に収めた。

 群衆をかき分けて一人の女が現れる。


 その人は少女とは対照的にとても身長が高く、かなりボーイッシュな顔立ちをしていた。


「こんだけ近づいても倒れないなんて、なかなかやるじゃん」


 釣り目でこちらを睨んでいる。


「あなたは......!」


 山田さんがその女を見て驚愕で目を見開いた。


「おー、今日はレーダーちゃんも来てたんだ。運が悪かったみたいだね」


 そう。

 俺はその顔を知っている。

 前に幹部会に出たときや俺が真理の探究者に入信したときに、この女とは会っている。

 幹部の席の奥の方で俺に何も関心を向けず一言もしゃべらなかった女。


「あかり!」


「サチ。言ってるじゃん。あんたには手は出させないって。だからさ――」


 こちらを見た。

 とても虚ろな目だった。


「あんたにはここで人生終わってもらうから」

 まさかの幹部登場!?

 これはかなり不利ではないでしょうか。

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