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高校三度目の4月が始まる

 春休みは夏休み冬休みに次ぐ長い休みで、所によっては冬休みよりも長いところがあるとかないとか。

 そんな春休みも充実していれば充実しているほど早く終わってしまう。

 俺の春休みは充実こそしていなかったものの、あっという間に終わってしまった。


 春休みの間に変わったことがある。

 それは心境の変化だ。

 春休みの間にユウさんと出会って悩んでいることについて相談をして、それで悩みを家族に打ち明けることが出来た。

 考え方が変わったことにより、俺は後悔に囚われることはなくなった。

 そのおかげなのかどうかは知らないが、前にもまして勉強に精が出るようになった。期末テストで落ちた点数を取り戻すように勉強をした結果、俺は今までにないほど勉強をしているような気がする。


「それで人生の中でも万全の仕上がりでまたここにやってきたわけだ」


 桜並木が沿道を飾る正門前。

 ここにきてから三年目の春を迎えることとなった。


「......」


 いつも学校に着くと鉢合わせる女の子が居た。

 決まって、何の因果かは分からないけれど、会って挨拶をしながら、一緒に階段を上り廊下を歩いて、教室に行く女の子が居た。

 俺が来た時刻がいつもより遅いわけじゃない。俺はもともと早く学校に来る方だが、彼女も同じく早く学校に来る方だった。そのためいつもほとんどの人に見られることなく二人で教室に着くことが出来た。

 つまるところ、今日は彼女の来る時間がいつもより遅いのだ。


「小日向......」


 俺は彼女の名前をつぶやいた。

 もちろんいつも出会うのも、今日出会わなかったのもただの偶然ではあるのだが、それでも今まで鉢合わせ続けてきたのだから、それを運命と呼ぶのなら今日会わないのは必然なのだろう。


 春休みの間に変わっていないこともある。

 それは小日向のうしろめたさを解消できていないことだ。

 俺と白勝という名の少年が戦って俺は惨敗することになった。その敗北のきっかけが小日向だった。

 彼女には何の罪もないし、俺は彼女を責めたりしない。でもそれが彼女にとって重荷になっていることに俺は気が付いていた。だから俺はどんな慰めの言葉をかけてもその時の小日向の考えを変えることはできなかったに違いない。


 そう思って春休みの間、何もしていなかった。

 目の前の問題から逃げるように何もせず、ただ勉強に没頭していた。「ほかにも俺にはやることがある。彼女が気負っているのは彼女自身の問題で自分がどうこうできる問題ではない」と。

 そのツケが回ってきた。

 それが今日、ここに小日向が居ない理由なのかもしれない、と考えていた。


 嫌な考えを取っ払うように教室に向かう。

 いつもと同じ校内だ。いつもと同じだからこそ、いつもと同じでない彼女の存在が目立つ。

 教室に着いてからも彼女はなかなか来なかった。

 横でドアが開く音が聞こえたのは俺が教室に来てから10分ほど経った時だった。

 彼女が遅れて入ってきてもあまり驚かないようにしたいと思っていたが、いざ静寂の中でドアが開くとついついそちらを勢いよく振り返ってしまった。


「あっ......おはよう。原田さん」


「うん......佐々木さん、おはよう......今日は小日向さんはまだ来てないんだね」


 彼女は原田千歳。引っ込み思案で少し悲観的なところのある女の子だが、とあることがあって自分に心を開いてくれるようになった子である。

 とある理由でチーターになりたかった彼女に、俺は嘘を吐くことによってチートを与えた。その嘘は『君は「天候を変化させるチート」をもっているがうまく使いこなせていないのでチート使いになれないのだ』というものだった。その日の天気が幸いし、運よく俺の味方をしたので彼女はチーターだということになった。本当のところは分からない。もしかしたら本当に天候を操ることのできるチーターかもしれない。

 そんなこともあって俺と彼女は少し仲がいい。高校三年になっても同じクラスになれたのは、同じクラスに居た人たちがこの学校の中では割と頭の良い人たちだったからだろう。


「......今年もよろしく」


「あぁ、よろしく」


 結局、小日向さんが来たのはホームルームギリギリの時間だった。今日は来ないかと思っていたがそんなことはなかった。

 遅くなった理由を俺は結局聞くことができなかった。


 後日、春先のテストが行われた。

 結果は俺の圧勝だった。

 すべてにおいて小日向よりも上の点数を取った。英語や国語の点数まで上をとれたのはこれが初めてだったかもしれない。

 だが、あまり喜べない。

 これは俺が成長したのもあるが、小日向のテストの調子が悪かったのが大きかった。彼女は期末テストの時よりも数段低い点数を取っていた。

 結局、軽い会話を二、三個交わして、小日向が沈んだ声で俺に賞賛の言葉を送り、それに返す言葉もなくテストの見せ合いは終わった。


 彼女を何とかしたいと思う気持ちはある。

 どうにかして考えを切り替えてほしいと思う時もある。

 だが、それをする力が今の俺にはない。

 俺が気持ちを切り替えて前に進む姿を見せることこそが彼女のためになるのではないか、というのが今の俺にできる一番の解決策だった。


 俺はそんなことを考えながらも、目の前に迫る問題に頭を悩ませていた。

 それは決して避けることのできない問題で、どんなことが起こるのか全く予想のつかない難問であった。


 俺が真理の探究者に入って、初めての幹部会が行われようとしていた。

 ついに佐々木君も高校三年です。早いものですね。

 それはそれとして幹部会が行われるみたいです。一体何が起こるのでしょうか。

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