ラブストーリーは突然に
この街は海岸に接している。
別に楽しくも華やかでもないが、街灯がなくて殺風景なだけに星が綺麗に見える。
何だかんだ言っても俺はこの場所が好きだ。
そんな場所に人と来るのは本当に久しぶりだったが、静かな場所なら色々なことを忘れられるものだ。
俺は泣いていた彼女にケ○タッキーを渡して、隣で一緒に堤防に腰掛けていた。
まだ彼女は泣いていたが、俺にはどうする事も出来ないのだろうと思った。
しかし……美味そうに食べるなぁ。
泣きながらも、それに恨みでもあるかのように一心不乱にかぶりついているのを見て、なんか微笑ましいなぁだなんて、少し思ってしまった。
「どうして泣いていたんですか。」
それをペロリと平らげて何も話す事が無くなった頃に俺は唐突だなと思いながら聞いた。
「……悲しくなっちゃって。」
悲しい……か。
「街には…いろんな人が居て、色んな事をしてて、自分もこの中の1人なのかなぁ……なんて思ってたら、なんだか泣けてきちゃったんです。」
そんな風に考えたことは無いが、似たような経験ならある。
多分、小学校高学年あたりくらいからだろうか。
俺はこの海に足を運ぶ事が多くなった。
ある日、俺は不意に自分が涙を流していることに気がついた。
その日は特に何かがあった訳でもなかった。
ただ、寂しいとか悲しいとかつまらないという感情が一人出に渦巻いて込み上げてきたのだ。
俺は何かに感動して涙を流す事よりも、こういうふとした時に不意打ちのように涙を流す事が多かった。
あまり人に話すべき事でもないし、取り立ててすごいことでも無いと自分でも自覚していた。
「だから……悲しくなっちゃうから早く帰ろうって思って、いつもみたいに時を止めたらあなたが現れたんです。」
少女は少し訝しげにこちらを眺める。
「あなたも時間を止められるんですか?」
少女は真剣な眼差しをしていた。
「うーん……時間を止められるっていうか、君が時間を止めている間だけ僕も時間を止められるようになるんです。」
「……どういうことですか……?」
俺はすぅっと息を吐きながら、どう伝えれば良いか考える。
「例えば君が時間を止めたとします。そうしたら俺のチートが発動して同じタイミングで自動的に時間を止めてしまうんです。俺はそのチートを使うのを止められないんです。そして君が時間を元に戻した時、俺のチートも解除されて俺の時間も動き出すんです。」
一通りの説明が終わるがちょっとややこしいなと自分でも思う。
「なんだかゴチャゴチャした能力ですね。それとチートって言うのは?」
「ああ、それは俺が勝手に能力をそう呼んでいるだけです。気にしないで下さい。」
彼女は少し顎に人差し指を当てて考え込んでいた。
少し心にドキッとするものがあって心拍数があがる。
「ちょっと……分かりにくいですね。」
「気にしないでください。俺も時々混乱します。」
ハハと小さく笑いが漏れる。
彼女の笑った顔は素敵だなと思った。
「能力をそう呼んでいるって事は他にも私と同じ様な人が居るんですか?」
「ええ、まぁ、そうですね。そんなに沢山居る訳ではないですけど。」
チーターは基本的に他のチーターの事を知らない。
自分のチートをひけらかしたりする人はほんのひと握りだ。
自分がチートを持っていない限り存在すら信じないという人々が大半だろう。
「俺、こういうチートだからチーターと知り合う機会も無いことはなくてですね。」
ただ知り合う時が特殊な場合が多い。
相手のチートが危険であればある程、俺にも危険が及ぶ。
自分がチートを発動していることにさえ気づかないこともある。
こういう機会は大事にしたい。
「俺、佐々木宗利って言います。」
「ささきむねとしさんですか。よろしくお願いします。私は小日向時雨です。」
「よろしく、こひなたさん。」
握手をした。
少し汗ばんでいた。
「あ、そうだ。」
ポケットからスマホを取り出す。
「メールアドレス交換しませんか?チーター繋がりっていうことで」
「あ……あっ、そう、そうですね。良いですよ。」
半分はその言葉の意味通りだ。
半分は……そう、下心が無い訳では無い。
照れている姿も可愛い。
自分も照れくさいのを必死に抑えながら、手が震えているのを隠しつつ、アドレス交換。
数少ないリストの中に『小日向時雨』と書かれた項目を追加した。
「じゃあ今日はここら辺で別れますか。」
心臓がバクバクとしている。
スマホの画面を見るだけで気持ちが高ぶる。
たまにはチーターに関わるのも良いなと思いつつ、浮かれた気持ちを悟られぬように、後ろ髪を引っ張られるような気持ちだったがその場所を後にすることにした。
「ちょっと待っ」
広がる違和感、湧き出る危機感。
色々な止まっていた物が動き出す。
人は歩き始め、会話が聞こえ、そして車は普通では考えられないような初速度で動き出す。
鋭い痛み、宙に浮く体。
少しして地面を転がり勢いを次第に失って止まる。
右腕から血が出ている。
死んでしまったら……異世界転生とか……してしまうのだろうか……。
小日向さんが駆け寄ってくる……。
その姿を見ながらゆっくりと目を閉じた。
連続投稿2日目です。
当然のように作り貯めているので、感想を頂いても(頂けるかどうか分かりませんが)ストーリーは変えにくいと思います。
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