ずっと窮地の中にいる
ここには化け物が集まっている。
やろうと思えばどんなことでもできる人間が集まって何かをなそうとしている。
「お前らの能力は何なんだ。俺の能力は話したんだから教えてくれても良いだろう」
「幹部職の能力は自分から明かさない限り明かす必要はありません。幹部たちは呪いがかかっていたとしても一瞬で反乱を完遂させる能力があるとされています。それを止められるのは幹部だけなので能力を秘匿すること自体が各々の反乱の抑止力となっています。ですから能力を明かす必要はありません」
その規則に従う人はあまり居ませんが、と山田さんが付け加える。そういうことは早く言ってくれないか、と山田さんに目配せをしたが、山田さんは素知らぬ顔で幹部たちを見つめている。どうやら山田さんは中立の立場を貫くらしい。
幹部が集合している時に自分の能力を言ってしまったということは自分がこの中で大きなアドバンテージをなくしてしまったということになる。
その代わり得たものがあるが......失ったアドバンテージと釣り合うかどうかは分からない。
呪いの能力を明かされたがそれが本当の能力であるかは分からない。例えば呪いの使い方のほんの一部分を見せられただけだとか、あの時の幹部みたいに本質的には違う能力とか。
「儀式が普通通りに行えないのは良くないことだね。その代わりに何か提示できるものがあるのかい?」
代案がなければいつ反抗されるかもわからない。だから信用できない。幹部にしてはまともな意見だ、と感心する。言葉がこんなのでなければきっとまともなんじゃないかとも思えてくる。
「そうだな......こんなのはどうだ? 山田さんを監視役としてつける。この人はお前たちから見てもマジメだし信頼できるだろ?」
そう言いながら俺は山田さんを指差す。
山田さんは厄介ごとを押し付けられたとでも言いたげに嫌そうな目でこちらを見た。
俺が山田さんにひきつった笑いを返すと同時に向こうの席に座っていた男が立ち上がる。
とてもガタイが良くて、すごく目つきが悪い。何より髪型がリーゼント。
これはもしや......旧型のヤンキーではないのか? 死滅したと思っていたが、まだこんなコテコテのヤンキーが残っていたとは......世界は広い。
「おい、ゴルァ!! そんなこと言ってレーダーちゃんそばに置きたいだけじゃねえのか!? 俺のレーダーちゃんに手ェかけるつもりならブッ殺すかンなぁ!? アン!? 分かってんのか!?」
俺の胸倉をつかむと、軽々と持ち上げる。
胸元が締まる! 軌道が塞がれて息ができない! そもそも俺のってなんだよ! 二人は付き合っているのか!
山田さんに目配せすると、首を振っていた。
やっぱり俺の、ではないらしい。
俺がプロレスでギブアップをするときのように相手の手をパンパンとはたいていたら、ぽいっと床に投げられた。のたうち回りながら頭に酸素を送る。
「何より、この場に呼ばれていること自体が信頼されている証だろうが! ここには話を聞かれても大丈夫な人間しか呼べないはずだ。監視役には適任じゃないのか。それに俺には心に決めた人が居るんだよ。浮気はしない。絶対だ」
「求めてもいないことを言わないでください」
「そうか! この世界の女は全員俺のモンだからそいつも俺の女だな! 諦めろ!」
ガハハと笑っているということは一応許されたということなのか?
情緒不安定だ。それもひっくるめてバカだと思う。
さてと。
情報を整理する。
男が俺の体を持ち上げたとき、チートが使われた感じはなかった。チートを使わずにこの力を持っているのかどうかは不明だが、少なくともあの時は発動していなかった。よってチートの詳細は分からない。
ここに入ってから何度かチートが発動されている感じがあったが、暴発はしていない。使いこなすのが難しい型のチートを持っている可能性がある。もっともここにいるメンバーが発動しているのかどうかは不明だが。
呪いの女の能力もよくわかっていない。藁人形に対象の血液をかけると呪いをかけることができるということ以外は不明だ。
ここにはもう二人幹部が居るが、俺の存在に無関心なのかまだ一度も目すら合っていない。よってチートは不明だ。
「佐々木さんはこの真理の探究者に入信することによって二つのしなければならないことがあります。一つは月に一回の幹部会に出席すること。二つ目は命令を遵守し命じられたことを全うすることです。これらの義務を課せられます」
「命令っていうのは、例えばほかの学校を攻めてこいとかそういうのも含まれるのか?」
「そうです」
目を伏せる。
そんなことはしたくないが、仲間になるというのはそういうことだ。
だからと言って、素直に従ってやるものか。
どうにかして欺いてやる。
「分かった。仲間になろう」
「本人の了承を確認しました。これより佐々木宗利の入信及び幹部入りを認めます」
拍手はなかった。
中性的な男がぺこりとお辞儀を返しただけだった。
俺はそれに会釈を返して会議室を出る。
「やっと帰れる......のか?」
そう思いながらその場から離れるように進もうとすると、ドアを開けたところに誰かが居ることに気が付いた。
美人だ。年ははっきりしないが、大人びている。
「どうにかして欺いてやる、ね」
「ッ!?」
その言葉にびっくりして振り向く。
それは今さっき考えていたことだ。思考が読まれている!?
「それを知ってどうするつもりだ」
ゆっくりと人差し指で頬を撫でられる。
冷や汗に指が触れた。
「どうして、ほしい?」
もしかしたら俺は窮地に陥っているのではないか。
その思考に至るのにさほど時間はかからなかった。
最後に現れた謎の美女は一体!?
無事に窮地を逃れることは出来るのでしょうか。