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それは人ではないかもしれない

 ゆっくりと揺れる車の中で後部座席に少年と二人で座っている。

 運転座席には目つきの悪い男が、助手席には丸眼鏡をかけた真面目そうな女子が乗っている。どちらも多分同じくらいの年だ。

 これから敵のアジトに連れて行かれるわけだが、あまり危機感は感じていない。危機感を感じたところで何がどうなるわけでもないと知っているからだ。敵の情報も知らないのに対策のしようがない。だから危機感を感じることすら放棄している。不思議な感じだ。


「なぁ、一つ聞いていいか」


「何」


「俺をなんで仲間にしようと思ったんだ。何で俺だけだったんだ」


「そんなこと僕に聞かれても知らないよ。それが勝利に一番良い方法だったんじゃないの?」


 お前は勝利の奴隷か。

 そんなことを言いたくなったがやめた。

 この少年、白勝(びゃくしょう)を怒らせることのできる権利は俺にはない。

 怒らせてもそれを止めることなんてできないのだから。


「着いたよ。ここから先はレーダーちゃんに案内してもらって。僕は運転手に送ってもらうから」


 レーダーちゃんと呼ばれた女子が車から降りたので、俺も車から降りた。

 運転手と呼ばれた男は車の運転座席から俺をにらみつけていた。俺が軽く会釈をすると鼻を鳴らして目をそらした。

 そのまま車はどこかに走り出していった。


「で、俺はどうすれば良いんだ?」


「こちらです。付いてきてください」


 丸眼鏡の女子はアジトであると思われるその建物の方に進んでいく。

 その建物は使われなくなった学校だった。廃校舎はところどころコンクリートにヒビが入っているものの、掃除はきちんとされているようであり人が入り浸っていることが見て取れる。

 門をくぐり、扉を開け、中に入っていく。

 割れた蛍光灯が雰囲気を醸し出している。雰囲気のために蛍光灯を変えていないのではなくて、電気が通っていないのだろう。


「えっと、それでお前はレーダーちゃん、で良いのか?」


「物扱いされるのは好きではありません」


「まぁ、そうだよな」


 白勝から呼ばれるのであれば否定することはできないだろう。そもそもこんな見るからに真面目な人がちゃん付けで呼ばれているのも違和感がある。


「俺は佐々木。君の名前は?」


「......山田です」


 少し間があった。

 名前を聞かれたことが不思議というわけでもあるまいに。

 ......不思議なのか?


「名前を聞いたのがそんなに不思議だったのか?」


「佐々木さんは幹部になると聞いていたので。幹部はあまり人を名前で呼びませんから」


「そいつら本当に人間なのかよ」


 人を名前で呼ばないという言葉を聞いて、多分ここにいる幹部は俺の嫌いなタイプのチーターに違いないと確信する。

 自分をチートが使えるというだけで特別だと勘違いし、他人を人扱いすらしない。そんなチーターのことが俺は嫌いだ。


「やっぱりここはクソみたいなところだ」


「私は真理の探究者の一味ですよ。私の前で真理の探究者を愚弄するようなことを言っていいのですか?」


「山田さんはここに尽くすって感じじゃないでしょう。それぐらいは俺だって分かる」


「そうですか」


 そっけない返事だ。

 見た目通りの真面目で事務的な対応で庶民的な感じがした。真理の探究者にもこういう普通の人がいるのだなとホッとする。


「ここです」


 そこは廃校舎の会議室だ。奇しくも俺たちが真理の探究者を迎え撃つための作戦会議をしたのも学校の会議室だった。

 ガラガラと音を立てて扉を開ける。

 そこには5人の人間が居た。おそらくこの人達が幹部なのだろう。


「佐々木さんにはここで不戦の呪いを以て我々の仲間になることを契約してもらいます」


「ちょっと待て。呪いってなんだ」


「それはあの方の能力です」


 山田さんが示した先には幹部の一人が居た。ワカメ髪の女だ。どことなく空間断絶の能力を持った女に良く似ている。


「ノロウ。ノロウ。貴様をノロウ。そして(かしず)け、(ひざまず)け!」


 俺はそのまがまがしさにたじろいだ。ニタニタ笑いながら素早く近づいてきて俺をなめまわすように見つめる。

 いやな予感しかしない。


「あの方が作る藁人形に呪う対象の血液をかけると、その方に対して呪いをかけることができます。呪いをかけられた人間は体の自由が利かなくなったり遠隔で傷をつけることができるようになったりします」


 顔から血液がサーっと降りてゆく。

 なんともおぞましい能力だ。

 というかそんな能力どうやって発見したんだ? 日ごろから藁人形を作ることでさえあり得ないのに、それに人間の血をかけてしまったということか? そうでもしないと自分が能力を持っていることに気づきようがない。チートを持っていたとしても持っていなかったとしてもヤバイやつじゃないか!


「この真理の探究者に入信する際はそれをして頂くのが決まりとなっております。ご容赦下さい」


 なるほど。それを行うことによって反乱を防いでいるのか。

 しかし、言うまでもなく、そんなことをされたくはない。

 ウキウキで息を荒くさせ興奮しているこいつに自分の命を握られるなんてとんでもない話だ。


 それに。

 もしも裏切ることになったとしたら、自分の命を握られることはとても厄介だ。

 俺はこの組織に反抗することをまだ完全に諦めたわけではない。

 であるなら、これをさせてはいけない。


 何か方法はないか。

 これから逃れる方法は。


 一瞬で頭を回して良い考えを思いついた。


「ちょっと待ってくれ。俺の能力のことを忘れてないか。俺の能力は『相手の能力を勝手にコピーして発動してしまう能力』だ。そんな俺に呪いをかけようとしたら、呪いをかけようとした相手にも呪いがかかってしまうことになるかもしれない」


「でも、ノロウ。これは決まり。仕方ない!」


 俺の話を聞いていたのか!?

 ポケットからナイフを取り出して目を爛々と輝かせながら俺の肌に押し当てようとするのを軽く手で制する。


「ちょっと待て! もしも俺の能力が発動したとする。そうすればお前が他人に危害を加えることもできなくなってしまう可能性が高い。そうすればお前が作った藁人形にお前が危害を加えることもできなくなってしまうんだぞ! つまり、お前はこれから人を呪えなくなってしまうかもしれない! それはこの組織にとっても良くないはずだ! それぐらい分かるよな!」


 女はナイフを震わせたままフ―ッフーッと鼻息を吐く。


 今言ったことはあり得る事実だ。

 しかし発動しない可能性もある。俺は血液を採って藁人形を作るわけではないから能力が発動状態になっても能力を使うことはできないと思う。

 それに誰かが能力を発動させた状態で俺に触れていれば能力をコピーすることすらできないだろう。


 しかしそれはこの能力を把握している俺だから言えることで、深く俺の能力について知らない人間が指摘できることではない。

 だから俺の説得は意味を持つ。


「それなら......仕方ない」


 女はナイフをしまい込んだ。


 危ないところに来てしまった。俺は改めてその事実を噛みしめる。

 そしてひそかに反抗心を抱きながら椅子に座った。

 ついに来てしまいましたね。敵の本拠地です。

 窮地を脱した佐々木君が次に受ける洗礼はいかに!?

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