表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/307

勝てない相手に勝つ方法を考えよう

 校内には大会議室がある。普段は先生たちの会議が行われている場所だが、今日は生徒たちが集まっていた。会議室の座長の席には俺が座り、会議室の後ろでは保健室の先生が頭を抱えながらため息を吐いている。


「これより真理の探究者幹部対策会議を始めます。まずは幹部の説明から――」


「ちょっとちょっと」


「何です?」


 後ろの先生が手を挙げた。


「この集まりは何?」


「とりあえず自分の知っているチーターと自分の力になってくれそうな人を集められるだけ集めました。自分だけでは出てこない知恵もあると思うので助言をもらおうと思って」


「ということは、もしかしてこれ全員そうなの?」


「そういうことになります。とりあえず俺達がチーターであることを知っている人は全員呼びました」


 ここに集まったのは小日向、傑、雨姫、それにチーターかどうかは定かではないがチートの事を知っている原田、それに稲原と竹内とフラン。これは同じクラスのメンバーだ。それに催眠能力者の生徒会長。違う学校に進んだ中学校での黒狼団のメンバー、黒狼団団長であるオルクス(仮)、黒狼団所属のチーターで誘導の能力者のララ。さらには生徒でもないぐーさん、俺の妹である由香まで呼んでいる。

 一同集結と言った感じだ。

 ちなみに大会議室がおさえられたのは、催眠の能力を使って教員を軒並み催眠して普通は借りられない会議室を借りているのである。学外の人間がここに入ることが出来ているのも同様である。生徒会長はこの時期、受験で忙しくしているのではないかと思っていたのだが本人によると「推薦入試で面接官を催眠し受験に合格した」らしい。なんともチーターらしい横暴なやり方である。


「ではぐーさん。チーターの説明を行ってください」


「どうも、初めまして。素性は細かく明かせないが、能力者対策する職についている者だ。ぐーさんと呼んでくれ」


 前置きもほとんどなしに能力者の説明を始める。

 説明する能力者はもちろん、真理の探究者幹部にして実質的なリーダーの『何にでも勝利する能力者』だった。

 説明は俺にしたものとほとんど同じである。

 ぐーさんは速やかに説明を終えた。終える頃には集められたメンバーの一部の顔は真っ青になっていた。


「説明ありがとう、ぐーさん。みんなをここに呼んだのは、一緒に対策を考えてもらうためだ。もっと言うなら、何も対策が思いつかなかった時になるべく被害に巻き込まないようにするためでもある。相手が現れた時に迅速に動くことが出来るようにするための集会でもある」


「聞いていて思ったのだけれど、何にでも勝利する能力に勝つというのは矛盾があるのではないかしら」


「俺もそう思う」


 新浜が率直で極めて冷静な意見を放つ。

 正論だ。

 しかし、だからといって簡単に放り投げて良い問題ではない。


「そこでまず、相手の勝利条件を挙げよう。相手の勝利条件は俺達を仲間に引き込むか、それが出来なければ俺達を無力化することにある」


「無力化って、つまりどういうことを指すんだ? 例えば俺の肉体強化の能力だったら、それが使えなくなるってことなのか?」


「分からん。傑の能力だったら使えなくなるかもしれないし、俺みたいな能力よりも頭が取り柄みたいな人間だったら、最悪の場合、殺されるかもな」


 質問した傑がごくりと息を呑む。

 最悪の場合の話をするならば、この能力は可能性の幅が広すぎるのでとりかえしのつかない『もしも』を出さざるを得ない。


「なら絶対負けられないじゃないかよ......!」


「そうとも限らん。お前達があいつらの仲間になるならかろうじて首の皮は繋がるだろう。ただ、その選択肢を選んだ場合、今度は俺達と敵対することになるから、あまりその選択肢はおすすめしない」


 ぐーさんが腕組みをしたままそう告げる。

 彼をここに呼んだのは能力者と実際に相対した経験があるからというのもあるが、安直に『逃げの選択肢』を選ばないためでもある。真理の探究者の明確な敵対組織である政府の人を連れて来ることによって逃げてもデメリットがあるということを示すために来てもらったのだ。

 そしてこれはぐーさんにも言っていないが、彼にこの会議を見せることによっていかに苦労して結論を導き出したかということを示すためという隠れた理由もある。苦労して妥協案を出したと知ればぐーさんは「状況が変わればまた元の平和な黒狼団に戻るかもしれない」と思ってくれるだろう。そうなればもしも政府と敵対したとしても話し合いの余地があるとみなされるはずだ。これはリスクヘッジのためのパフォーマンスでもある。


「なおさら負けられないわね。この前の敵みたいに私の誘導の能力で相手を操るというのはどうかしら」


 フリルのついたゴスロリチックな制服を着たララがそう提案する。

 確かに前回の戦いでは彼女の能力にお世話になった。ララの能力は色々なことに重宝する。


「それも考えた。だが今回はダメだ」


「何故?」


「相手は無意識に勝利する能力を持っている。俺達が出し抜こうとした瞬間に能力が発動すると思っても良い。誘導の能力で出し抜いてやろうと思ったら、相手の能力が発動して逆に自分が誘導にかかるなんてことにもなり得る」


「......それもそうね」


 自分が役に立てないと知ると、興味を無くしたように素っ気なく目線を逸らした。


「思ったんだけど、おにーちゃんの能力じゃ勝てないの? 絶対勝利する能力をコピーすれば何かできるんじゃない? 勝つんじゃなくても相手の能力を弱めるとかさ」


「それも考えたが、勝つか負けるかは二択だ。相手の能力を弱めて中途半端な結果になるかもしれないが、その可能性は低いかもな。もともと俺の能力は劣化コピーだし」


「そっか......」


 由香が落ち込む。

 隣に座っている小日向が背中をさすっていた。


「でもそこまで強い能力なら、これまでの戦いもすべて負けているのではないですか? これまでに相手がやって来たのも真理の探究者の意思、つまりその人の差し金ということになるのでしょう? だったらその能力者の息がかかった人は勝つべきです。勝たないとその人の目的は達せられない。つまりその人が負けていることになりませんか?」


「流石、小日向! 俺もそこに勝ち目があると思っていたんだ! おそらく相手の能力には俺と同じように物理的な距離による制限があるか、もしくは間接的に影響は及ぼせないかのどちらかがある! それを利用すればひょっとすると勝てるかもしれないと思っている!」


「でも、どうやって?」


「それが思いつかないんだ」


 上がったテンションが急に萎んだ。それを話し合うために会議を開いたんじゃないか。


 かくして俺達の作戦会議が始まった。

 何だかものすごく難しい話をしている気がします。

 果たして彼らは良い方法を考え出すことが出来るのでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ