彼は背負いすぎた
重たいものが俺の背中にのしかかっている。
とても重たくても押し退けることは許されない。
近いうちに真理の探究者のかなり強いチートを持った奴が来るらしい。それこそチートというにふさわしい能力を持ったチーターが。
自分がその絶対的な力を持った相手に対して何か策を講じなければならない。
逃げたい。
自分がそこから逃げれば学校のみんなが危ない。
逃げられない。
策を考えたくても考えられない。何を考えても潰されてしまいそうで、考えたくても全く頭が働かない。
「気負うなよ」
「ちょっと......一人にさせてください」
俺は逃げるように外に出た。
外に出たって変わることは根本的なことは何一つ変わっていないのに。
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小日向さんと田熊が出会ったら?
・佐々木君と出会った時の話を聞きたい
・一応田熊の昔についても聞く
・田熊に興味がある?→佐々木君の火付け役としての田熊に興味がある。
・言いたい事がある?→どして佐々木君に火をつけたの
・良い感情を持ってる?→持ってない
「あー、その」
「小日向です。小日向時雨です」
「えっと、小日向は追いかけないのか?」
「今行っても、かけられる言葉は思い浮かびませんから。それに、あなたに聞いておきたいこともあったので」
小日向はじっとぐーさんを見つめた。ぐーさんはその鋭い視線にたじろぐ。
「あなたは佐々木君の師匠なんですよね。何でもやる気の出し方を教えたとか」
「あいつはやればできる子だが、やる気が長続きしないからな。だからここぞという時のやる気の出し方を教えてやった。それがどうかしたか?」
「何でそんなものを教えたんですか?」
鋭い口調だ。先程までとは雰囲気が変わったのをぐーさんは感じていた。
佐々木が消えたことによって彼女との心に壁が挟まれていることが浮き彫りになり、彼らの間に冷たい風が流れた。
「何か、あったのか?」
自分の教えが間違っていて何か問題が起きたのではないかという危惧をして聞き返す。
小日向は首を振った。
「いいえ。確かに、佐々木君のやる気は役に立っているし、現にそれで私も何度も助けられました。でも色々なことに巻き込まれた時、佐々木君がどうにか頑張ろうとするのもそれを教えてしまったからだと思うんです。佐々木君は理論を組み立てて行動します。そして理論にそって行動した場合、佐々木君は自分の体を躊躇なく死の瀬戸際に立たせることが出来るんです。それが正しいと信じているから」
小日向はそう言いながらこれまでの出来事を思い出していた。
彼の能力はその性質上、他の能力者よりも対象に近づかなければ対象の能力を発動できない。だから佐々木は近づくことがどれだけ危険なことかを知りながら、敵にためらいなく接近する。
物質の質量を増大させる相手と戦った時は、相手の能力で鉄の檻を作るため敵の攻撃を受け止める手段がないにも関わらず他の人に気を引かせて接近した。
空間を切り裂く相手と周りの物を全てのみ込む相手を落とし穴で拘束するときには、相手に接近するために校舎の屋上から飛び降りた。
波を操る能力者と戦った時は、仲間たちの能力を自由に発動するためのトリガーとなるため自らの身の危険を承知の上で一番前に立った。
彼自身、特別な力を持ってはいるがとても優れているという訳ではない。所詮は劣化コピー。タイマンで戦えば絶対に負ける能力なのだ。使い方次第で化けるというだけなのだ。彼がこれまで勝ってきたのはチートとは別の要因、つまり地頭の良さと相手の裏をかく計画を立てられる彼自身の力のおかげである。
「佐々木君はいつ壊れてもおかしくない橋を最低限の確認だけで確信を持って渡る人です。でも、もしも予想以上の人がそこに乗ったら? 渡り始めてから見えていなかった故障個所が見えたら? そんな脆い橋を渡っているのが佐々木君です。私は何も分からないまま着いて行くしかない。他のみんなだってそうです。その橋が落ちた時の責任を全て背負って歩くことがどれだけ大変か、私だって想像できます。そんな性を背負わせたことが彼の為になったとは思えないんです」
「......なるほどな」
ぐーさんは頷いた。
だがその肯定は言葉を全て肯定したわけではなく、単に言っていることが正しいと認めただけだった。
「でも俺なら、自分の運命すら変えられないような力の無い人間にはなりたくない」
その言葉がとても力強かったから、反論が出てこなかった。
ぐーさんの言葉には並々ならぬ思いがこもっていた。
「俺は昔から武道を嗜んできた。あらゆる武道だ。それもあって誰よりも強くなりたかった。誰よりも強くなければ自分の運命を自分の思い通りに変える事なんてできない。運命に翻弄される人間をたくさん見て来たし、俺も運命に振り回された。佐々木だってそんな人間の一人だ。ならせめて運命に抗う力は必要だと思った」
必要、という言葉に重みを感じた。
渡したかったからとか、渡したらどうなるとか、そういう意図が入り込む余地のない必然性が自然と読み取れた。
「それに俺は少し後押ししただけだ。教えたこともほとんどない。小日向が知っているように佐々木の強さは教えたから身に着いたものじゃない。あいつは出会ったころから強さの断片を持っていた」
ぐーさんはその不愛想な表情の口角を上げた。
それは昔を懐かしんでいるようでもあった。
「聞かせてもらえますか? 佐々木君と出会った時の話」
「......分かった」
ぐーさんは目の前の湯飲みに手をかけて、唇を湿らせる程度に旨味のあるお茶を喉に通した。
湯呑を置いて波紋が落ち着き液面が彼の顔を映し出した頃になって、ようやく彼はその湿った唇を動かし始めた。
次からは回想編です。
......この頃、回想多くないですか?