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『すべてに勝利する能力』

「何ににでも勝利する能力......」


「そうだ」


「って......結局どんな能力なんですか?」


 咄嗟のことに頭が追い付かない。

 言葉通りに受け取るしかないのだろうが、何ににでも勝利するという意味が分からない。その能力は言い方次第でどのようにも取れる。

 ぐーさんはポケットからメモ用紙のようなものを取り出した。


「奴が言うにはだな、『僕はどんなことにも勝利する。僕の意思とは無関係にあらゆることに勝利する。殴られることが敗北なら、僕にはすべての攻撃が当たらない。相手が倒れることが勝利なら、すべての敵は倒れていくだろう。テストで99点を取った奴が居れば僕の点数は100点になる。本来100点だった奴が居たなら、そいつは99点になって僕は100点になる。受験戦争という戦いがあるなら僕は出来る限りの勝利をつかみ取り、働いたら負けという言葉があるなら僕の下には働かずにお金が入ってくる。僕は必ず勝利する。何ににでも勝利する。それが運命で必然で僕の過去で定められた未来だ』と言っていた」


 唖然とした。

 しばらくの間、言われたことを頭の中で反芻していた。

 常識外れだ。これまでに会ったどんな能力よりも常識外れ。例えるならそれは......


「チートじゃないですか」


「チートだな」


 分かりきったことを確認し合う。

 対策方法を考えようとして思考回路がぴたりと止まる。

 どんな策を講じても無駄なんじゃないか。そんな考えに行き着いてしまう。


「そんなチートが存在して良いんですか?」


 俺は救いを求めるような目でぐーさんを見つめた。ぐーさんは首筋をポリポリと掻きながら困ったような顔をした。


「存在して良いのかって、誰が許すか許さないかなんて無いんだから制限が無いのがチートだろ」


「それはそうなんですが......」


 小日向をチラリと見ると、彼女は未だに思考が追い付いていないみたいで天井の隅っこのほうを見ながら言葉を一言一句飲み込んでいるようだった。

 不意に彼女が口を開いた。


「あのー、100点を取った人のテストが99点になるって言ってたんですけど、それは自分の行動どうこうの問題ではないですよね。いうなれば現実が書き換わっているというか」


「その通りだ」


 ぐーさんがうんうんと頷く。俺に「なかなか物分かりの良い子を連れてきたじゃないか」みたいなことを言いたげな若干上から目線の顔で視線を向けてくる。彼女は情報を整理するのに必死でそんな無言のやり取りには気づいていないようだが。


「現に俺達が戦った時に現実改変されたのを何度か見た。銃弾がねじ曲がり、ひとりでに仲間が倒れていった。文字通り倒れただけだったけどな。石に躓いてこける奴からもう少し悲惨な倒れ方をする奴もいた。何人かの仲間も失った」


「失ったってそれはつまり......」


 彼女が絶句する。

 もう少し悲惨な倒れ方、と言葉を濁していたがきっとここで話すのがはばかられるほど悲惨ということだ。想像するしかないが、多分俺達が想像しているのよりも現実はずっと悲惨なのだろう。


「俺は少しだけああいう能力に対する耐性みたいなものがあるから躓いたりすることは無かったが、それでも相手の勝利する能力を上回ることは無かった。一度パンチが掠った時があったが、逆に俺が吹っ飛ばされてしまった。相手は『ここでパンチに押し負けたら僕の負けですから』って言ってたな。絶対、相手の反射神経よりは速く動いたはずだから能力がずっと発動してるってのは本当なんだろうな、と思ってる」


 反射神経より速く動くって言ったって限度があるだろうと思ったが、この人が反射神経より速く動いたというんだから間違いはないんだろう。実際にこの人が本気で動くと速すぎて見えないことがある。この人も人智を超えたチーターなのだ。


「ここからが一番伝えたかったことなんだが、お前達に忠告だ。真理の探究者は俺達との抗争でかなりの戦力を消耗した。相手は躍起になって戦力を補充し始めるだろう。多分次に狙われるのはお前らだ」


「どうしてそう言い切れるんですか?」


「俺達は職業柄、日本全国に能力者がどれだけいるのかを把握し、その能力者達が集まったグループが危険団体になって周りに被害を及ぼしてしまわないかを調べている。その中でも今、一番要注意とされているのが真理の探究者だ。その魔の手は日本全国に伸びつつあり、グループ規模としてもトップだ。そしてその次に注視すべきとされているのが、お前達『黒狼団』だ」


「え?......え!?」


 ちょっと待て。俺はそんな危険な団体になった覚えはないし、大きな団体になった覚えもない。全国規模のグループと肩を並べている? 普通に考えておかしいだろう。

 同様の困惑を彼女も浮かべているようだった。


「何かの手違いじゃないんですか?」


「いや、お前達に自覚はないのも無理はないと思うがこれは事実だ。黒狼団は真理の探究者の次に注視すべき団体だ。そうなった原因には佐々木の存在が大きい、と俺達は考えている」


「俺......?」


 俺が一体何をしたというのだろうか。確かに真理の探究者の勧誘を何度か退けたことはあったが、黒狼団を大規模なグループに仕立て上げた覚えはない。


「前提から言って、能力者同士がグループを形成することが稀なんだ。ふつう、能力者は一つの市に一人居れば多い方だ。そんな能力者がここまで沢山集まっているのはおかしい。俺達はその理由について考えてみたんだが、これは佐々木の存在が大きいと考えられる。そもそも能力者であっても自分の能力に気が付かない人間さえも居る中で、お前の能力は能力者をサーチする機能も兼ね備えていると言っていい。そんなお前が能力に気が付いたことによってグループ仲間が出来た。これが一つの要因だ」


 確かに俺は範囲内に入った人間の能力を勝手にコピーする。だからチーターを勝手にサーチしてしまうのだ。

 実際、それがきっかけで能力に気が付いた人もいる。


「だがそんなグループも真理の探究者によって潰されるか吸収されるかのどちらかの道を選ばされることが多かった。特にこの2、3年はその傾向が強かった。そんな中でお前達は生き残った。お前達は真理の探究者とまともに対抗してきたんだ。これはかなりレアケースだ」


「確かにそれは佐々木君のおかげですね」


 俺は正直......自分がそこまでの事をしてきたとは思えない。

 自分はこれまで色々なものに流されて、その時にするべきことをやってきただけだった。それがいつの間にか色々な人を巻き込んだものになっていた。


「真理の探究者と黒狼団の規模には大きな差がある。しかし、佐々木という存在によって、黒狼団は真理の探究者と張り合えるだけの組織になった。だから忠告だ。相手は手っ取り早い戦力の拡充のため、準備が出来次第、お前達に襲い掛かってくるだろう。その時までに、何か策を考えておけ。俺も出来るだけ力になってやるが、敵が現れた時にすぐさま駆け付けられるとは限らない。せめて耐えられるだけの策を考えておくんだ」


 ゴクリと唾を飲む。

 今まで以上の重責が俺にのしかかっている感じがした。


「お前達が次の主戦場になり、能力者のこれからの生き方のターニングポイントになるんだ。覚悟はしておけよ」


 その言葉は一介の高校生が手に負える物ではない。

 俺の心は今にも押しつぶされそうになっていた。

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