クソ食らえ、理不尽
「これ、どうするんですか!?」
「......どう、しようもない。」
小日向さんが詰め寄ってくる。
「何でですか!?」
俺は少し言葉を選ぶ。
「多分、無理だ。」
「だから、それが どうしてかって聞いてるんです!」
「あのチート、どんな感じだった?」
俺はあのチートに引っかかっていない。
だから、あのチートが何なのかは分からない。
「そ、それは...すいません。途中から意識が途切れて...気が付いたら座っていました。」
「いや。それが聞きたかった。」
「そうですか!それで、解決法は?」
「それは、分からない...」
沈黙が流れる。
「佐々木さんのチートで、上書きするって言うのは?」
「無理だ。俺はタイマンでやったら絶対に負ける。俺がコピーできるのは劣化版だ。それに、なんかそれじゃ無理な気がする。」
「そうですか.........時間を止めている間に準備して気絶させちゃうっていうのは?」
「発動した瞬間にもう赤くなってた人が居た。」
「赤く...なる?」
「ああ。相手がチートを使った瞬間に人が赤く見えたんだ。多分、赤く見えたら支配完了ってことなんだと思う。つまり、一回支配してしまったら、あとはいちいちチートを使わなくても大丈夫なんだと思う。」
「じゃあ、解除することは?」
「多分、相手の任意じゃないとできない。」
「そう......ですか......」
再び沈黙が流れる。
「では、どうやったらできるんですか?」
「それが......分からない。......何か...あるのか?」
昔の記憶がよみがえる。
苦くて暗い、思い出したくもない記憶だ。
あんなことは二度としたくない。
「できない...できないんだよ......チーターは理不尽だ...特別な能力があれば何でもできると思ってる......利己的で一般人を弄ぶ......どうにかなんてできるわけがない。」
「どうにかするんです!」
「え?」
「操られたままなんて、納得できません!」
「多分...操られていても...相手が発動しない限り自我は保てているんだと思うんだ。...これだけの数がすでに支配済みになっているにも関わらず、その状態が露見していないということは、たぶんそういうことなんだと......」
「それでもです!!そんな...いつ何が自分にされているか分からないなんて...そんなこと...私は嫌です!絶対に嫌です!!!」
小日向さんは決然とした顔でこちらを見つめる。
相変わらず綺麗な目だ。
「嫌...か。俺も嫌です。仕方がないと言ってしまえば簡単だけど、確かに嫌です。それに相手に見えているなら俺の知らないところで小日向さんがかけられてしまうかもしれません。」
「そうですね。」
小日向さんは少し笑った顔になった。
あぁ、そんな笑顔を見せられてしまったら...
やるしかないではないか。
「どうやったら解決するでしょう?」
小日向さんが首を傾げて訪ねてくる。
「相手に、能力を使わせないようにしなければいけませんね。そして改心させなければいけません。そして何より、戦ってはいけません。」
「へ?では...どうするんですか?戦わなくてもできるんですか?」
「正確には、まっとうに戦ってはいけない。そしてそれでも勝利する方法を考えるのが俺の役目です。」
そう。
それが俺の考えるべきこと。
考えろ...考えろ...頭を回せ。
「後悔させる?...違う...脅す?...それも良いが性分はそう簡単には変わらない...あの時みたいに?...論外だ...どうする...?...もっと考えろ......」
小日向さんはパイプ椅子に座ってじっとこちらを見つめている。
その気遣いが俺の倒れそうな背中を支えているのだ。
絶対にヒントはある!
このタイミングで発動させた。
発動の前提条件は?効果は?どうすれば効果がないようにできる?
なぜ今にした?
他ではいけない理由があったのか?
全員が集まらなければいけなかったのか?
段々と埋もれていた光があらわになる。
「もう...限界です!停止が...もとに戻りますッ!」
「小日向さん!こっちだ!早く!」
できるかどうかは分からないがやってみる価値はある。
時間停止が切れる前に!
理不尽を心の底から叩き潰せ!!
「今さっき、『ストップ』と聞こえたが...そこに空席などあったか?」
空席が二席、ちょうど声が聞こえた方だ。
それに、催眠が解けたような気がした。
辺りを見渡すが何か起こった痕跡はない。
見間違えであったか...?
「なかったよ。今までそこには俺が居た。」
「貴様!どこから、話している!」
どこだ!どこにいる!
体育館のスピーカーをジャックしているのか?
多方向から声が聞こえる。
だが、スピーカーを操る位置は理解している。
「そこか!」
視界にさえ入れば、催眠状態にできる!
しかしその位置は俺から見て死角になっている。
どうやって催眠状態から抜け出したかは知らんが、ここで全員やっておかないと後々厄介だ!
操る位置はステージの上の舞台裏右!
「君のチートはさしずめ、視界に入った人間を支配下に置く能力といったところだろう。無駄だ。そんな能力だけでは、特別になった気分でいてはいけないよ。」
「貴様も同じような能力を持っているのか!?」
「ああ。そしてお前の他にも同じように愚かな人間を何人も知っている。」
ほう、それは初耳だ。
だがそれならば話は早い。
「ならば、貴様も知っているだろう。この世には選ばれし人間がいる。自分以外はすべてモブのような者だということを。何でも出来る。その気になればいずれ国を転覆させることだってできる。どうだ?君も仲間にならないか?その選ばれしものの力で世界を変えてみたいと思わないか?」
ゆったりと歩く。
その気になれば、周りの催眠済みの奴らを動かせば良い。
こちらには文字通り人質は腐る程いる。
よって何らかの攻撃をしてくることはない。
「どうだ。君も同じ気持ちのはずだろう?」
「チーターは往々にして愚かだ。何にしてもそれさえあれば、何でもできると思っている。悪いことをすれば必ずツケが返ってくる。そのツケをお前は知らないんだ。......教えてやる。」
仕方ない。
交渉決裂のようだ。
「諸君、行け!」
盛大にパイプ椅子が倒れる音がする。
良い。
すべて後で何事もなかったかのように直させればいい。
瞬間、身の毛がよだつ。
「傑!やれェ!!!」
馬鹿な!相手は一人では!!
右頬に強い衝撃。
これが人間の力なのか!?
「オオオオオオオオォォォォォォォラァァ!!!!!!!」
避けられなかった。
気づきもしなかった。
相手は一体、何者なんだ?
伏兵?何だ?催眠を解いていたのか?一体いつから!?
体が宙を舞う。
風景がスローモーションになる。
ふわりと、なんて生優しいものではない。
5mほど宙に浮き自分の体が頭から地面に落ちそうになる。
マズイ!このままだと頭から!
思わず目をつぶる。
しかし思っていたような衝撃は訪れなかった。
「まぁ、人殺しはしないって決めているからな。」
頭を支えられている。
コイツは......俺の頬を殴り飛ばした奴か?
頬が痛い。
これはもしかして、あごの骨が折れているのか?
無性に痛い。
奥から一人の男が出てくる。
アイツが首謀者なのか...?
でも目の前に現れてくれるとは...
最後の最後がお粗末だ!
バァァン。
鈍い音が響き渡る。
「オオオオッ!ァァァァァァアアアアア!!」
もうあごの骨が折れてまともにしゃべれないらしい。
「コイツが今、少し悪い目を下から殴ってやったぜ。」
「性根はそう簡単には治らないからなぁ。」
おそらく俺が現れたのを見て反射的にチートを使おうと考えたのだろう。
自分の体が傷ついているのに、そんなことを思うなんて性根が腐りきっている。
「一人ではできないことなんて山ほどある。それがたとえ人を支配できたとしても、自分しか考える頭がないのでは意味がない。人は独立しているから真価が発揮できるんだ。お前の生き方に人と分かち合う喜びがあったか?悲しみや悩みを打ち解けられる人間は居たか?」
そういうと、相手の目からツーと涙が落ちていく。
それが痛みからくる涙なのか。
それともまた別の物なのか。
その判別はつかなかった。
「お前がチートを悪用するようなら、全力でお前を止めてやる。だから...」
近寄ってしゃがみ込む。
赤色に光っていた目は、その色を黒くしていたが、輝きは前よりもはっきりとしているような気がする。
「今度会うときは、座ってお茶でも飲みながら楽しく話そうじゃないか。」
少し笑ったような気がした。
対面式が無事?終了致しました。
その後、生徒会長は病院に運ばれてあごとあばら骨が折れていたことが分かったそうです。
因果応報ですね(笑)
個人的に言えば異世界バトル系を書いていた作者にとってバトル描写が断片的にでも書けて、やっと帰ってきたように思いました。
この調子で明日も投稿!
ストックがなくなってきたので、順調に厳しくなりつつあるけど頑張るぞい!