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来年はもっと新しい一年にしよう

 バタバタとそこかしこで足音が響く。

 年末のこの騒がしさは毎年恒例だ。


「おにーちゃん! はたき持ってきて!」


「ムネトシ......あそこの物取って」


「一度に沢山言われても、俺の体は一つしかないんだぞ!」


 俺はすかさずはたきを由香に渡し、雨姫のもとに向かう。

 そう、今日は大掃除の日。一年に一度、新しい気持ちで新しい年を迎えるために、家の中を刷新する日だ。


「どれを取れば良いんだ?」


「あれ」


「あー......高いな」


 俺は手を伸ばしながらタンスの上にあるものを取ろうとする。おそらくタンスの上のホコリを落とすのに邪魔なのだろう、がしかし。


「手が届かないな」


「ムネトシ、背、低い」


「ますます生意気になったな」


 ぐに、とほっぺをつまんで伸ばした後、俺はしゃがみ込んだ。

 不思議そうに俺を見る雨姫に「肩車」と端的に言った。

 雨姫は少しためらった後、頭をまたいで体重を預けた。


 こんな時、俺は雨姫や由香と本当の家族ではないことを切に感じる。

 雨姫は、ひょんなことからウチに住むことになった現在同じ高校に通っている体年齢33歳、見た目と精神年齢は17歳の少女である。

 細かいことを話せばきりが無いが一言で表すなら、去年家族になったばかりの赤の他人だ。

 白い部屋の中で誰とも会わず年も取らず16年を過ごしていたのでコミュニケーション力や感性に問題があったが、この頃はそれも粗方治り普通の女子高校生に戻りつつある。

 それもあって雨姫が俺を男性として意識することがある。

 きわめて普通の反応なのだが、普通の家族ならこんなことは起こり得ない。

 だからこういった気まずい雰囲気が流れると、否応なしに本当の家族ではないことを認めさせられる。


 肩車で雨姫を背負う。

 雨姫の体は年齢の割にかなり小さくて軽い。これもチートの弊害なのかは分からないが、体は成長していなくても心は成長する。そのことを日々実感しては父性のようなものをくすぐられるのだ。

 タンスの上にあるものをどかして、再び雨姫を下ろす。

 そして俺はついでにタンスの上のホコリも落とした。


「そういえば、内藤くんとはあれからどうなったんだ?」


「どうなった......? どうなったって、どういうこと?」


 この様子だと内藤の恋心は成就していないらしい。

 内藤とは雨姫に恋心を抱いている五厘刈りの熱血漢だ。最初は色々あってお互いにあまり良く思っていなかったのだが、雨姫と俺が同じ家に住んでいるという情報を知っている数少ない人間の一人であり、俺のことを『お兄さん』と呼んでいる。

 一度雨姫に猛烈アタックをしたのだが、そのころの雨姫には性別を意識したりするほどの余裕があらず内藤のアタックは失敗に終わったのである。

 それからの内藤は雨姫との距離を必死に近づけようとしていたが、雨姫との関係がどうなったのかは分からなかった。

 果たして雨姫は内藤の思いに気が付いているのか。それすらも微妙である。


 雨姫にアタックすることに許可を貰いに来た割には成果は出ていないようである。

 そんなことを思いながら箒で床を掃く。


「じゃあ内藤くんのことはどう思っている」


「......優しい人」


 その言葉に俺は静かに驚き、床を掃く手を止めた。

 いつの間にか内藤への評価が『良い人?』から『優しい人』に変わっているではないか!

 特に疑問符が無くなったところがポイントだ! どうやら仲は着実に進展しているらしい。

 雨姫に父性をくすぐられている俺としては、少しジェラシーのようなものも感じてしまうのだが、それは許そう。


 果たして卒業までに彼らの恋は実るのか?

 その答えは神のみぞ知ると言った感じである。

 でもあの熱血漢のことだから、卒業して大学に行くか就職した後になってもどうにかして繋がりを保とうとしそうなものだが。


「なんか成長したなぁ。雨姫も」


「お父さん気分、楽しい?」


「うん。すっごい楽しい」


 今年は雨姫の成長を大いに感じた年だった。

 だが、同時にとても沢山の迷惑をかけてしまった年でもあったと思う。

 命の危険に晒したこともあった。何度もあった。


「なんか、いろんな危険に晒すような真似をしてすまなかったな。今年は殊更に多かっただろ?」


 雨姫はぼうっと斜め上を見つめた後、コクリと一回頷いた。

 俺がダメチーターでなければ雨姫がこんなに危険に巻き込まれることも無かっただろう。それだと出会う事も出来なかったわけだが、罪悪感は残っている。


「危険、多かった。でもそんなに怖くなかった」


「そうなのか?」


「ムネトシのこと、信頼してるからだいじょぶだった」


 何だろう。すごい嬉しい。正直、今年の中でも10本の指に入るぐらいの嬉しさだ。

 シンプルだがここまで言葉がダイレクトに伝わるのは、そこに嘘偽りが無いからだろう。


「今年は、これまで生きてきた中で、一番楽しかった」


「......そうだな」


 こんな年でも雨姫にとっては一番楽しい年だったのだ。

 来年はもっと良い年にしよう。


 そんな決意を胸に抱えて俺は新しい年を迎えようとしていた。

 年の瀬ですねー。

 皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

 良い年の瀬をお過ごしください。

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