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なりたい自分とはなにか

 冬も本格的になり、首まで布で覆わなければ外も歩けないような肌寒さが迫ってきた。

 小日向さんはブレザーの下に着たセーターに半分手を覆い隠しながら、白い息を吐く。

 これが萌え袖か。やはり彼女は何を着ても可愛い。反則だと思う。


「とうとう二学期も終わりか」


「何だかとても早かったような気がしますね」


「予定していた行事が丸ごと吹っ飛んだからな。いっそ学年も進まなければ良いのに、と思うんだが」


 だが、そうもいかないのが現実だ。年も取るし学年も進む。

 授業の遅れは取り戻さないといけないし、修学旅行は無くなっても思い出は作らなければいけないのだ。

 全く、嫌な時期に高校生になったものである。


「......修学旅行、行きたかったなぁ」


「おや、佐々木君でもそういう行事に行きたいと思うんですね。佐々木君ならてっきり『ふん、修学旅行なんて騒がしいものが無くなってせいせいしたぜ!』みたいなことを言うのかと思いました」


「俺だって普通の高校生だぞ。いくらひねくれてるって言っても人並みの楽しみぐらいは持ちたい」


「冗談ですよ!」


 久しぶりに彼女が笑いながら冗談を言ったような気がした。

 その当たり前のような彼女の笑った顔に少し胸をなでおろす。

 

 この二学期は俺達の仲にも変化が大きかった。

 これまで俺達の仲は、俺が一方的に片思いをしていて小日向はそれを微笑ましく茶化すような形だった(不覚にも俺は茶化されていることにすら気が付かなかった)のだが、この頃は彼女も恋愛対象の中に俺を視野に入れてくれた。

 そのこともあって距離感を見誤り若干気まずくなることもあったのだが、今はどうにか上手く行っている状態だ。


 そのうちこの思いを彼女に直接口から伝えなければいけないのだろうという覚悟のようなものもほんの少しだけ芽生え始めたところだ。


「そう言えば、二学期の初めに真理の探究者がちょっかいを出してきたことがありましたね。あの時はちょっと怖かったなぁ」


「あそこまで正体不明のチーターはこれまで見たことが無かったからな。正直、アレよりも強いチーターがやってきたら、俺でも対処できるか分からない」


「大丈夫ですよ! 佐々木君ならどうにか出来ますって!」


 そうだと良い。そうできると信じたい。

 

 あの敵のチートの分かりづらさはかなりのものだった。

 『波という定義が出来るものを自在に操る能力』

 今思い出しても分かりにくい。分かりにくいがゆえに対処はすこぶる難しい。とても苦戦を強いられた。


 そんな敵と立ち向かう中で傑にはかなり助けてもらった。

 肉体強化の能力者にして俺の悪友。いざという時に俺の力になってくれる信頼のおける仲間だ。

 その起源は小学校の中学年にさかのぼり、数多のわだかまりをぶつけ合いながら今の関係になったとも言える。

 確か、そんな関係の始まりを彼女に聞かせたのもこの二学期だ。

 この関係について聞いて彼女がどう思ったかは分からないが、少なくとも俺達の異様な関係について納得してくれたことは間違いないだろう。

 だから俺を助けてくれた。傑が居たからあの時の敵を倒せたと言える。


 あれで幹部の中では最弱だとか言い出すんだから、信じられないにもほどがある。

 もしもそんな幹部がやってきたら、これまで以上に沢山の人の力を借りなければ太刀打ちできないだろう。

 そのためにはもっと他の人とのつながりを深めなければいけないのだろうか。

 ......そんなことが俺に出来るのだろうか。

 でも、知り合いで傷つく人は見たくない。だからそれもするしかないのだろう。

 そんなことができる自分に俺はなれるのだろうか。

 次に相手がやってくる時までに、そんな自分になれるだろうか。


「それから、あったことと言えば、同学年の小岩井君との競争もありましたね」


「......そう言えばそんなこともあったな。なんか、とてつもなくくだらなかったけど」


 あれは一方的に小岩井からふっかけられた勝負だった。

 陸上部員とかけっこ勝負とかいうトンデモ勝負だったが、努力のおかげか策謀のおかげかどうにか勝つことが出来た。

 ちなみにあの時にフランが策を張り巡らしていたことを教えてもらったのは競争が終わってからだった。


「まぁ、あれも俺一人の力では勝てなかったという点においては同じだな。不甲斐ないというか」


「それも佐々木君の良さだと思いますけどね。色々な人から助けられるのは佐々木君の人徳の為せる業だと思います」


「そんなに人徳ある方かなぁ......ある方か......」


 この期に及んで、自分のことを誰も気にかけていないと思えるほど周りが見えていない訳ではない。

 もしかしたら俺は気づいていないだけでなるべき俺に少しずつ近づけているのかもしれない。


「なりたい自分になれるのかなぁ......」


 ぽつりと弱音を漏らす。


「何か夢とかあるんですか? 将来なりたいものとか」


「え? あ、いや......それはないな。うん。明確に何かになりたいって思ったことはあんまり無いよ」


 そういえば自分はなりたい性格や自分の像はあるけれど、何かの職業になりたいと思ったことはあまりない。

 子供のころからそういうのがあまりなくて、小さい頃に書いた将来の夢も「なれるものになりたい」とかそういうのだった気がする。


「なりたいものは無いのに受験勉強できるってすごいですよね」


「うーん。なりたいものが無いからこそ受験勉強するっていうか、何かやりたいことが見つかった時に、それを選べる立場にはなっておきたい、って感じかな」


「良くも悪くも佐々木君らしいって感じですね」


 良くも悪くも、か。

 確かにあまり手放しで褒められるような話ではないだろう。


「それもこれから見つかるのかな」


「それは佐々木君次第じゃないですか?」


「俺次第......ねぇ」


 これから二年が終わるまで。はたまた高校を卒業するまでにやりたいことが見つかるのだろうか。

 それを探して掴まなければいけない。

 そんなぼやけたことが俺の当面の目標になりそうである。

 今回は二学期のおさらい回でした!

 いやー、二学期も終わるの早いですね。すぐ終わっちゃいましたよ。

 次からはちょっと早いですが冬休みになると思います。

 まぁ、受験生予備軍にのんびりした冬休みが過ごせるとは思わないことですね。

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