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どこから因縁をつけられるか分かったものではない

 晩秋の朝方ともなれば、秋とは言えど白い息が立ち上る。

 運動をしているなら尚更の話。


「ファイトデスヨ、シショー! 走って走って駆け抜けて目指せ10万kmデスヨー!!」


「地球......何週......する気だよ」


 地球一周4万km、つまり二週半である。

 ......そう言うことではないのだ。


 走り始めてから10日ほどが過ぎた。

 たった10日、されど10日だ。全く運動をしていなかった最初に比べれば少しずつ体力はついてきているはずだった。少なくともツッコミが入れられるぐらいには体力がついた。

 体形に変化は感じられない。少しずつ変化しているから自分でも気が付けないのか......はたまた変化していないのか。

 フランはストップウォッチを持ちながら俺のタイム管理をしている。デジタル表示の文字盤とにらめっこしながら何かを吟味するように頷いている。

 ......これではどちらが師匠か分かったものではない。しかし彼女はこの呼び方に疑問を持っていないようだ。


「んー、シショーはやればできる子だヨ。やらせればものすごく成長早いネ」


「まぁ、やらないからな......普段は。継続して出来ることも......すごい事だと思うぞ......俺は」


 息を切らしながら本心からの言葉を伝える。

 やれば出来るのに今出来ていないということは、その才能に気が付いていないか、はたまた努力が出来ないかの二通りである。俺は後者だ。


 そんな自虐を頭に巡らせているとどこからか一人の男が走ってくるのが見えた。

 明らかにこちらに向けて走っている。

 俺はその顔に心当たりがなく、フランの顔を覗き込むと何とも言えない変な顔をしていたので察しがついた。どうやらフランの知り合いらしい。それも彼女としてはあまり顔を合わせたくないといったところだろう。


「んっ、んー! 朝からフランチェスカさんに合えるなんて、なんという僥倖でしょうか! おや、そちらの目つきの悪い男はどなたかな?」


 タンクトップのぴっちりとしたジャージ。これはうちの陸上部の物だろうか? 身体は引き締まっていて俺よりも少し身長が高い。歳は大体同じぐらい。顔は端正で爽やかなのだが、体は熱血体育会系なせいで捉えどころがない。

 分かることは、めんどくさくていけ好かない男だということぐらいであろう。大体、初対面で目つきが悪いって何だ。ちょっと細いだけだろ。


「この人はミーのシショーね! 軽率に無礼なことを言わないで欲しいヨ!」


「はっはっは! 嘘をおっしゃらないで下さい! こんなひょろ長くて陸上のりの字も知らないようなヒョロナガがフランさんの師匠!? 冗談はその運動神経だけにしてくださいよ!」


「冗談じゃないヨ! ミーが主人公ならこの人はシショーポジ、ユーはどうあがいてもチンピラ枠ネ!」


 何だろう。褒められてない気がする。

 こっちの肩を持ったかと思えば梯子を外される感じだ。


「チンピラ......良いでしょう。それではそこのヒョロナガ細目さん。あなたがフランチェスカさんの師匠にふさわしいかどうか、私が確かめてあげましょう」


「......え、俺?」


 こちらに話が飛んでくるとは思っていなかった。

 完全に油断していた。


「私があなたとの勝負に負けたらあなたをフランチェスカさんの師匠として認める。その代わり私が勝ったら......分かっていますね、フランチェスカさん。こんな男を師匠として認めているフランチェスカさんを陸上部に勧誘している私の面目が立たないわけですよ。ですのでフランチェスカさんにはこの人を師匠と呼ぶのはすっぱりと諦めて、改めて陸上部で師匠と呼べる人を探してもらいましょう」


「まて、その理論はおかし――」


「受けて立ちまショウ! こんなチンピラにうちの師匠が負けるはずがないのデス!」


「えぇ......」


 相手の理論はおかしい。

 陸上部でも無い俺がフランの陸上の師匠である訳が無いのに、陸上の師匠だと決めつけてその分野で戦おうとしている。そんなの俺が勝てるわけがないではないか。そしてそのことに相手も気が付いている。さらに相手のつけた条件はかなり不平等である。公正公平を装ってはいるが、公正公平なところなど微塵もない。

 さらにこれは相手の確信犯である。この男は俺を見た瞬間に俺の実力が分かっているかのように話していた。いくら陸上をしているからと言って見た目だけで相手の力量を測って罵倒することは不可能だろう。

 そう。この男は俺の実力を知っているのである。どこかから俺達の運動を眺めていたに違いない。そして絶好のチャンスだと思ってやって来たのだろう。

 こんな戦いにフランは乗る必要が無いのだ。


「では勝負は一週間後ということで!」


 足早に逃げ去った。文句を言わせない気だったのだろう。

 小賢しい。


「あんな勝負受ける必要なかったんだぞ」


 俺はフランに申し訳なく思いながらそう言った。

 彼女は胸を張って言った。


「ヤクザはメンツで負けたら終わりね」


「えぇ......」


「それにシショーならすぐにあんな奴に勝てるぐらいの実力は身につくヨ。なんたってシショーだもんネ」


 一体どこからそんな自信がわき出してくるのか。

 もしかして相手はかなり弱いとか?


「相手の実力は?」


「ンー、地区大会の男子三位ぐらい?」


「詳しいな」


「まぁネ。ミーは勉強熱心だからネ」


 地区大会男子三位。

 高いのか? それとも高くないのか?

 ここら辺にある高校はあの高校だけではない。しかし、多いかと言われればそうでも無い。

 その中の三位。

 一位でも二位でもなく三位だ。

 一応賞状は貰える立ち位置だが、頑張ればそれぐらいならいけなくもない......のか? はっきり言って詳しくないので分からない。


「大丈夫ネー! シショーだったら絶対勝てるヨー!」


 本当に大丈夫か?

 そんなふわふわした考えとは裏腹に、その日から予期せぬ猛特訓が始まったのであった。

 なんかすごい展開になりましたね......

 変な奴出て来るし......まぁ、これまでもかなり変な奴ばっかりだったような気もするのですが。

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