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戦いの後はとても静かで

 その後。

 俺とボロ衣の男は特別話すこともなく、ぐーさんが来るまでの時間を過ごしていた。

 途中で俺は真理の探究者の内情について尋ねてみたが、それについて男は何も答えることは無かった。

 やがて日も落ちて空が薄暗い青に染まりかけたころ、ぐーさんが到着した。

 ぐーさんは俺に一言「遅れてすまなかった」とだけ言い、雑貨の中から軽々と男を引っ張り上げて連行した。

 男はぐーさんに連れていかれる時も全く抵抗しなかった。なされるがままといった印象だった。実に潔い退場だったが、一度心を交わしたこともあり、何の言葉もなく分かれていく姿を見るのはほんの少しだけ心が痛んだ。

 こうして俺達の二学期は非日常から始まり、これからド派手な非日常が怒涛のように畳みかけて来る......かのように思われた。


 何事もないまま二ヵ月が過ぎた。


「なぁ、こういうのってさ」


「ん? なんですか、佐々木君?」


「これだけ強い幹部を倒したんだから相手も躍起になって強いヤツをバンバン送り込んで来たり、組織との全面抗争になったり、ついに満を持して登場......! みたいな感じでボスがやって来たりするもんじゃないのか?」


 小日向さんが頬に人差し指を当てながらんー、と唸っている。

 いつ見ても可愛いな、やはり天使であったか。

 やがて何かを思いついたようにポンと掌を叩いた。


「強い幹部を倒したから警戒してるとか?」


「......一理ある。一理あるがなぁ......」


 そう言うことではないのだ。

 この......流れみたいなものがあるではないか。

 漫画やアニメとかだと、佳境に入ったなら一番の盛り上がりまで一直線に突き進むみたいな。


「まぁ、現実はこんなものだと思いますよ」


「......それもそうかぁ」


「それに何も無いのが一番良いじゃないですか。」


 それもそうである。

 俺はなんだかんだ言いながら大きな革命を起こして自分達のチートについて世界に知らしめてやろうとは思わないし、自分達がこの学校を救ったのだと言いふらすこともない。

 こんな平穏無事な小日向との高校生活を一日でも長く続けていたいと思うし、

 そんな言葉を聞きながら、自分達の日常なんてこんなものである、と一人でどこか納得した。


--------------------


「そろそろ話したらどうなんだ」


 そこはとても薄暗い部屋。

 中には俺と俺を捕まえた男の二人だけ。しかし、この状況を見るにあの壁の向こう側からは俺の事が見えるようになっていて、今も誰かが俺の姿を除き見ているのだろう。

 まるでドラマの中のような光景だが、色々な闇が暴かれる現代ということを鑑みると、この部屋は少々......暗すぎる。

 こんな場所が現代の日本にあったのかと本気で驚いている。それほどまでにこの部屋は外界と隔絶されていた。

 そして人目に触れてはならない場所であるということを隠そうともしない。


「話すって何をですか」


「しらばっくれるな。お前が真理の探究者の幹部の一人だということは調べがついているんだ。だが、真理の探究者についてはまだまだ情報が少ない。残りの構成員及び幹部の数を洗いざらい教えるんだ!」


 ボロ衣の男――とは言っても、今はもう囚人服に着替えている――はその言葉を聞いて、フンと鼻を鳴らした。


「自分から知らないって言ってる相手に情報を与える真似をするわけないじゃないですか。それに俺、そんなこと話したら殺されちゃいますよ」


「ここは能力犯罪者を世間から隔離するための監獄だ。ゆえに、ここでお前が何を話したか、そもそもお前の身柄がどこに消えたのかすらお仲間は分かっていないはずだ。お前の罪は重すぎる。どうせここから出ることは出来ないだろう。なら、少しでも沢山の情報を話してもう一度外の世界に出られることに賭けた方が良いとは思わないか?」


 目の前のガタイの良い男(おそらく身長230cmはあるだろう。初めて見た時はバケモノか何かだと思ったよ)は心からそう思って俺を諭そうとしている。

 俺ははぁーっと長いため息を吐いた。


「あのねぇ。頭では分かっているんですよ。ここが真理の探究者達からも知られていないだろうってことは。現に俺達幹部もここの存在までは突き止める事が出来なかった。一体どんなセキュリティ張り巡らしてんのか分かったもんじゃない。でもね、違うんですよ」


「違うって......何が?」


「頭では分かっていても、妙な確信があるんですよ。もしも情報を話せば、アイツらはそのことに気づいて俺を殺すだろうという確信が。こればっかりは理論とかそう言うのじゃないんですよ。だって理論で片付けられないのが俺らの能力でしょう?」


 ガタイの良い男は俺の話を聞いて――笑った。

 何がおかしい?

 俺は眉をしかめる。


「お前達にとって能力は理論では片づけられないかもしれないが、政府は......というか俺達はある程度この能力についての知識を持っていて、色々な不可思議な現象を作り出すことに成功している」


「......何?」


「現に俺は能力者じゃない。能力は使えるけどな」


「だったらお前は何者なんだ」


「あー......魔法使いと言ったら信じるか? 別にステッキを使ったり気持ち悪い物を触媒にして魔法を使う訳ではないけどな」


 魔法使い?

 この筋肉バカみたいな恰好をした男が魔法使い?

 おおよそ殴ることしか出来なさそうなのに。


 でも。

 何故か信じられる気がした。

 そう思わせる現実味がこの男にはある。

 得体のしれない何かをこの男は隠し持っている。

 得体のしれない何かを相手にしてきた俺だから言えるのだ。


「......分かった。真理の探究者の幹部たちについて話そう。とは言っても俺だって幹部連中の能力の詳細は知らないし、幹部の奴らも俺の能力の詳細については知らないんだ。まぁ、俺が一番弱いってのは分かるけどな」


「どうしてお前が一番弱いんだ? お前だってそいつらと同じ幹部なんだろう?」


「俺は調停役も兼ねてるみたいなところがあったからなぁ。幹部の奴らはまともにコミュニケーション取れないどころか、普通に日本語話すのも危ういところあるし、他人のことはゴミ同然としか思ってないからあいつらだけじゃ会議進まないんだよ。だから俺みたいなのが一人は必要だったってわけ」


 俺がそう言うとガタイの良い男は頭にクエスチョンマークを浮かべた。

 おそらくアイツらを見ていないので想像がつかないのだろう。

 本当に人間を辞めた者達のたたずまいを。


「アイツらは理性もなければ欲望に歯止めをするということもない。それでいてそれを成し遂げられるだけの力がある。バケモノだよ。正真正銘の、な」


 ゾッと空気が凍てついた。


「じゃあせいぜい頑張れよ。政府の犬さん。バケモノvs魔法使いなんてファンタジー感があって素敵じゃねぇか」


「......あぁ。昔を思い出したよ」


「......は?」


 ガタイの良い男はそれだけ言うと部屋を立ち去った。

 結局その「昔」とやらが何なのかを聞くことは出来なかったが、ボロ衣の男は自分達以外にも社会から隔絶された闇があることを知り、世の中はどうやらそんな闇がまだまだ溢れているらしいということを理解するのだった。

 ぐーさん、やっぱり謎の多い人物ですね。

 ともあれ次からは新しい話になります。

 どんな話になるかは乞うご期待です!

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