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冷静さを失えば必ず負けるのだ

 敵が能力を解除すると同時に現れた生徒たちは皆それぞれ違う制服を着ていた。

 俺が呼んだ黒狼団の強力な助っ人たちである。


 強力とは言っても彼らにはチートが無く、一般人となんら変わらない。

 だが、だからと言って何もできない訳ではない。それに危険を承知でここに集まってくれているというだけで心強い。

 それに彼らにしてもらいたいのは戦うことではない。


「フェンス? ......なるほど、確かにこれがお前らの出来る最善の一手だな」


 助っ人たちはその手にフェンスを持ちながら自分達を取り囲んでいる。


 これはうちの学校の金網フェンスである。

 このフェンスの材質はステンレス製であり、ステンレスは人の体よりも電気が通りやすいので電気が逃げていく。

 車の中にいる時に雷が車に落ちたとしても人間に感電しないのは、電気が通りにくい人間よりも電気が通りやすい車を通り抜け地面に伝わるからなのだとどこかのテレビ番組で言っていた。


 つまりはそれの応用である。

 このフェンスで敵の周りを取り囲めば、敵は電撃を周りに放つことが出来ない。

 相手の攻撃手段を一つ封じたことになる。


「でもなぁ......俺、気づいちまったんだよ。傘差し女の能力の穴によ」


 俺は一瞬ドキリとした。

 もしかして、誘導の能力は強く念じれば乗り越えられるということに気づいたのか?

 まだそこまで強く念じるような状況にはさせていないはずなのだが。


「今、この壁を消したことで気づけたんだよ。それまでも催眠ヤローの視線を躱すために壁を作り続けられたことに。つまりこの能力は俺の能力全てを無効にしてるわけじゃない。お前の攻撃を打ち消さなきゃいけねぇことは変えられないみたいだが、それ以外の事も出来る。完全に拘束されたわけじゃない」


「......そうだな」


 どうやら杞憂に終わったらしい。

 それぐらいは気づかれると思っていたし、誘導の能力にそこまで期待はしていない。長期的な拘束力は誘導の能力にはない。


 想定内だ。

 むしろ理想とも言える。


「電撃を止めるために周りに人を呼んだのは良いけどよ、お前が俺の攻撃を止められないことが分かった以上、周りに居るのは危険なんじゃないのかよ。お前に止められるかよ。俺の能力が使えないならお前はただの一般人だよな?」


 畳みかけるように言葉を浴びせかけて来る。

 まるで煽るように正論を投げ、俺の冷静さをそぎ落とさんとする。

 敵の指摘は正しい。

 だが、それが俺の誤算だと思っているのは大きな間違いだ。


「最初に言ったはずだ。俺は仲間に傷を負わせない」


「ならこれならどう――」


「やれぇぇぇっ!!」


 どこからか声が飛んだ。

 それと同時に小石が敵に飛来する。砂粒混じりの小石の山が敵に近づき――動きを止めた。かたりと音を立てて地に落ちる。

 目標までたどり着いた(つぶて)は一つとしてなかった。

 だが、その礫の意味は相手には伝わっていた。


「守らなければいけないのは俺の攻撃だけじゃない。『全ての攻撃』をお前は相殺しなきゃいけないんだ」


 敵は自分の手を握ったり開いたりして感触を確かめている。

 どうやら自分の手が勝手に動いて攻撃から身を守ったことに半信半疑なようだ。

 そして指をパチンと鳴らし、周りから世界を隔絶する。


「すべての攻撃を楽に受け止めるためには壁を作れば良い」


「でも壁を作ってしまったら周りの状況は分からないし、空気を震わせて振動を外に伝えることもできない。だがお前はそうせざるを得ない」


 男は額に血管を浮き立たせる。

 だんだんと男から冷静さが失われている。彼も段々と気が付き始めているのだ。

 自分が俺の掌の上で踊らされていることに。


「だからどうした。お前に何かできるのかよ! ただの一般人がよ! 何も出来ないダメ能力者が図に乗るんじゃない!」


「いや、そうでもないさ」


 男は眉間に皺を寄せる。言っている意味が全く分からないらしい。


「お前が居る事によって、俺はお前のチートを発動し続けることになる。これは俺にとってかなりのアドバンテージでな。チートを発動している人間がかなり近くに居たとしてもその位置さえ把握していればそのチートを発動せずに済むんだ。例えば俺がチートを発動したのを合図にチートを解除してくれ、とかな」


 俺はいつも必ず種明かしをする。

 それは相手の心を揺さぶるためだが、それで計画が破綻しては元も子もない。

 種明かしをする時はその計画が成功するときだけだ。


 刹那、視界が真っ白に染まる。


「雨姫ぇ! 解除だ!」


「うん......!」


 自分の手前に現れた雨姫と共に現れたのは数多の雑貨だった。

 どさりと相手の頭上に黒板消しやら学生カバンが覆いかぶさり、下半身をホールドする。

 それらには殺傷能力はない。

 しかし、動けない。


 俺は座禅から立ち上がろうとする雨姫に手を添えた。


「頑張ったな」


「ただ隠れただけだし......大丈夫」


 男は何とか抜け出そうと雑貨に手をかけるが、うまい具合に挟まって中々抜けないようだった。


「雨姫の能力が異空間に引きこもることだというのは知っていたよな。雨姫はそれが自分の持ち物だと認識さえすれば、異空間の中に何でも持って入ることが出来るんだ。今回はそれを利用してお前を罠に嵌めさせてもらった」


 このこと自体は前にゲームの世界に入った時に実戦で使った物である。

 あの時は手榴弾で爆破した壁の位置を変えるという派手な技だったがこういう応用も出来るのだ。


「ククク......ハハハハハ! 舐めやがって!! こんなので罠に嵌めたつもりか? 自由を奪ったつもりか!? いいさ。全部、全部、どうでも良い! 学校も何でも吹き飛んじまえば良い! 流石に罪もない人間まで殺すのはどうかと思っていたんだが、もうどうにでもなれ、だ!」


 下半身が埋まったまま男は笑い出す。

 タガが外れたようだった。

 男の周りの雑貨がカタカタと震え始めた。


「吹き飛んじまえよ! ダメ能力者ぁ!!」


 雑貨が暴発した。

 カバンが勢いをつけて中身をぶちまけながらこちらにやってくる。学校の備品が形を変えながら宙を舞った。


 その光景を見ながら俺はため息を吐いた。

 相手は冷静さを失っている。それは戦略で戦っている時に決して失ってはならないものだった。


 そして勝利を確信した。


「お前の負けだ」


 わずかなラグとともに世界は静寂を取り戻した。

 空気の壁は消え、宙を舞った雑貨は地上に鎮座し、目の前のカバンはその位置から姿を消した。

 敵の混乱と共に怒号のような声が響き渡る。


「抵抗する事を禁止する! 動くな!」


 後ろからは生徒会長の声、目の前には見慣れた女の子。


「少しは役に立ちましたか?」


「お見事だ、小日向。完全勝利だよ」


 敵はまだ理解していないだろう。

 目の前で何が起こったのかを。

 劇的で鮮やかな敗北の味を。

 俺はこうも上手く計画が思い通りになったことに、内心、安堵を隠せずにいた。

 そして相手も待ち望んでいるであろう種明かしをすることにした。

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