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相手の裏をかき続ける

「答えろ! 俺の体に何をしやがったんだ!?」


「さぁね」


 目の前のガキがニヤリと笑った。

 どうやら当たりみたいだ。俺の体は既に何かをされている。


 だが一体何をされたんだ?

 ここまでに何かする隙があったか?

 俺の認識を狂わせているとするならば、あの生徒会長の能力が考えられる。

 今も視界の端でうろちょろしているアイツの能力だ。


「お前は引っ込んでろって言っただろうが!」


 空気の壁を周囲に張り巡らせる。視界からヤツの姿が完全に消えた。

 これでアイツは俺に手出しができない。

 この中は俺と佐々木の二人きりになったという訳だ。


「催眠能力のせいで今の認識が狂った。そう思っているのか?」


「......いや、違う。そうじゃないはずだ」


 俺にはそう言い切れる根拠がある。

 それは相手の催眠能力が「目を合わせて催眠したい内容を言わなければ発動させることができない」ということを知っているからである。


「もしも不意打ちで催眠をかけられてそのことが起こった記憶を消されていたら?」


「それはない。仮に不意打ちをされたとしても一瞬でも猶予があれば反射的に壁は張れる。そもそも視界に入ったことを俺が認識していなければ催眠にかけることはできない。はるか遠くから望遠鏡で見ながら催眠をかけようとしてもそれは出来ないってことだ。だからあいつが俺に催眠をかけるのはほとんど不可能だ」


「そこまで会長の能力を知っていたのか」


「二年前はこっちも手痛い思いをさせられてるからな」


 二年前というと自分達がここに入学してくる前の話だ。真理の探究者達はどうやら自分達が入学してくる前にもひと悶着起こしていたらしい。


「あの時は催眠能力について深く分かってなかったからな。複数人で倒しにかかったが全員催眠されやがった。俺が言った時には惨憺(さんたん)たる状況だったぜ。『仲間との通信が取れない!』って言いながら仲間同士で血まみれで殴り合ってんだもんなぁ......っと、話が逸れたが俺達はそれから話し合って催眠能力の対策はばっちりってわけよ」


「なるほど」


 そこまで分かっているのに、何故体が思う通りに動かないのかが分からない。

 ここまでに不思議なことなどなかったはずである。


 ここにやって来て佐々木と小日向の会話を盗聴した。

 体育の時間に宣戦布告。

 その後の会話を盗聴。不審な会話はなし。

 昼休憩に敵の突撃を確認し迎撃。こちらの能力はバレるも敵の一人を再起不能にした。

 それからは敵に能力の詮索をされないよう能力の使用を控えた。

 そして傘を差した女と会話して戦闘へ。

 何もおかしな点はないはず......


「女......そうか、女だ......!」


「以外に思い当たるのが早かったな。一時間ぐらいは足止めできると思ってたのに」


 俺はこの戦闘が始まる前に傘を差した女と会話をした!

 どうしてそれを不思議に思わなかったんだ?

 あの女との会話を思い返す。


「俺は最初に女と会った時、『お前は何者だ』と言った。そして攻撃をいつでも出せる状態に身構えた」


「そしてこう言われたんだろ。『別に詮索しなくてもいいじゃない。私みたいな、か弱い女の子に一体何が出来るというの』ってな」


「......ッ!」


 確かに......合っている。

 俺はその言葉を聞いて、その理論で納得してしまったのだ。

 今になって思い返せば、どうしてそんなデタラメな理論で自分が警戒を解いたのか分からない。俺は身構えるのをやめて警戒を解いたのだ。

 そして彼女の言葉に耳を傾けた。


 冷や汗が垂れた。

 とても単純明快なトリックだった。

 どうして自分が騙され続けていたのか。分かってみれば本当に馬鹿らしい。

 俺は最初から相手の術中に居たという訳だ。


「そうか、あの女が......本命だったのか......!」


--------------------


「その通り」


 俺はその答えを聞いてはぐらかすのをやめた。

 これ以上はぐらかし続けても意味が無いと思ったからだった。


 正直、こんなに早くトリックが見破られるとは思わなかった。

 時間稼ぎは長ければ長いほど良かったのだが、そうも上手くはいかないらしい。


「俺が『お前はこの件について知っているのか』と聞いたら、『もちろん。だって私は佐々木君の愛人なのよ。知らないはずがないじゃない。でも別に貴方たちの勝敗についてはどっちでも良いわ』って言ったんだ。それを聞いた俺は、これから起こることに関与しないなら別にどちらでも良いか、と納得した......納得したんだ」


 それを聞いて内心、頭を抱えた。

 最初の質問については大体検討が付いていたので答えを用意したのだが、それ以外の答えについては適当にはぐらかしてくれとしか伝えていなかったのである。あとはボロ衣に伝えて欲しい事を言ったぐらいで、チートについてはララの方が圧倒的に使い慣れているので全て任せたのだ。


 完全に遊んでいる。

 俺が種明かしをすることを知った上でからかっているのだ。

 ララの不敵な笑みが思わず頭に浮かぶようだった。

 これは後で叱っておくべきなのか......?

 頼んだことは上手くしてくれているようだし、怒るに怒れないのだが......


「『ならどうして来たんだ』と聞いたら『少し意気込みでも聞いておこうかと思って』と言った。俺が『勝つに決まっている』と言ったら――」


「『そう、なら本気でやりなさい。そして力の違いを見せつけてやりなさい。例えば攻撃を相殺し続けるとか』だろ?」


 相手の顔が青ざめた。

 どうやらからくりに気が付いたらしい。


「そうか......相殺か......合点がいったぞ。つまりお前が攻撃を止めていると思っていたが、実際のところはお前の攻撃に俺が無意識に反応して攻撃を相殺していたわけだ......そして俺はその事実に気づかないように思考に枷をかけられていた。そういうことなんだろ?」


「そうだな」


 だが実際は少し違う。

 ララのチートは『誘導』。相手の思考にバイアスをかける――つまり、「こうしたい」とか「あれをした方が良い」とか思わせるチートだ。

 このチートは言うだけで効果を発動できる反面、相手に反撃の機会が与えられている。

 攻撃をしたいと強く思えばできるようになるのだ。

 つまり、相手がこのチートに反撃が出来るということに気が付いてしまった時点でアウト。他の方法で相手を押さえつけなければならない。

 幸いそのことにはまだ気が付いていないようだ。


「生徒会長は俺に何もされていないと思わせるためのフェイクだった。そう言うことだな?」


「いや、それだけの為に呼んだわけじゃない」


「何?」


 それだけの為に生徒会長を呼ぶはずがない。


「そう言えばここからは外の様子が見えないが、一体どうなっているんだろうな?」


「......ッ! まさかッ!」


 ボロ衣はパチンと指を鳴らしながら壁を取り払った。


「これは......」


 そして十数人の学生に取り囲まれていることに気が付いたのだった。

 いやー、良いですね! 主人公が輝いている姿を見るのは気持ちが良いです!

 超久しぶりのララの登場(多分一年くらい)ということもあって、考えてみればこのシリーズも長いものだなぁとしみじみ......

 これだけ長いと前に登場した回を探すのが少し手間取ります。いい加減、章分けの一つでも作ったらどうだという声が飛んできそうです。

 作るか......めんどくさいな......

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