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そして相まみえる

「おぉ! ジャッジマンよ! 貴君が瞑想にふけっていると聞いて、飛んで参ったぞ。魔王の13番目の落とし児である我の名を呼んだということは、よほどのことがあったのであろう! 要件を申すが良い!」


「昔の黒狼団のメンバーに『危険が迫っている。放課後に来てくれないか』と呼び掛けてくれ。危険について詳しく説明する暇はないが、かなりデカいとだけ言っておいてくれ。それで来れないと言われたのなら別にそれでいい。来る覚悟のあるやつだけ集めてくれ。集合場所は校門前。良いか?」


「皮肉無しとは相当切迫しているようだな......よし、分かった! これから出来る限りの奴らに電話をかけて来るぞ! ......授業中にかけるのはとてもマズイ気がするがな」


「制服にマントつけて歩いてる方もどうかしてると思うわよ」


 保健室の先生が皮肉を言うのを聞き流しながら、俺はまた自分の世界へ戻った。


 誰が応じてくれるかは分からないが、これで俺が働きかけることは全てした。

 生徒会長は来ると応じてくれた。

 ぐーさんは16時に行くことはできないが、19時までには行くと言っていた。


 少ししてオルクスが戻ってきて、来ることが出来るメンバーを伝える。

 ピースは全て出そろった。

 ここからピースを組み立てて一つの完成系を作る。

 どのように転んでも勝てる方法を編み上げる。


 しばらく瞑想し、頭をフルに回転させた。

 そして一筋の光明が見えて、目を開けた。


「今、何時だ?」


「15時40分、大体一時間半ぐらいでしたね。勝つ方法は見つけられましたか?」


「あぁ、勝つよ」


 俺は手短に小日向に指示を飛ばして時間が来るまでの間を少し待つ。

 そこでようやく保健室の先生が自分を見ていることに気が付いた。


「凄い集中力よね。それが真面目なことに生かされればどれだけ良い事か」


「それだけやる気が持てばいいんですけどね。俺のやる気スイッチはそこまで我慢強くないんですよ」


 高校に入りたての頃は誰かに押してもらわなければスイッチが入ることはほとんどなかった。

 しかし、この頃はやる気スイッチを押すことがそこまで難しいと思わなくなった。 

 これもちょっとした成長なのだろうと思っているが、自分の力だけで成長できたわけではない。おそらく小日向のおかげだと思う。


「やけに謙遜するじゃない。あんだけ人から頼ってもらうなんて、そうできないことだと思うけどねぇ」


「それが自分の役割だからですよ。それに――」


 これからが勝負なのだ。

 俺の作戦で他人が傷つくかどうかが決まってしまう。

 これまでが成功したから今回も成功するとは限らない。


「それに?」


「そろそろ行きます」


「......ちゃんと無事に帰ってくるんだよー」


--------------------


 保健室の扉が閉まり、白衣をたたみながら先生はため息を吐く。


「もうちょっと会話らしい会話をしろっちゅうに」


 ベッドには大けがの生徒。

 それだけの怪我を負っている生徒を見たにも関わらず、その相手にまだ向かっていく佐々木君と彼らの友達。

 尋常じゃない。

 チートの能力が常識外れとかそう言う話をしているのではない。


「もしも能力を彼らが持っていなかったら、か。言ったとしても彼らには酷なだけなんだろうけど」


 能力を持っていなかったら。

 もっと普通の恋が出来たかもしれない。

 あそこまでひねくれた正確にならなかったかもしれない。

 皮肉を含まない普通の会話が出来たのかもしれない。


 それらはすべて大人の立場で色々な性格の生徒を見て来たから言えること。

 彼らは大人になってからそんな後悔をするのかもしれない。

 でも今は彼らの力ではどうすることも出来ない。

 結局そんなもんなんだろうと思いながら、


「彼らにはもっと普通の高校生活を送ってもらいたいもんだけどねぇ」


 そんなつぶやきを残すことしか出来ないのである。


--------------------


 体育館裏に向かう途中、真っ黒な日傘をさした少女とすれ違った。

 少女は俺にニヤリと笑う。


 どうやら計画は順調らしい。


 体育館前で生徒会長が腕組みをしていた。


「やっと来たのか」


「時間ぴったりに来たつもりですが」


「大事な時には5分前に来るものだろうが」


 俺は生徒会長を連れて体育館裏に出向く。

 二人分の足音だけがザッザッと乾いた音を立てていた。

 角を曲がれば約束の場所。

 そこにはボロ衣の男が居た。


「......一人で来なかったってことは約束を破ったってことで良いんだよなぁ?」


「あぁ。元から加担する気なんて無いからな」


 男は生徒会長に目を移し、わざとらしく顔をしかめた。

 そして舌打ち。


「厄介なのを連れて来やがって」


「俺のことも知っていると見える。勉強熱心なのは良い事だ」


 男は目を合わせないように目を伏せた。

 どうやら目を合わせれば言うことを聞かせられる催眠能力ということも知っているらしい。

 だがそんなことは俺の能力を知っていた時から想定していたことだ。


「でもお前らで何が出来る? 俺の攻撃を止められるか? 俺がその気になれば今にだってこの学校を粉々に壊すことぐらいはできるんだ」


「させないし出来ない。俺にはお前の攻撃を止められるし、お前は俺には勝てない」


「あ゛?」


 ドスの効いた声で脅しをかけて来る。

 だが、その声の中には確かに動揺のようなものもあった。


「お前は劣化コピー能力者だろうが。第一、お前が俺の能力に辿り着くなんてことは」


 男がピクリと眉を動かした。

 相変わらず勘の良い男だ。


「お前、気づいたな?」


「お前のチートは『特定の物に波の動きをさせること』だろ?」


「......そそるねぇ。ヒントを漏らしすぎたかい?」


 だが、と付け加える。


「俺の能力は分かったところで素人が扱える物じゃねぇ」


 その言葉には確信があった。

 絶対に自分の能力は他人が使いこなせるものではないと。

 例え劣化コピーが出来たとして、それを使って俺をどうにかすることはできないと。

 この能力には特殊な発生条件がある。そのことまで知っているはずがない。

 まして、攻撃の波を防御の波で打ち消すなんてこと、俺でも至難の業である。

 それに劣化コピーなら、自分のできる最大火力をぶつければ良い。そうすれば、相手はどうやっても打ち消すことはできないだろう。

 見たところあの肉体強化能力者は居ないようである。

 当然だ。あれだけの手傷を負わせれば、普通は立つことさえできないだろう。

 この学校に居るのは『劣化コピー野郎』『催眠生徒会長』『高速移動女』『異空間引きこもり』そして『肉体強化ムキムキ男』の五人の異能力者と聞いている

 ならば、自分の能力に勝てる人間は誰一人としていない。


「大口を叩くのもいい加減にしろよ。流石にキレるぞ」


「俺は嘘は一つも吐いてない。お前に攻撃はさせないさ」


 佐々木は拳を握りしめる。

 ボロ衣もまた拳を握りしめた。


「おぉぉぉぉぉぉ!!」


 二人の視線、拳と拳、交わり空間を歪ませる。

 空気が躍った。


 ピタリと止まった拳。腕に衝撃すら伝わらない。

 何も無かったように空間は静寂を取り戻す。


「......止めた、だと? 俺の拳を。能力を......」


「言っただろ。嘘はついていない、と」


 男の額から、初めて冷や汗がたらりと流れた。

 何があったんでしょうか!? 佐々木君がボロ衣の拳を止めています!

 まさか、相手の能力を会得したんでしょうか? そんなことが出来るのでしょうか?


 本格戦闘は次回からです。

 ドラゴンボール並みの引き延ばしだなんて言わないで下さいよ!

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