自分と向き合いつつ打開策を探れ
対策を考えるときに一番大切なのは、自分達に何が出来るのかを理解することだ。
「相手のチートは大体分かったんですよね? コピーはまだできないんですか?」
「今はダメチートが発動していないんだ。おそらく自分のことが予定外に沢山知られてしまったから、俺にこれ以上情報を与えることを恐れているんだろう。だから俺がダメチートを使えるようになったかは分からない」
これは今の自分達にとって非常に歯がゆい事だった。
相手の能力を模倣することが出来るかどうか分からないということは、それを対策に組み込んで土壇場でアテにしてはならないということだ。
つまりいつもに比べて選択肢が減っている。
あれだけ油断していた相手をここまで本気にさせたことについては「してやったり」という感じだが、ここまで警戒を高められると本当に倒せるのかが不安になる。
「では改めて、こちらの出来る事の確認を」
「はい」
俺は頭に考えられるだけの手駒を数える。
「まずは小日向さんの時間停止。雨姫の異空間ひきこもり。これらは頼むのも容易だし、アテにして良い。次に生徒会会長の催眠能力、受け入れてもらえない可能性もあるが多分大丈夫だろう」
「あの人に頼むんですか?」
「あれから色々あって頼みごとが出来るぐらいには和解したからな」
そう言えば、会長と和解した件について小日向はあまり知らないのだ。
というのも会長の妹であり同じクラスメイトでもある原田千歳さんと色々あったことを小日向に話すのが気が引けるのではなしていなかったのだ。
だが、秘密にするのはもうやめだ。
どこかから話が広がって伝わるよりも自分で話した方が良い。今回の件で懲りたはずだ。
「生徒会長と和解した件なんだが実は――」
俺はことの経緯をつまびらかに話した。
時々彼女はしかめ面になっていたが、おおむね受け入れてくれたようだった。
「それで会長とは和解したんだ。仲直りとはちょっと違うような気もするがな」
「そして原田さんの心をわしづかみにした、と」
「そんなに仲良くなったつもりじゃないが......気分を悪くしたか?」
「いーえ! 秘密にされ続けているよりよっぽどマシです!」
ぷくーっと頬を膨らませながら不服そうにしている。
こうなるのが嫌だったから俺は話さなかったのだ。
まぁ、隠し事をしないという取り決めをした直後である今ならどんな隠し事を話したところで許してくれるだろうが。
「あと力を借りれるとすれば、黒狼団の奴らだろうな。どれだけの人間が来てくれるかは分からないし、連絡先を持っているのは田中だけだから、俺だけではどうにもならんが」
「田中......さん?」
「......オルクス=ルシフェノン(笑)だ」
「あぁ! あの人! そう言えばそんな名前でしたね」
あの名前を使うのは気が引ける。どうしてあんな恥ずかしい名前にしてしまったのか、とジャッジマンの俺が言うのも何であるが。
「あと援護を頼めるとすればぐーさんか」
「あの大人の人ですか? 確か佐々木君の師匠なんでしたっけ?」
「そういうことに......なるのかなぁ......あの人、結局よく分からない人だからなぁ。ただ頼りにして良いのは事実だ。社会人で突然の呼び出しに応えられないこと以外はとても頼りになるからな」
超人的身体能力、武術の天才、しかもそれがチートではなくチートは別にあるのではないかとされている。
聞く話によると政府の何かの機関で働いているとかいないとか。
チーターを相手にする警察もどきにも知り合いがいるらしく、一言で言い表そうとするならばめちゃめちゃやばい人である。
敵に回ることはないだろう、というのが一番の救いである。
「これで大体の手札についての確認が終わったな」
改めて思う。自分には手札がこれしかない。
この中から適切なものを選んで相手に必ず勝てるムーブをしなくてはならない。
手順を整え、相手の出来る事を掌握し、100%勝てる戦いをしなければならない。
そして相手と同じ殺戮者にならないために大切なことがある。
相手を殺してはならない。
必ず生きたまま捕らえる。
これは俺に課した枷であり、俺がチートを戦闘の道具として扱うことを自分に認めさせるための口実でもある。
よって絶対に破ってはいけない。
それを踏まえた上で打開策を考える。
これ以上の策がない至上の方法を。
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「始まりましたね」
私は目を瞑ったまま微動だにしない佐々木君の姿を見ながらつぶやいた。
「ねぇ、いつもこんなことしてるの?」
「そうですよ?」
保健室の先生がうんざりしたようなまなざしで見つめて来る。
最初の頃の私もこんなのだったのかもしれないと思いながら笑い返す。
「しっかし大変だねー、小日向ちゃんも。こんなことに付き合わされても、訳も分からないまま頷いとくぐらいしかやり過ごす方法なんてないでしょ」
「それで佐々木君の考える助けになるなら、それで良いですよ」
「小日向ちゃん、佐々木君のこと好きでしょ?」
「え?」
表情が固まった。
保健室の先生は好奇の視線を向けてくる。
「佐々木君のこと好きでしょ?」
「別に佐々木君のことをまだ好きになったわけじゃなくって! というか好きになるかもしれないってだけで、別に可能性は皆平等と言いますか」
「えー、好きでもない男の難しい話なんてニコニコ聞いてらんないでしょ。セールスウーマンじゃないんだから」
私はベッドに横になっている新崎君の方を確認した。
気持ちよさそうに寝ている。
こんな事態だというのに能天気というか、それだけ信頼が厚いのか。
ともかく今は寝てくれていてほんとによかった。
「保健室の先生ってね、色々相談受けるから分かるのよー。恋愛相談なんかも十八番だから。この道何十年ってやつだから。だから分かるのよー。恋する乙女の目ってやつが」
「あの......」
頭の中で色々な考えがぐるぐると回っていた。
佐々木君は人間として好きだけど、この気持ちが恋かと言われればまだ恋だと認めたくないような気持ちもあって、別に嫌なところがあるわけではないのだけれど、何故恋をしているのかはっきりとしないというか......
「まぁ、頭の中で整理がつかないこともあるからねー。頭じゃなくて恋は心でするものなんだよねー。私ももう少し早くその境地までたどり着いてればなー。あー、青春、青春」
恋は心でするもの......
確かに私も恋をしたことはある。
その子は比較的イケメンで運動神経がとてもよかった。
周りの子も好きだと公言していて、かなりファンが多くて、私もそんな男の子を好きになることに抵抗はなかった。
でも佐々木君はそうじゃない。
どこかぱっとしない感じなのに、時々えらそうだったりする。
そんな彼を多分好きになってしまったことに間違いはない。だけどちょっと釈然としないのだ。
そんな私を見て先生はポンポンと背中を叩いた。
「がんばりな、少女! 私は上の方から応援しているよ!」
「でも先生独身でしたよね?」
「私は独身貴族だから! 私は!」
ちょっとやり返した気分になれて嬉しかったが、それとこれと話が別で、心の中に佐々木君に対してのとらえようのないモヤモヤは未だ残ったままだった。
小日向さんも佐々木君もそれぞれ大変ですねぇ。
まぁ、筆者も筆者で大変ではあるのですが......
ホラ、倒し方とか考えなきゃだしね(メタ路線)