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敵のチートが分からない

「では、相手の能力について推理しましょう」


 俺が本題に入ろうとすると、保健室の扉がガラガラと音を立てて開いた。

 かなり緊迫した足音だ。

 どうかしたのかと思っていると保健室の真っ白なしきりが勢いよく開いた。


 相手と目が合った。

 そして俺は目が合った瞬間にこの少女が急いでいた意味と自分が犯したミスについて理解した。


 小日向だ。


「大丈夫なんですか! 保健室に居るって聞いて心配でッ――」


 まくしたてるように言葉を吐いた後、言葉が喉に詰まったかのように口をパクパクとさせる。

 彼女のかぁっと頬が赤くなる。

 どうしたのかと思って目線の先を見ると、そこには上半身裸体のイケメン男子が。

 全身に消毒を施したままになっていたのだ。


「しっ、失礼しましたッ!!」


 再び真っ白なしきりが彼女との間を遮った。


 しばらくの沈黙。


 もうそろそろ声をかけた方が良いのだろうかと思い始めたころ小日向さんの方から声がかかった。


「すみません。取り乱してしまって」


「いや、こちらの方こそすまん。心配をかけた。ちゃんと報告に行くべきだった」


 今の時間は1時30分。

 もう昼休憩も終わり、校内の掃除が始まっている頃だろう。


「先生から佐々木君たちが保健室に行ったと聞いて、もしかしたら大けがでもしているんじゃないかと、心配になって......」


 保健室の先生が脇を小突く。

 そして口を耳元に近づけた。


「こんなに心配してくれる可愛い女の子がいるなんて幸せ者じゃない」


「彼女もチート使いで内情を知っているというだけですよ」


「なんだ、つまらん」


 つまらんとは何だ。

 とりあえず小日向がもう開けて良いかを確認するようにしきりの裾を引っ張り始めたので、傑が上着を着たのを見て、どうぞと許可を出す。


「実際、傑君は大けがだったけどね。ホントにチートって言うのは凄いよ」


「えっ」


 小日向が駆け寄ってくる。

 今度は彼女が口を耳に寄せて来る。


「話しちゃったんですか?」


「話しちゃった......そうするしかなかった」


「まぁ、佐々木君が言うならそうするしかなかったんでしょうけど、なんか複雑ですね。身内の秘密が他の人にバレちゃったみたいで」


 そう言いながらいじける小日向。

 ......やっぱり可愛いな。何をどうしても可愛くなるのはやはり美少女の特権であったか。


――気を取り直して。


「それでは相手のチートについて推理を始めたいと思います」


 和やかだった空気が張りつめる。


「まず、相手のチートで最初に分かっていたこと。それは見える景色を変えることが出来る事。音を遮断したり、良く聞こえるようにできる事。電流が出せる事でした」


「全く共通点がありませんでしたよね」


「そうだね」


 俺は先程の光景を思い出していた。


「ここに新たに起こったことを加えます。まず、空気に透明な弾力のある壁が出来ていたことが分かりました。おそらくこれが外からの音を遮断したり、見える景色を変えていたのだと思われます」


「弾力のある透明な壁ですか......? どんな感触だったんですか?」


 その質問には傑が答える。俺はそれに直接触れてはいないからだ。


「んー、なんかゼラチンみたいな感じだったぞ。でも押さえれば押さえるほど弾力が出てきて、破るのには相当に力が要るな。でも破れるっていっても何か違うんだよな」


「と言いますと?」


「壁みたいなものが砕けるっていうよりは、不意に壁が無くなったような感じなんだよ。俺が思うにチートの効力が解けたんだと思うな」


 なるほど、と小日向が頷く。

 そんなに得体のしれないものだったのか、と俺でも驚いているぐらいだ。先生はぽかんと口を開けていた。


「次に、相手の攻撃を防ぐ壁も作れる事」


「それは前の壁と同じだな。めちゃめちゃ弾力があった」


「そんなに耐久力があったのか。よくお前壊せたな」


「あの壁、物理法則とか無視してるんじゃないかと思うんだよなぁ。何となくだけど」


 チーターの能力であればよくある話だ。

 それが能力であれば厄介極まりないのだが......


「そして、相手は地面に手を着いた時、地面をトランポリンのようにさせていた」


「アレはめちゃめちゃ嫌だな。肉体強化でもどうにもできなかったぜ。姿勢の制御が全部狂う」


「地面がどんな風に変わっていったんですか?」


「例えるなら、地震みたいな感じだったな。土の波がぐおーって来る感じだった」


 地震か。

 確かにその表現が一番しっくりと来る。地面を波が伝わってくる感じは、まさしく地震と言って差し支えなかった。


「もしかして」


「どうした、トシ?」


「あれを大規模に行ったとしたら、大きな地震が起こせるんじゃないか? それが出来るとしたら、この学校を破壊する威力になり得る......」


「ハハハ、そんなまさか......冗談だよな?」


 傑の顔が引き攣った。

 個人のチートでそこまでできるはずがないと思ったのかもしれない。

 だが、傑には話している。敵から言われた言葉を。


「もしかして、敵の言ってた『この学校を壊すことも出来る』って言うのは......」


「このチートの事かもしれないな。はっきりとした確証はないが」


 俺達が顔を真っ青にする中で、一人、話を受け入れていない人が居た。


「何ですか、それ......私、そんなこと聞いてないですよ......」


「ごめん、小日向。隠してた」


 俺は若干目を逸らしながらそう言った。

 彼女を混乱させないようにと自分だけで秘密を抱えたのがここで仇となるとは思ってもみなかった。

 小日向は俯いて色々な事を考えた後、悲しい目をしながら言った。


「別に今はそれについて問い詰めないことにします。でも、これからは私にも話してくれると嬉しいです」


「......分かった」


 言葉遣いこそ優しいものだったが、そこには人をたじろがせる凄みのようなものがあった。

 これが終わったら愚痴でも何でも付き合ってあげようと思った。


「最後のチートだが、相手の体がたわんだ」


「たわむ?」


「相手の体がまるでゴムみたいになって、俺の拳を飲み込んでいったんだ。そんで、衝撃が全部飲み込まれていったんだ。あの時ばかりはビビったぜ」


 俺も端から見ていて目を丸くした。

 衝撃吸収。

 あんなものがあるなら、物理的な攻撃は全て効かないといっているようなものではないか。

 真理の探究者の中にはあんなのが山ほどいるというのか?

 末恐ろしい。


「光、音、電気、壁、地震、衝撃吸収。こうしてみると圧巻だな。勝てる気が全くしない。相手は一体何者なんだ?」


 何者か? バケモノに相違ないだろう。


 考えても正体が全く分からない。

 共通項が出てこないのだ。

 相手は「お前には分からない」と言っていた。何かそう言わせる確証があるのだろうか。


「......波」


「へ?」


 不意に先生が口を開いた。

 俺は何かの聞き間違いかと思ってもう一度耳を澄ました。


「それはもしかして波なんじゃないかい?」


「どういう......ことですか?」

 何やら先生が核心に近づきつつあるようですね。

 次回で正体を突き止められるか?

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