表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/307

時として秘密は話さなければならない

 運よく保健室の中に生徒はおらず、保健室の先生が一人で弁当を食べているだけだった。

 俺は中を確認してから傑を中に運び込む。

 先生は傑の体を見てギョッと目を丸くした。


「ど、ど、どうしたのよ!? その体!? きゅ、救急車!」


「呼ばないで下さい!」


「はぁ!?」


 先生はこちらを凝視する。

 真意を確かめるように、というよりは正気かを疑うようにこちらを見つめていた。


「救急車は......呼ばないで下さい。後々、色々と危険な事になるかもしれないので」


「今も十分危険な状態よ? その出血量は命に直結するわ」


「傑は......大丈夫です。今は血を出しすぎて気絶してるだけだから。このぐらいのことはこれまでに何度もありました」


「血を出しすぎて気絶って......死ぬ寸前でしょう。普通に考えて」


 先生は電話に手をかけた。

 ここで救急車を呼ばれてしまえば、傑は間違いなく病院に運ばれてしまうだろう。

 発生する問題は二つ。

 病院に連れていかれたことによって傑のチートが発覚し、病院ではない何か別の所、例えば研究所とかに連れていかれてしまうかもしれないということ。

 もう一つは、真理の探究者のボロ衣男が途中退場だとみなすかもしれないということ。

 そうなってしまえば午後四時までだったタイムリミットが0になってしまう。ボロ衣男が何をするかは分からないが、俺達を見逃すということは無いだろう。俺達は対策をする暇もないまま皆殺しにされるかもしれない。俺達だけで済むのならそれが一番被害が少なく済むというのが恐ろしいところだ。


 だからここで救急車を呼んではならない。

 例え、チートの存在が先生に知られようとも。


「先生、これを見てください」


「何? 新崎くん死にそう?」


 俺は片手で受話器を押さえた。「119」と表示された文字盤が白紙に戻る。

 先生の視界を遮るように傑の腕を出した。


「これ、何が起きたらこんな傷跡になると思いますか?」


 その言葉を聞いて、先生は正気に戻った。

 先生はここまで酷い生徒の傷を見たのは初めてみたいで、とても混乱していた。

 だからどこでどんな時にこの傷がどうやってできたのか、その情報を聞いていない。そしてこの傷がどんな傷なのかも見ていない。


 先生はこちらに目を移すと傑の腕を観察する。


「確かに......これは奇妙だね。外傷の跡もあるが、出血の原因は外傷ではなく、中で血管が引きちぎられたからだ。無理矢理骨を外して引っ張りでもしない限りこんなことにはならないし、そんなことを下にしては傷が少なすぎる。筋肉が引っ付いているのはあり得ない。あのさ、君たち、一体何をしてたんだい?」


 俺は自分の腕を出した。

 普通の腕だ。運動不足の分、普通の男子高校生よりも腕が細い。

 

 対して傑は傷の悪化を抑えるために無意識下でチートを発動している。

 phase3の時ほど腕が太いわけではないが、出血を抑えるために張り出した筋肉のせいでかなりの太さになっている。

 傑がチートを使っているということはつまり。


 俺は腕に力を籠める。

 隆起した筋肉が腕の中でパンパンに張りつめる。

 常識的にはあり得ない大きさにまで膨れ上がったところで俺は力を籠めるのをやめた。

 筋肉は急に萎み、元の大きさまで戻った。


「実は俺達、超能力者なんです」


--------------------


「えーっと? つまり新崎くんは筋肉ムキムキになる能力者で、佐々木くんはその能力の弱いやつをコピーできる能力者で、ここの近くにはもう一人能力者が居てその人に襲われてこんなボロボロになった、と」


「そんな感じです」


「つまり呼ぶのは救急車じゃなくて警察?」


「警察にもどうしようもないですよ。これは俺達の問題です。下手を打つより、相手の裏を突く正攻法じゃないと相手を倒せない」


 先生があんぐりと口を開けたままこちらを見ている。

 どうしてそんな風に口を開けているのか......大体予想はつく。


「君たちは子供なのに、何でそんなに重い物を背負ってるの?」


「分かりません。性だからでしょうか」


 はぁーっと長いため息を吐かれてしまった。

 自分の考えを話すといつも呆れられている気がする。

 だが、先生はそれ以上受話器に手を伸ばそうとはしなかった。


「一応、佐々木君の言う『チート』があることは分かりました。実際に見せられたら私だって信じます。別にこれをどこかに話すということもしません。放課後にその人に会いに行くことも許可しましょう」


「ありが――」


「ただし!」


 先生は俺の鼻に指を突き付けた。

 何事かと戸惑う。


「新崎君は私が許可を出すまでここに放課後に寄ること。それと君や他の人が大けがをすることも許しません。必ず、無事に戻って来ること。良い?」


「はぁ......」


「良い!?」


「はい! はい! 分かりました!!」


 そう言った後、しばらく沈黙が流れた。

 そして時計の秒針の音が耳に響くまで沈黙を貫いた後、先生は分かったと言った。


「それで、新崎君はどうするの? ここだけでは面倒を見ることが出来ないかもしれないわよ」


「新崎は自分で体を治せます。気絶から目が覚めたら、外傷の方は元通りになるでしょう。ただ、血が足りていないので、放課後にもう一度フルパワーを使うのは無理があると思います」


「やっぱり超能力って末恐ろしいのね。何だか頭が痛くなってきたわ」


 噂をすればなんとやら。

 傑が目を覚ます。

 そして周りをキョロキョロと見て、自分がただベッドに寝かされて軽い消毒をされただけということを知り、あることに気が付いたようだった。


「トシ、話したな?」


「相変わらず察しが良いな。病人らしくしておけば良かったんだぞ?」


 それだけ言うと先生に見られているにも関わらずチートを使った。

 外傷は見る見る内に塞がり、多少のつぎはぎのような跡を残して綺麗に元通りになった。


「ほんと、何事も無かったかのようにそんなことをするのね。今度から仮病でここに来るの禁止にしようかしら」


 保健室の先生はずっと頭を抱えていた。

 俺も初見でこんなものを見せられたら同じような反応をすると思う。


「それで、見当はついているの?」


「何がですか?」


「何がって......相手の超能力の正体よ。放課後にドンパチするんでしょう? 自分の事なんだからしっかりしなさいよ」


 どうやらこの先生はもう次のことまで頭が回っているらしい。

 女性と言うのは頭の切り替えの早い生き物である。


「実はまだ見当がついていないんです」


「はぁ? 相手の能力は見て来たのに?」


「何というか、相手の能力は支離滅裂、と言いますか......とにかく分かりずらいんですよ」


 先生がますます顔をしかめた。


「それじゃあ言ってみなさい。相手がどんなことをしたかについて。一緒に考えてあげるから」


「......良いんですか?」


「三人寄れば文殊の知恵よ! 言うだけならタダだしね!」


 俺は周りを見た。

 そして窓を閉め、カーテンを閉め、部屋の中を走り回って誰も居ないのを確認した上で話し出す。


「何かの儀式?」


「そんな感じです。では相手の能力について推理しましょう」


 そして三人の作戦会議が始まった。

 新たにチートについての知識を共有することになった保健室の先生!

 果たして相手の能力を暴き出すことはできるのでしょうか!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ