事件は現場で起きている
「さてと......」
午後一時、昼休憩の真っただ中である。
生徒たちが各々動き出す中、小日向と俺は教室の端に固まっていた。
「それでは行きますよ」
「あ、ちょっと待ってくれ」
「ほえ?」
手のひらを構えて今にもチートを発動させようとしていた小日向は、驚いたように動きを止めた。
「ちょっとやりたいことが出来たんだ」
「何ですか?」
「このままチートを発動して会議をしても、得られる物は多分無い。正直この情報だけでこれ以上考えても意味がないと思うんだ」
「ではどうするんですか?」
俺は窓の外に目を向ける。
そう。
答えはここにはなく、外にあるからだ。
「事件は会議室ではなく、現場で起こっているんだ。ということで、タイムリミットには少し早いが、体育館裏に行って、直接話して、情報を探れないか頑張ってみる」
「そんな!? 危険ですよ!!」
俺は止める小日向さんを尻目に外へと向かう。
「色々考えてみたが、手詰まりだ。危険なことは分かっているが、これ以上このままでどうにか出来ると思えない。このまま手をこまねいていることは、俺には出来ない」
「佐々木君」
「それに何の対策もせずに向かう訳じゃない」
俺はそう言いながら教室の扉を開けた。
そしてそこには体格の良い一人のイケメンが立っていた。
「話し合いは終わったか、トシ?」
「今、小日向さんからの『お許し』を得ているところだ」
「あっはは! それは大変だな!」
彼女に見せつけるように会話する。
それを見ている小日向は苦々し気な顔になった。
「ここまで話が通ってたら拒否できないじゃないですか......」
「ありがとうございます」
俺はうやうやしく頭を下げて教室を飛び出した。
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「良いのか? あんな説得の仕方で」
「仕方ない。そうしないと小日向も納得してくれなかったと思う」
「そうか。トシが納得してるなら別に良いよ」
俺だってあんな強引な方法で納得してもらいたくはなかった。
だが彼女は、俺が危険に身をさらすと知れば、絶対に止めようとするだろう。それは彼女の性と言ってもいいかもしれない。
だからああするしかなかった。
それよりも今は傑と協力して、何か新しい情報を掴むことが先決だ。
「傑、良いか? 俺の姿が消えたら、真っ直ぐに俺の居た方向に突っ込め。その場から姿が消えても俺の実体が消えたわけじゃない。姿が見えなくなっただけだ」
「今さっき、消えたのはそういうことだったのか」
傑が顎をさすりながら納得したようにそう答える。
「それと、相手のチートは俺の姿を消すことだけにとどまらない。相手の話だと、この学校を壊せるだけの力を持っているらしい。どうだ? 耐えられそうか?」
「任せろ。俺も時間はかかるがやろうと思えば学校をぶっ壊すことぐらいできる」
「頼もしいな」
俺は傑の軽口を聞きながら、少し安堵した。
ここで同行を拒否されたら俺にはどうすることも出来ない。
仕方ない事ではあるのだが、俺に付き合わせてしまって若干の申し訳なさを感じる。
「......すまんな」
「俺とお前は運命共同体だからな!」
「その言葉が良い方に使われてるのは初めてじゃないか?」
「ソンナコトナイヨー......と言ってる間に着いたなぁ」
体育館裏、薄暗い。
湿気が籠り、木にはコケがびっしりと張り付いている。
人の気配はしない。
が。
ダメチートが発動している。
そのダメチートが段々と敵の殺意を察知する。
ピリピリと背筋に甘い痺れが走る。
そして、少しずつ、その痺れが強くなり......
「――来るッ!!」
周りの景色が一瞬にして変わり、目の前にボロボロの布を纏った男が居た。
「時間にはなっていないが、仲間になりたくなったか?」
「なりたくない。だが、このまま考えていてもどうしようもない」
「なるほど?」
男がさも楽しそうにニヤリと笑う。
やはりこの男は俺の事をおもちゃとしか思っていないらしい。
「降参する気はない。考えるための材料を得るために俺はここまで来た」
「確かに俺は確定できるほどの情報は与えていない。万が一情報を与えたとしてもそれを解読できるほどの知識がお前にあるとは思えない。実際、俺が自分にできる事を完全に把握したのは少し前の事だった。完全に把握したと思っているだけかもしれないがな」
男はクククと笑っている。
俺に知識がない? どういうことだ。
男の能力は相当変な能力なのか?
いや、変な能力だということはもう知っている。現にここまで一言で言い表せない能力は初めてだ。
男はトントンと地面を指す。
「ここに来たからには、覚悟はできているんだろうな。ここで俺の誘いを断る。その意味がどういうことか分かっているんだろうな?」
「ああ。お前に何をされても文句は言えない。だが、出来る限りの抵抗はさせてもらう」
「強気だ。腹を括ったな? そそるねぇ」
男は手を前に掲げた。
そして指パッチンの音が鳴り響く。
横から衝撃が走った。
だがそれは痛いとかそういうのではなく、抱き抱えられた感触だった。
「肉体強化 phase2『王の盾』」
「遅ぇよ」
「悪い悪い。ヒーローは遅れて来るもんだからさ」
傑が口を耳元に近づける。
俺は息を潜め、慎重にその言葉を聞き取った。
「入る時、すげぇ不自然な感触がしたんだ。まるで空気で壁でも作ったんじゃないかっていうぐらいブニっとした感触。で、それを破るのにちょっと時間がかかった」
「ありがとう。良い情報だ」
俺は敵に指を刺す。
「今度はただ翻弄されるだけじゃないぞ」
俺は一回り大きくなった傑に抱き抱えられたままそう言った。
そしてそれは戦いの始まりを意味していた。
早くも重要な情報? が出て参りました!
考察は捗っているでしょうか? 是非推理してみてくださいね!