敵のチートの共通項を探せ!
パンッ。
乾いた音。
本日二度目だ。
「それで、何か思いつきましたか?」
「小日向は?」
「思いつきませんよ。大体、佐々木君が思いつかないのに私が思いつく訳ないじゃないですか」
「随分と高く買ってくれてるみたいで俺は嬉しいよ」
彼女の時を止める能力は一時間につき一回、中での時間で大体十五分間だけ使うことが出来る。
これからタイムリミットの放課後である午後四時まであと四時間。
つまりこれが使えるのはあと四回。
その間に何か対策を練るしかない。
「でも新しく分かったことが二つある」
「何ですか!?」
小日向さんはガタリと音を立てて椅子から立ち上がり、顔をグッと寄せて来る。
だが思ったよりも顔を近づけすぎたらしく、少し顔を赤らめていそいそと椅子に座り直した。
可愛すぎか?
俺は取り乱さないように咳払いをする。
「相手はやはり君の能力に気づいていないらしいし、あの男がこの能力を察知するチートを持ち合わせていないということだ」
「何故そんなことが分かるんですか?」
彼女が小首をかしげる。
この理論はおそらくの域を出ないが、多分的を射ているはずである。
「君のチートは気づかれにくい。おそらく言わなければほとんどの人にバレることは無いだろう。そして君のチートはかなり強力だ。そんなものを相手が持っていると知ったら、何らかの対策を早急に打たなければならない。どんな相手だって悠長にしていられない訳だ。だからこのチートを知っていたとして、一時間何もしないということは考えにくい」
彼女のチートはバレにくい。
端からは瞬間移動のように見えるかもしれないし、何か物を移動させる能力のように見えるかもしれない。
仮に時間を止めるチートだと気づいたなら、時間を止めている間に殺されてしまわないように何らかの対策をしなくてはならない。彼女が止めた時間の中で生物を動かすことは出来ず、危害を加えることはできないということは、使っている本人以外知りようがないからだ。
「はぁ。ということは、相手は私のチートに気が付いていない、と」
「気が付いていないだろうな。だが、相手のチートが分かったわけではない。問題は何も解決していないということだ。そして二つ目の『相手のチートについて分かったこと』の話をしよう」
「そっちから先に話をしてくださいよ!」
「大事な話は後に取っておくタイプなんだ」
彼女は頬を膨らませる。
「この一時間の間に、何度か俺のチートが発動したんだ。それは俺に対する殺意を放っていたわけではないけれど、何故か発動したんだ。おそらく俺のチートが発動する圏内で相手がチートを使ったからだろうな」
「大丈夫だったんですか?」
「結論から言えば、何も起きなかった。いや、何も起こせなかったというべきか」
チートは発動した。
それは分かった。
しかし、何も起こらなかった。
俺は色々な事を起こそうとした。
電流を流そうとしてみたり、周りの景色を変えようとしてみたり、音を遮断してみようとしたりした。
だが一向に出来る気配が無かったのである。
そして俺はもう一つの可能性も調べた。
相手のチートがコピー能力だったという可能性である。
これは小日向には言えないが、俺は授業中にそっと小日向の背中を触っていた。
気づかれないように椅子の縁からそっと手を這わして触れてみたのである。
そして時を止めるチートを使おうとした。
しかし出来なかった。
もしも相手のチートがコピー能力であれば、他に考えられるコピー条件は相手の一部を食べるとかなのだが、流石にそれは気が引けた。それが髪の毛一本だとしても、それをやってしまったら変態どころの話ではないような気がした。
敵のチートがいったい何なのかが分からない。
ここまで分かりにくいチートは初めてだ。
それが相手の強みなのだろう。
「思うに、これは相手からの挑発だ」
「挑発?」
「俺が劣化コピー能力者だってことを相手は知っている。だから自分がチートを使っている時に俺もそのチートを発動させていることは分かっているはずなんだ。俺が相手のチートを理解できないことを確信して、わざと自分のチートがバレる危険を晒しているんだ」
俺はニヤリと笑った。
その笑顔を見て彼女が顔をひきつらせた。
「まさか、怒ってるんですか?」
「いや、まさか。ただ、舐められたものだな、と思っただけだよ。ハハハ」
「それ怒ってるって言うんですよ」
そう。俺は怒っているのだ。
放課後までの時間の猶予を与えた上に、チートの謎を解くためのヒントまで残す。
俺は試されているのではない。
おもちゃにされているのだ。
チートの謎を解こうとする俺をあざ笑っているのである。
腹が立たないわけがない。
「何としてでも相手のチートの謎を解き明かそう。謎が分からなくてもどうにかして対抗する方法を探すんだ」
「応援してますから!」
そこは「私も一緒に考えますから」とかではないのか......
ともあれ考えることが俺の役目であることは間違いない。
俺はまたも敵のチートについて考えに耽る。
音を消したり、よく聞きとったりする。
周りの景色を変える。
電気が出る。
そう言えば、周りの景色が見えなくなった時、景色が真っ青になった。
あの時、俺はまるで空の色を塗り広げたような色だと感じたのだ。
もしもあれが本当に空の色であったなら。
俺は事の確信に少し触れたような気がした。
だが、何故そんな風に感じたのかは分からなかった。
少しだけ答えに近づいた。
ただの勘だが、そんな気がしたのだ。
「もうすぐ時間が動き出します」
「あれが空の青色だったなら......」
もしも空の青色だったなら、どうして周りが空の青ばかりになったのだろう。
どうして周りから見えなくなったのだろう。
確実にその場所に居たにも関わらず、一瞬で消え、一瞬で現れる。
何を操作すればそんなことが出来るのだろう。
「光......」
「光がどうかしたんですか?」
音、光、電気。
これらに共通することは......?
不意に現実に引き戻される。
手をツンツンとつつかれたからだ。
「あの、自分の世界に入り込んでいるところ悪いのですが、もう時間停止が終わってしまいますよ」
「そ、そうだな。面目ない」
小日向がフッと笑った瞬間に周りの景色が動き出した。
かくして二度目の時間停止が終わった。
どんどん相手のチートの確信に近づいてきましたね!
......近づいて来たんでしょうか?
相手のチートは思っているより手強いかもしれませんよ?