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知らない犬と話してはならない

いつもの日常なんてものは、本当にあるのかすらわからない。

あの宿泊研修から早いものでもう一週間も経ってしまった。

中学までとは大分違う環境にも関わらず周りにも恵まれて、俺は結構良い時間を過ごせているのではないかと思う。

そんな学校の帰り道だった、アレと出会ったのは。

『立ち止まりなさい。今、あなたの頭の中に直接語りかけておるのじゃ。』

へ?

誰?

周りには誰も居ないのに何?この感じ?

近くから何か気配を感じるのに何もいないというか...アレだ。

まぁ、取り合えずこういうのは無視だ。

知らないものとは関わってはいけない。

子供でも知っている常識だ。

『待て待て待て待て!どんどんお前の気配が遠ざかっているのが分かるぞ!貴様、ワシの言葉に耳も傾けない気か!』

ピタと足を止める。

今のではっきりと分かった。

『そこだな、お前。』

ん?今、俺、どっから声出た?

『ん?今、なんか聞こえんかったか?』

気配は下からだ。

それもかなり小さい。

そう、この辺、この段ボールの中...段ボールの中!?

そこにあったのは小さな段ボール。

およそ、人間が入れるような大きさではない。

その段ボールの外には張り紙が貼ってあった。

〈もらって下さい〉

中には子犬...とは言えないがそれなりの犬が入っていた。

ありがちだ。

捨て猫、捨て犬の問題は昔から減らない。

だからと言って自分がそれらすべてをどうにか出来る訳ではない。

だから俺は目を逸らす。

『おい。お前、箱の中開けたのに何で目を逸らすんじゃ!おい、待て!ワシの言葉が聞こえてるのは分かっているんじゃぞ!!』

『うるさい。』

茶色と黒の毛が混じったような犬だった。

生後何か月かは分からないが、おそらく生まれたてではないだろう。

『お前、の声が、聞こえる...?どうなっているんだ...?』

汚れがかなり付いていた。

おそらく元の飼い主は家の中では飼っていなかったのだろう。

もしくは...いや、これ以上考えてはいけない。

『お前、ワシと会話できるのか!こりゃあ良い!どうだ?ワシを持ち帰れとは言わんからちょっとここで話していかんかね?』

その言葉に少し足が止まる。

まぁ...話すだけなら...?


近くの公園に箱ごと場所を移動させる。

こうしてみると外見はただの犬だ。

『ただの犬が何でしゃべるんだよ...』

『お前、心の声がダダ洩れじゃ。ワシのように考えるときと伝えようとするときを制御できるようにならんとなぁ!』

犬は八ッハッと舌を出してこちらを見ている。

『どうやらお前もワシと同じような能力が使えるみたいじゃの。』

『能力?』

『そう。ワシも詳しいことは良く分からんが、どうやら自分の気持ちを直接相手に伝える能力みたいなんじゃ。どうじゃ?他の犬にはない特殊な能力じゃろ!飼ってみる気にはなったか?』

『ならないよ...』

犬は舌を出したり引っ込めたりしながら、こちらの様子をうかがっている。

『しかし、お前もこの能力が使えるとは...世界は狭いのぉ!』

『俺のチートは、他人がチートを使った時に勝手にチートを使うチートだ。』

『分かりにくい!』

『ああ、よく言われる。』

何故かこう話していると犬の気持ちを汲み取っているという気分にならない。

『なんで、お前おじいちゃん口調なんだ?』

『ふむ。なぜか、と言われても、それは...分からん!それにワシにはお前の声が年の取ったメスの声に聞こえるぞ!まぁ、人というのは分からんものだからな!』

それはどういうことだろうか。

犬の言葉と人間の言葉が同じではない...というのは当たり前か...

伝えているときに何らかの齟齬が発生しているということだろうか。

『それで?』

『何だ?』

俺は首をかしげる。

『ワシのことを飼う気になったかと聞いておるのじゃ。』

『.........』

俺にはそんな勇気はない。

一匹の捨て犬に同情して、複数の物を見ないなんてことが許されるわけがない。

次にもし捨て犬が居た時、俺は同じように拾えるのか?

しゃべるかしゃべらないかだけで取捨選択するというのか...?

『お前が言っていることは、なかなかに傲慢じゃな。』

『傲慢?』

『確かに人間はワシらより広い世界が見えておる。しかし、それだけじゃ。自分たちが予想できることは少なくほんのちっぽけで、それが自分の世界じゃ。お前は、自分の世界を本当の世界だと思っておる。だから......目に見えているものぐらい救ってもバチはあたりはせんよ。』

『お前、もっと犬らしいこと言えよ。』

『犬らしいことでは、お前のような奴は満足せんのでな!』

つぶらな瞳で見つめてくるこの犬がとてもこんなことを言っているようには思えない。

言葉は辛辣で、俺の心を貫いた。

はぁっとため息をつく。

『うむ。それでこそワシの飼い主じゃ!』

『うるさい。置いて帰るぞ。』

そう言いながら俺は家路を急いだ。

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