表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
149/307

考える時は一人で考えるより二人で話し合え

 今もどこかであの男が俺を見ている可能性がある。

 どこかから俺達の姿を見てあざ笑っている。

 チートの正体が分からない限り対策方法は......無い。


 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。


 相手のチートは一体なんだ。

 起こった事象の共通項を上げろ。

 何が起こった?

 それが整理できない。

 色々な事が起こりすぎている。情報は多いが共通項が見当たらない。

 もしかして俺みたいなチートだったら?

 触れた人間のチートが使えるようになるとか、チートを奪うことが出来るとか。

 もしくは何でもできるとか。


 そんなもの対策方法がない。


「どうかしたんですか?」


「えぇ、いや、別に......」


 もしかしたらこの会話も聞かれているのかもしれない。

 そうしたらこちらの手の内がバレてしまう。

 誰にも相談できない。

 してはいけない。


 だがチートも分からない。

 ない、ない、ない、ない。

 守れない。

 どうすることも出来ない。


「本当に大丈夫ですか......?」


「いや、大丈夫......いつもどおり、そう、いつもどおり」


 頭が真っ白になる。

 いっそ、相手に屈服してしまえば、良いのだろうか。

 下手に動けばこの学校自体が壊れてしまう。

 俺はこの学校の生徒全員を人質に取られているのだ。

 そんなものどうすることも出来ない。


 ならいつも通りを装って、平気な顔をしていた方が皆の為になるのではないか?

 相手に歯向かうときのデメリットとメリットを考えると、デメリットの方が遥かに大きい。

 そのデメリットを覆せるだけの技量も力も俺にはない。

 ならいっそ、諦めてしまった方が――


 ピシャン!


 乾いた音が聞こえた。

 遅れて走る衝撃。

 両頬がヒリヒリとする。

 そしてやっと目の前が視界に入った。

 そこには頬を膨らませてこちらを見る小日向が居た。


「しっかりしてください! 何があったのかは知りませんけど、何かあったんでしょう! 何かあった時に何かできるのは参謀の佐々木君だけなんですよ!」


 その言葉で、ようやく現実に引き戻されたような気がした。

 俺は焦っていたのだ。焦るあまり考えることを諦めていた。

 これでは参謀失格である。


 少し頭を働かせれば分かったことだ。

 彼女であれば話を明かしても良い。リスクは他の人に話すよりもずっと低くなる。

 なぜなら彼女にはアレがあるからだ。


「......了解だ。小日向、頼めるか?」


「もちろんです!」


 乾いた柏手の音。

 この世界に静寂をもたらし、この世界を自分達だけの世界に変える、彼女にしか使えない魔法。


「とはいえ、相手がコピー能力なら、この止まった世界の中でさえ出入りできる可能性があるんだよな」


「やっぱり何かあったんですね」


 俺は観念して全てを話す。

 コロコロと変わる彼女の表情が見ていてとても楽しい。

 最後まで話し終わると彼女は頭がショートしたようにポカーンと口を開けていた。

 先程まで俺もそうなりかけていたところだった。

 おかげで俺の重荷は降りた。心が軽い。


「と、いう訳で相手の出来る事を整理してみよう」


「えぇ」


 彼女が真剣な目つきに戻った。


「まず、敵は自分の姿を周りから見えなくすることが出来る。これは自分の姿を見えなくするというよりは、自分のいる場所を見えなくすることが出来るというのが正しい。次に、そのエリアの音を消すことが出来る」


「空間操作系......でしょうか」


「これだけならそうなるかもしれない。だが、まだ沢山の要素がある」


 俺は小日向の相槌を頼りに自分の考えをまとめてゆく。


「相手はこちらの言葉が聞こえていた。どこから聞いていたのかは知らないが、朝に俺達が話していた会話の内容を知っていたんだ」


「知らないうちに会話が聞かれているというのは......怖いですね」


「そうだな。だが、もっと怖いのはあそこが朝会の場だったということだ」


「どういうことですか?」


 話の内容にピンと来ていない彼女に俺は分かりやすく噛み砕いて説明をする。


「教員ですら通るのに一苦労する生徒の間から、俺達に近づき、誰にもバレずに盗聴することが出来るだろうか。誰にも触れずに自分の存在を気づかせることなく、だ」


「ちょっと難しいですね」


「不可能ではないがかなり無謀だ。誰かが何かの気まぐれで自分のいる場所に触れればバレてしまう。それは自分の力でどうすることも出来ないし、暗殺する前提でもない限りリスクの割に合わない」


「ということは......どうやって私たちの会話を聞いていたんでしょう?」


「おそらく身を隠して近づいたのではなく、何らかの方法で遠くから俺達の会話を聞いていたんでしょう」


 それしかない。

 だが、そんなことが可能なのか?

 答えは『可能』だ。

 なぜなら相手がチーターだからである。

 チートであれば何でも可能。これは大前提である。

 そしてチートは一つしか持つことが出来ない。これも大前提なのである。


「そしてこれが最も不可解だ。敵は......電気が使える」


「唐突ですね」


「唐突だ。この能力の存在が、彼のチートを一層ややこしくしている。最早、チートではなくスタンガンでも隠し持っていたんじゃないかと思いたいところだ」


 だが、それは希望的観測だ。

 彼は指パッチンすると同時に指先から放電を放った。

 これはスタンガンなどではなく、超常現象、すなわちチートだ。


「おそらく、俺達が思っているよりも根っこの所でつながっている共通項があるのではないかと思っている。もっと『電気が使える』とか『音を消せる』とかではなく、もっと大きな視点で見た何かを扱うことが出来るんじゃないかと思うんだ」


「大きな視点......ですか?」


 納得がいってなさそうな彼女にどうやったらその言葉が伝わるのか考える。


「なぞかけみたいなもんだな」


「なぞかけ? あの、『○○とかけまして△△ととく、その心はどちらも??でしょう』っていうアレですか」


「そうだ。あのなぞかけの作り方は最初に??の部分を考えておいて、共通している○○と△△を作り出すんだ。すると、○○と△△だけ聞いた視聴者は何が共通しているのか分からないけれど、答えを聞いてなるほどと思える」


「へぇ~、良く知ってましたね。それで、答えは?」


 俺は沈黙する。

 そして諦めて首を振った。


「分からん」


「分からないんですか?」


 俺はクスッと笑った。

 結局分からなかった。

 だが、彼女と話していなければ、俺はこの事実を飲み込んであっけらかんと口に出すことは無かっただろう。

 自分の中で処理してしまうに違いない。


「ありがとう、小日向。これでようやく事実と立ち向かう勇気が出て来た」


「どう、いたしまして?」


 彼女は俺のお礼の意味があまり理解できていないようで、もじもじとしながらそう答えた。


「もうすぐ15分ぐらい経つ。自然を装ってくれ」


「分かりました」


 彼女に伝えていないことが一つある。

 男が『俺にはこの学校すら壊すことが出来る』という内容を口に出したことである。

 こればっかりは俺一人で抱えた方が良い問題だろう。


 こうして俺達の時間は再び動き出した。

 相手のチートの内容が整理できましたか?

 ちなみに、こちらしか知り得ない情報ですが、電柱の上から飛び降りたのもチートを使っています。

 さて、なぞかけの心は見えて来たでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ