女子が集まると圧巻だ
「うひょー! やっぱり近くで見ると壮観だねぇ! なんだあのおっぱい! 特に外人美女と長髪黒髪の清楚系美人のデカさは爆弾級! 凶器だよぉ凶器ぃ! だが、僕には分かる。分かるよ。あの地味目な子も結構デカいんじゃないかと見た。ほらあの子、名前は何ていうのかなぁ?」
「それだけは絶対言わねぇよ。お前に個人情報漏らすとロクなことにならない気がする」
「大丈夫だよぉ! 絶対捕まらないし、君みたいな人以外には絶対見つけられないから」
そういう意味じゃない、と俺は投げやりに返答した。
個人情報を与えたら、俺の知らないところでこの子たちがいやらしい目で見られてしまう。それは嫌だ。そういう意味で俺は行ったのだ。
長いため息を吐いてから、俺はふと我に返り、そしてまた長いため息を吐いた。
まず俺の居る場所を説明しよう。
ここはクラスメイト女子たちがたむろしている渦中。
沢山の可愛い女子たちに囲まれて幸せ......ではあるのだが、ただ一つ懸念があるとすれば、クラスメイトは誰一人として自分達を認識しておらず、とてつもない罪悪感があるということである。
人はこれを背徳感と呼ぶのだ......と思う。教えられたわけではないので分からないが。
次に言い訳をさせてくれ。
なぜ、また欲望に流されてこんなところに居るのか。
俺は押しに弱い。特に正論で論破できないことに対する押しに反論できないのだ。
だから自分自身にこうやって言い聞かせて言い訳するしかないのだ。
理性と欲望の間でいつもせめぎ合っている。
こんなにも良い機会を与えられてもまだ迷い続けるしかない。
「せめてどっちかに吹っ切れれば良いのにな」
「それが君の良い所でもあるんじゃないかなぁ。まぁ、僕には関係ないけどねぇ」
おっさんから励まされてどうする。
うじうじしていると女子たちの話声が聞こえて来た。
「それにしてもすごかったねー。これは学校新聞で宣伝しなきゃ損ってやつだよねー。あ! 今さっきの写真撮ったけど見る―?」
「恥ずかしいよー」
浴衣姿でカメラを差し出したのは稲原咲希。
野次馬根性の強い人で新聞部に所属している。時期新聞部部長になると噂されている。
容姿が良く、インタビューをするのがとても上手い。
ただ少し野次馬根性が過ぎることがあるので、余計なことに首を突っ込みすぎる節がある。
「とても格好良かったわ。上手く出来ていたと思うわよ」
「ほんと?」
「そうね。可愛かったと言うよりは格好良いと表現する方が良いのかしら? とても凛々しい姿だったわ。やはり学校新聞に載せた方が良いんじゃないかしら」
「えー、新浜さんまでやめてよー!」
小日向さんが照れ臭そうに笑っている。新浜さんがその様子を見てクスクスと笑っている。面白がっているのだろう。
今話している相手は新浜香奈さん。才色兼備の完璧超人だ......と最初は思っていたのだが、人とのコミュニケーションに関しては少し問題がある少女だ。
というのも自分が一番優れていると思っているから相手を見下してしまう癖がある。
そう言えば俺は小日向さんが女子と会話している内容を聞いたことがあっただろうか。楽しそうに話をしているところはいつも見ているが、その会話の内容まで聞いたことは無かった気がする。
「嬉しそうだねぇ。あの子。守りたい、この笑顔ってやつだなぁ」
「あぁ。でも......なんか影があるんだよな。作られた笑顔っていうか」
「そうかなぁ? 僕には普通の笑顔に見えるけど」
小日向さんはみんなの言葉に一喜一憂していた。その様子は見ていて飽きない。
だが、彼女の様子には影がある。
その笑顔は誰かを喜ばせるために作られたものだ。彼女が心の底から嬉しいから笑顔になったわけではない。
小日向さん自身はそのことに気が付いていない。
「俺も少し前まではその笑顔と本当の笑顔の違いが分からなかったんだが、時々吹っ切れたような笑いをすることがあってな、その笑顔が彼女の本当の笑顔だってことを知ったんだ」
「よく知ってるねぇ。君はもしかしてストーカーだったのかなぁ?」
「あの親密な様子を見ていただろ? よくもまぁそんなことが言えたものだな」
いつの間にかおっさんと仲良くなっている気がする。
こうやって皮肉を言いあうぐらいには仲良くなってしまったのだろう。
なりたくなかった......
「とても......可愛かったよ」
「え? あ、ありがとう」
言葉少なにやり取りを終えたのは原田千歳。
とても引っ込み思案な彼女だが、兄思いの優しい子でもある。
兄は催眠のチートを持っていながらこの学校の生徒会長もしている。
色々あって彼女が『感情に合わせて天候を変える事のできるチーター』であると騙している。
ちなみに先程おっさんが巨乳だと言っていたのはこの子の事である。
そうだろうか......でも言われてみればそんな気もする。んー、意外にこれはあるかもしれない。
......俺は何故冷静に観察しているんだ?
「これがジャパンの文化デスかー!? めちゃんこ興奮したのデース!」
「フランさんは日本育ちだよね? そんなに珍しい事だったかな?」
「ミーはあんまりこういうフェスティバルに来たことが無いのデース......だからとても新鮮だったのデース。踊ったりはしないのデスか? アニメでは巫女は踊るのデース!」
「あー、うん。これはそういうお祭りじゃないからねー」
オーマイガーと心底残念そうな声を上げるフランに小日向はアハハハと笑いかける。
フランは先日転校してきた金髪の外国人だ。
しかし生まれも育ちも日本。日本語がカタコトなのは両親がどちらもアメリカ人で日本語を学ぶ機会が少なかったかららしい。
絶望的に空気が読めないところがあるが、それを除けば実直で真面目でおおらかな良い子である。
色々あって俺は彼女から師匠と呼ばれている。本当に何があったんだ......
これだけの女子高生がそろっていると中々圧巻だ。
素で美人な人も居れば、可愛い系の人も居て、よくよく見れば可愛い人も居る。
共通点は全員顔立ちが良い事......って何だこの集まり。可愛い女子高生が何をしても良いのなら、集まったら無敵ではないか。
「ところでさー、さっき見ちゃったよ」
「何をですか?」
野次馬根性の稲原さんが興味津々で小日向さんを小突く。
戸惑う小日向さんに好奇の目線を向けていた。
「さっき、同じクラスの佐々木君と一緒に居たでしょ。ねぇねぇ、二人ってどういう関係なの?」
「ふぇっ!? どういう関係と言われましても......」
瞬間、俺の血液が沸騰したように熱くなる。
顔は真っ赤に染め上がっている事だろう。
「そう言えば......小日向さんって佐々木君と割と一緒に居ますよね」
「ししょーと小日向が付き合ってるのデスか!? アメリカでいうところのボーイフレンドなのデスか!?」
「何かあると思って間違いないわね。だって、あの冴えないオタクみたいな男子に席が近いというだけで近づいているわけないもの」
相変わらずひどい言いようだ。
だが、ナイスパス。
その話題は俺では聞くことが出来なかった質問だ。全員が興味を持っているのだと分かれば小日向さんは話さざるを得ない。
これは......聞き逃せない!
なんと女子のクラスメイトが大集合!(大集合と言うほどもないですが)
今回はおさらいも兼ねての紹介です。何やら楽しそうな話題も始まりましたね。