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俺は小日向を応援したい

「そういえば、なんで佐々木君はここに来たんですか? 来ないって言ってたのに」


「あー、それは色々と理由があってだな......あ、いや、特に深い意味は無いんだが」


「どっちなんですかー?」


 小日向が興味津々な様子で訪ねて来る。

 ここに来た理由はおっさんにそそのかされたからである。だがそれを直接彼女に伝えることはできない。良からぬ企みをしていたことがバレてしまう。

 もう少し良い感じに誤魔化したかった。


「そ、そんなことより、地鎮祭にあんな形で出てるなんて思わなかったよ。俺はてっきり父親とかの付き添いで来てるのかと思った」


「そうだったら良かったんですけどね......みんなが私を出させる気なら、私はやるしかないですよ」


 彼女はアハハと呆れたように笑っている。

 周りがお祭り騒ぎをすることに乗り気になって、父親にまで頼まれたら彼女は断れないだろう。小日向は良くも悪くもそういう性格だ。

 『彼女は一人で気負ってしまうから少しでも助けになれたら』といつも思っているのだが、今回は頑張っていることにすら気付けなかったらしい。


「でも上手く出来てたよ。俺だったらできないね」


「......いつも見ていましたから。それに将来は神職になりたいと思っているんです。だから個人的に練習もしてましたし......まぁ、昔は父も神職になることを応援してくれなかったのですが」


「そう言えば女性で神職っていうのはあまり聞きませんね」


 彼女が少し憂鬱そうな顔で俯く。

 神職というのは普通男性がするものだ。それは知っている。それぐらいの常識はある。

 このご時世なのに性別格差など時代遅れと言われてしまうかもしれないが、神事はもとより時代遅れなものである。そこらへんの世間の常識に合わせるものではない。

 彼女は俺よりもそのことを知っているのだろう。


「女性の神職にはまだまだ風当たりが強いですから。小さいころ、私が神職になりたいと父に言ったら、やめておけと言われました。あの頃は今よりも女性の神職が少なかったので」


「......まぁ、そうだろうな。大体予想はつく」


「ですけどやっぱり諦められなくて。父からは巫女じゃだめなのかと言われたこともありましたが、私は父の神社を継ぎたいので神主にならなきゃダメなんです。そのためには資格を取らなきゃいけないんですよ。私はそのための学校に四年間行こうと考えていたのですが、父も意見を曲げてくれたので推薦状を書いてもらえることになって。だから大学は一年で良くって――って、良く分からないこと話してすみません」


 彼女は指を遊ばせながら気恥しそうに言った。

 多分、俺以外の誰にもそんなことを話したことは無かったのだろう。

 言っていることを全て理解することはできなかったかもしれないが、彼女の神の下で働きたいという意欲はとても良く伝わってきた。


「似合っていると思うよ、神職」


「そ、そうでしょうか? 本当にそうでしょうか!?」


 軽い気持ちで言った言葉だったが、彼女はそんな風には受け取らなかったようだ。

 彼女が詰め寄ってくる。とても近い!

 今日は神事があったので軽い香水の類いすらつけていないのか、彼女の匂いがいつもより強く......って何を考えているんだ俺は!!

 こうなったら彼女の力になれる言葉をかけてあげるしかない!


 覚悟を決めろ! 男だろ!


 俺は心の中で久しぶりにやる気スイッチを入れた。


「君が神職になれないなら、ほとんどの人は神職になることはできないよ。それに君より人の心を癒すことのできる神職に俺は出会ったことが無い」


「本当ですか? でも、歴史的に見れば、女性はその身体的特徴から穢れの対象として見られており、あまり神職には向いていないとされていて――」


「知らないんですか? 今時、可愛い女性は何をしても良いんです。小日向さんは可愛い。だから何でもできますよ」


 彼女の頬がかぁっと赤くなる。

 言ってから気づいた。


 これ、結構攻めた発言じゃないか?


 また勢いに流されて変なこと言ってないか? というか、励ます言葉が可愛いからって何だよ!? もっと言葉選びちゃんとしろって何回自分に言い聞かせれば良いんだよ!?

 だが動揺は見せない。それだけは見せてはならない。

 俺が動揺したら言葉に重みが無くなる! そんなのは励ましの言葉にもならない!


 小日向さんがこちらから目を逸らしたまま震える声で言った。


「可愛い、ですか」


「そうですよ。君は可愛い」


 長い沈黙が訪れた。

 彼女の顔が真っ赤だ。今にも暴発してしまいそうなほどに。


「あのー、小日向?」


「あっ、あそこっ! 見てください!」


 彼女がいきなり顔を上げてどこかに指を指した。

 俺もその方向を見る。

 そこには見慣れたクラスメイトの姿が居た。


「クラスメイトの女子たちだな。あれも小日向が呼んだの......って行っちゃった」


 脱兎のごとく駆け出した小日向はクラスメイトの元へと行ってしまった。


「逃げられちゃったねぇ」


「いつからそこに!?」


 後ろを振り向くと、いつの間にかおっさんがこちらをしげしげと眺めていた。

 全然気づかなかった。いつもならあり得ないことだ。それだけ余裕が無かったのだろう。


「最初からだねぇ。佐々木君はチキンの断食系男子かと思ったけれど、やる時はやるんだねぇ。同じムッツリ陰キャ仲間だと思ってたから何だか妬けちゃうなぁ」


 そんなおっさんの額には血管が浮き出ていた。

 これがリア充爆発しろという陰キャの圧なのだろうか。いや、俺は断じてリア充ではない。矛先が俺に向くことは無いはずだ。


『恵まれとると恵まれとることに気づかんからのぉ』


『ポチ太までいたのか......』


 おっさんはわしっと俺の肩を掴んだ。そして小日向が駆け出して行った方向を見る。


「にしてもあっちはビューティフルな光景だねぇ。美人ぞろいじゃないか! 何あれ、金髪JKもいるのかい!? しかもナチュラルな金髪......」


「まぁ、俺のクラスが容姿の良い人に恵まれているというのは認める」


「恵まれてるってレベルじゃないよねぇ......」


 俺の肩を掴むおっさんの手に力が入る。

 これが嫉妬の痛みか......


「あ、いいこと思いついた」


 絶対良くないことだ。

 俺は直感でそう思った。


「あの子たちを覗きに行こう! こんな場面をスルーするのは惜しい!!」


「そんなことだろうと思ったよ......」


 俺は呆れて頭を抱えた。

 さて、クラスメイトの女子たちが満を持して? 全員集結です!

 果たして佐々木は女子たちの会話を盗み聞きするのか? それとも紳士にチキンプレイをするのか?

 次回はどうなる!?

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