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俺はお人好しなのかもしれない

 フランが引っ越してきてから2週間ほどたった。

 最初のうちは物珍しさから沢山のクラスメイトが集まっていたのだが、次第に一人二人と人だかりが消えていき、終いには誰も寄り付かなくなってしまった。

 というのも、彼女は日本語が時々危うい事がある。それだけならまだ大丈夫なのだが、空気が読めないことが災いして、時々とんでもない発言が飛び出すことがあるのだ。

 皆、それに悪気が無い事は分かっているのだが、それでも敬遠されてしまう理由には十分だった。


「まずいな、このままじゃ」


「佐々木君ってこういう時、妙に面倒見が良いですよね」


「馬鹿言え。俺はこういう面倒事に首を突っ込むのが大嫌いなんだ」


「じゃあ気づいて無いだけですね」


 小日向がクスクスと笑う。

 俺が面倒見が良い? 馬鹿げている。

 俺はチーターに振り回されることが多かったから、問題に首を突っ込むのは嫌なんだ。


 だが、こんなくだらない理由で、フランの学校生活が物寂しいものになるのは何だか間違っているような気がする。

 だからと言って、積極的に他のクラスメイトに働きかけに行くのは気が引ける。

 俺はチキンなのだ。


「とりあえず俺だけでも話しかけてやるか......」


「佐々木君のそういうところ、とても素晴らしいところだと思いますよ」


「そりゃ恐縮だ」


 俺は適当に返事したが、頭の中はどんな話題で話しかけようかと頭をフル回転させていた。

 親しくない女子に自分から話しかけることなんてないので、少し恥ずかしいが、相手は気にしていないだろうから割り切って話しかける。


「フランさん、いつから日本に住んでるんですか?」


「いつからってずっと日本デース!」


「へ?」


 俺はその言葉に一瞬思考を止めた。

 ずっと日本?

 何かの聞き間違いじゃないのだろうか?


「日本っぽくないかもしれないけど日本なのデース」


「てっきり外国から引っ越してきたばっかりなのかと......日本語もあまり出来ていないようだし」


 そう言った瞬間にフランの表情がしゅんと塞ぎ込むのが分かった。

 言ってはいけないことを言ってしまっただろうか。


「実はワタシ、日本育ちなのデスがパパもママもアメリカンなのデース。それで一番最初に覚えたのがイングリッシュだったのデース」


「それはまた......すごい家庭ですね」


「ママはワタシに日本語も教えようとしたのデスが、パパもママも日本語話せないしあんまりフレンズも居なかったので、あんまり日本語を飲み込めなかったのデース」


 なんとフォローすれば良いのか分からない。

 胃がキリキリしてきた。


「それでゲームですか」


「そうなのデース!! ゲームをしこたまやりまくってアニメもうんざりするほど見たのデース! そのせいで日本語いっぱい喋れるようになったデスよ!!」


 彼女の顔がパッと明るくなると俺の胃のキリキリもふっと軽くなるような気がした。

 彼女の笑顔には人を明るくさせる効果でもあるのだろうか。

 俺はそんなことを考えながら話を聞いていた。


「ゲーム好きなんですか?」


「大好きデース! イングリッシュのゲームの方が分かりやすいデスが、やっぱり日本のゲームも面白いデース!」


「ちなみに好きなゲームは?」


「Well......フロムソフトウェアの出すゲームとか大好きデース!」


「あー......」


 予想はしていたが、どうやらその上を行くハードゲーマーだったらしい。

 フロムソフトウェアとはゲームソフト会社の一つであり、ダークソウルとかデモンズソウル、ブラッドボーンなど、いわゆる死にゲーと言われるようなソフトを得意とするメーカーである。

 操作難易度はかなり高く、やりこみ要素も非常に多い事から、ゲーム初心者などにはあまりオススメできないゲームが多い。

 楽しいのだ。楽しいのだが、ゲーム操作に慣れるまでにかなりやり込む必要があり、途中で投げ出してしまう人が多いためどうしても人を選ぶのだ。

 ただこれだけは言える。

 フロムゲーで意気投合できる女子は限りなく少ない......!


「ササキは何が好きデスか? もしかしてギャルゲーデスか?」


「いや、そうでは無いですが」


「良いんデスよー! どうせ男はガッツリスケベか、ムッツリスケベしかいないとゲームにも記してあったのデース!」


 そういうところだぞ、と声に出そうになる。

 こういう話を女から振られるとどういう反応をして良いのか分からなくなる。

 男からなら良い。別にスケベな話だろうが何だって言える。

 だが、女は別だ。

 こんなことを言うと男と女で態度を変えるなと言われそうなものだが、俺はフランを男として扱えるほど沢山話したわけではない。

 つまるところこういう話は、もっと親密にならなければいけないのだ。

 この絶妙な空気の読めなさが避けられるポイントなのだろう。

 俺の微妙な表情を見て、フランがしゅんとする。

 その顔を見ると、妙にお腹が痛くなる。


「もしかしてまた変な事をいってしまったデスか? まさかササキはオカマだったのデスか?」


 なぜこんなにお腹が痛くなるのだ?

 俺の疑問はそこに向かっていた。

 俺は後ろに居た小日向に指示を飛ばす。


「少し離れてアレやってくれないか?」


「アレですか?」


 小日向は俺の考えを察知したようで、離れたところに立った。

 フランがこちらを神妙な顔で見ている。


「なんデスか? 一体何が始まるのです!? もしかしてギシキなのデスか!?」


 後ろから聞こえると思っていた手を叩く音は聞こえなかった。

 代わりに向こうに居たはずの小日向さんが近づいてきていた。


「やっぱりだな」


「どうしたんですか、佐々木君!? 私のチートが効かなかったんですか!? 私が時間を止めたら、佐々木君の時間まで止まってしまって......」


「いや、これは正常だ」


 俺は小日向さんに時間停止解除を頼んだ。

 他の人にバレないように元の位置に戻ってから解除する。


「良いか、フラン。よく聞け」


「ごくり」


「お前はチーターだ」


「何!? チーター!? ワタシ、チーター絶対許さないネ! そんなヤツ見かけたらチートで煽り返すのデスよ!?」


 フランは興奮したように俺の言い分を否定する。

 俺は「違う、そういう意味じゃない」と彼女の意見を訂正した。


「お前には、自分の感情を体調に変化させる能力がある。まだ詳しい事は分からんが、多分もっと大きな能力を秘めているかもしれん」


「オゥ、感情が体調に......? それってそんなに不思議なことデスか? それに何故ワタシがそんな能力を持っているのだと気が付けたのですか?」


「俺もちょっとした能力を持っててな」


 俺は難しい説明を後回しにしてフランの両肩を掴む。


「だからお前は笑え。難しいこと考えずにとりあえず笑っとけ。お前の笑顔はみんなを元気にする力がある。少なくとも俺はそれで元気になる」


 フランは目をぱちくりさせながら俺の顔を見つめた。

 そして頬を赤く染めた。


「ファンタスティックデース......」


「は?」


「先程のササキ、恋愛シミュレーションゲームのヒーローのようデシタ......このままワタシを夕焼けの海岸まで連れていってプロポーズするのデスねー!?」


 フランはそのまま俺に抱き着いてくる。

 クラスのメンバーが何事かと俺の方を見ていた。


「待て待て待て待て!!! ストップだ! 俺はそんなことをする気はないし、第一それにしても展開が速すぎッ、というかこんなところで抱き着くなんて非常識だろッ!!」


「ということは先程の発言は......シショー!? ゲームの主人公の指南役デスね!? シショー!!」


 フランが再び俺に抱き着く。

 この頃には俺は反論する気力を失っていた。

 恋人から師匠に変わったのであれば、もうそんな感じでいいんじゃないかと。

 別に抱き着かれるのが嫌な訳ではないのだ。それも相手は可愛い女の子。これは誤解が招いているのだから、そう。不可抗力なのだ。不可抗力。

 だから俺がこのまま抱き着かれていても問題ないはず。柔らかな感触を味わっていたとしても別に、なんら問題はないはず......


 そんな考えは、こちらを睨む小日向さんのジト目が視界に入った瞬間にあっさりと消え失せた。

 

「とりあえず抱き着くのはやめなさい」


「はい、シショー!」


 ピッと直立不動で立ち尽くす。

 その様子を見て、クラスメイトが俺に変な視線を浴びせかけてくる。

 フラン。お前はこの微妙な雰囲気を全く感じ取っていないのか? それは最早、天然を超えた才能だぞ?

 そんな周りの様子を眺めながら、俺は大変なことに首を突っ込んでしまったのだと感じていた。

 まさか佐々木君とフランちゃんの関係が師弟関係になるとは夢にも思いませんでした(想定外)

 普通の師弟関係とも少し違うようですが一体どうなることやら。

 こんなところで転校生来校編は終了です。

 もうちょっとやってほしい?

 でもあの時期が始まってしまうではないですか。


 そう。

 夏休みがやってくるんですよ。

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