転校生は空気が読めない
「ミーは、転校生デース! よろしくおねがいしマース!」
そこには現実離れした西洋の顔立ちで金髪の少女が......
少し現実離れしすぎて良く分からない。夏バテで上手く働かない頭に過負荷がかかる。
「あのー、誰?」
「ミーですか!? ミーはフラン! フランチェスカ=メジール、デース!」
そうか、この子はフラン。
カタコトの日本語を話す俺達のクラスの転校生......
――って、受け入れられるか―ッ!
「よろしくねー! フランちゃん!」
「ハーイ! よろしくデース!」
俺がそんなツッコミを心の中で入れていたが、クラスメイトは難なく受け入れたようである。
お前ら、何でそんなに順応が速いんだよ。
俺はふと沸いた疑問を口にしてみることにした。
「あのー、学校に来たらまず最初に校長室に行けとか言われなかったんですかー」
「オゥ! すっかり忘れていました! アリガトウゴザイマース! もやしサーン!」
そう言いながら疾風のごとく走って行った彼女に俺はただならぬ悪寒を覚えていた。
なんだか悪い予感がする。
おれの高校二年に新たな災いが降りかかってくるようなそんな予感。
「もやしか」
俺はそう呟きながら熱くなった頭を冷やすように机に突っ伏した。
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「じゃあフランチェスカさん。挨拶をおねがいしまーす!」
「ハーイ! 私、フランチェスカ=メズールて言いマース! フランって呼びなさーい!」
カタコトでところどころ日本語が危うい所があるらしい。
教室のあちらこちらで笑いが起こる。
「じゃあフランさんはそこの席に座ってくださいね!」
先生が指さしたのは俺の隣だった。
......隣?
うちの教室は完全に出席番号順で出来ている。
フランさんの場合は「ふ」ではじまる五十音順で登録されているのだろう。
俺の隣がいつの間にか空席になっていたことに俺自身唖然とする。
「もやしサンじゃないですかー! 今後とも仲良くするのデースよ!?」
「俺は佐々木です。よろしくお願いします」
さらっと訂正を入れる。
このままもやしとして定着してしまうと、端から悪口と思われかねないからだ。
フランさんは何やら考え事をするようにおでこを人差し指で押さえながら唸っていた。
そして何かを閃いたようにポンッと手を叩く。
「分かりマシタ! ドラクエのザキの一つ上の魔法デスね!」
「それはザラキ。ドラクエ知ってるんですか」
「ロケット団のボスの」
「それはサカキ。よくそんなキャラ覚えてますね」
「ジャパンでお墓にそなえるときに使われる葉っぱ」
「それもサカキ......いやまて」
確か関西、それも瀬戸内の方ではサカキとはまた別にヒサカキと言う名の植物をお墓に供えることがあるらしい。それの名前は方言によるのかは分からないが、ササキと呼ばれているということを聞いたことがあるような無いような......
つまり、
「あってる......けど、知識がさすがに偏りすぎじゃないですか?」
「ゲームで完璧に復習してきましたデスからね!」
「そういうレベルじゃないと思うんだけどなぁ」
俺は独り言のようにそう呟き、チラリと周りを見た。
この状況でホームルーム中に掛け合いをする俺達を見て皆、目を丸くしていた。
皆が俺達の事を見つめているのはずっと気が付いていた。
なら何故やめないのか。
――だからと言ってほぼ初対面の転校生を無下に扱えるわけないだろうが!
それにしてもコイツ、この微妙な雰囲気に気が付いていないとは。
俺は心の中で、この少女がただものではないような雰囲気を感じ取っていた。
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一時間目の授業も終わりに差し掛かる。
一時間目は国語だったが、隣の少女は割と理解できているようだった。
そう言えばどこからやって来たのか、日本には何年住んでいたのかとか分からないことが多い気がする。
外国に住んでいたにしてはアニメやゲームだけで会得できないほどの知識を持っている。
もしかしたら自分には想像もつかないほどの経験を持ち合わせているのかもしれない。
「センセ! この表現が分からないのだけど教えてくだサーイ!」
いきなりの質問に俺の肩がビクッと震えた。
「えっと、これはね」
キーンコーンカーンコーン......
チャイムが鳴った。
教室が異様な雰囲気に包まれる。
「センセ?」
「あぁ、えっとね、ここは日本的な表現で――」
チャイムが鳴り始めてからも必要に駆られて先生は教鞭をとり続ける。
何故今のタイミングなのか。
個人的な質問として後で質問しないのか。
そしてそもそも授業中に手を上げて質問すること自体、このご時世であり得るのだろうか!?
これが日本人の思考か、と考えながら彼女らの問答を聞いていた。
頬杖をつく。
欠伸をかき、背もたれに身を預ける。
「イエース! ありがとうございマーシタ!」
「はい。どういたしまして」
すがすがしい顔をしている。
先生もすがすがしそうだ。分かってくれたことに教師としての喜びを感じているのかもしれない。
で俺達の休憩時間は......?
残り五分。
「やべぇ!? 次、体育じゃねぇか!?」
「あ」
人があわただしく動く。
その中には勢いに送れたフランが居た。
小日向さんがさりげなくフォローを入れ、女子更衣室に連れていく。
俺は感じていた。
もしかしてフランさん......めちゃめちゃ空気が読めないのでは?
そんなことを頭の中で思いながら俺は更衣室へひた走る。
独特な感性をしてますね......この子がどうやらただ者ではない? ことだけは分かります。