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上手いかどうかは才能ではなく経験だ

窓から日が差して、目が覚める。

気持ちいい目覚めとはいかない。

後頭部がひりひりとする。

その痛みと同時に思い出すあの光景。

代償だと思えば...こう言ってしまうのはなんだがかなりの得である。

歯を磨いて、ぼんやりと昨日あったことを思い起こしながら、体操服のジャージから制服を着て靴下をはき、ふと思い出したように時間を見る。

...マズイ。

あと、5分しかない。

2段ベッドの俺の上で寝ている傑を蹴り起こす。

「オラァ!起きろ!あと五分だぞ!」

「いだっ!いてぇっての!コノ野郎!俺の支度は早ぇから別にいいんだよ!そこどけ!」

何を偉そうに...

そう思いながら立っていた場所をどく。

「行くぞっ。とぅっ!」

ベッドから跳ね起き、床に落ちていた制服をワンバウンドでアクロバティックに回収、空中での早着替えにネクタイを締め靴下まではいている。

不思議なことに寝ぐせはない。

「さぁ、行こうか。」

もう、ツッコむ気力も失せました。

「...はい」


「遅いですよ!」

「時刻ぴったりじゃないですか。まだ遅れていません。」

「時刻ぴったりは遅いんですー。誰か行かせて起こしてもらおうかと思っていたところですー。昨日の疲れですかー?」

さすが先生、昨日のことをなにかと掘り返そうとしている。

掘り返されると俺たちの立場が少々まずくなることを分かって言っているのだ。

女子からの目線は...痛々しいものを見る目である。

「でも俺達、結局見れてないんすよ!」

「見てたら大問題です!きっちりわきまえて反省しなさい!」

「なぁ?理不尽だよなぁ?こんなことが怒られるだしに使われるなんて報われねぇぜ。なぁ、そうだろ?」

「うん...まぁそうだな...」

「...?ま、良いか。」

俺たちはそのまま朝食の乗ったトレイを取り席に着いた。

席の順番は出席番号順だ。

だから傑と俺は隣に座ることになる。

そして小日向さんとも隣だ。

...こんなにタイミングの悪い隣の席というのも珍しい。

「あ、あの...」

よく見ると顔が真っ赤だ。

それを見て俺の顔も発火しそうに熱くなる。

「見、見て...というか、お、お、覚えて...ますか...?」

「ん、んー、おぼえてないぞぉー?」

「覚えてるんですね...?」

バレた。

俺は結局のところ人付き合いが苦手だし、言葉の使い方もあんまりうまくない。

お世辞も上手く言えないし、嘘をつくのはもっと下手だ。

「はい。覚えて...ます。」

小日向さんは俯いたまま、黙りこくってしまいました。

「あーあのー」

俯いている小日向さんは急に唇を引き締めて何かを決意したように顔を上げる。

「過ぎたことは仕方がありません!」

「へ?」

小日向さんはこちらを向く。

「だから、」

すっと顔を横から近づけてくる。

耳元に寄せられた唇から漏れる、温かい吐息が俺の心をダイレクトにくすぐる。

いきなりのことで身をよじることもできない。

近い!

「これは、私たちだけの『秘密』ですよ。」

耳元でささやかれたその言葉が心の奥底まで響いたような気がした。

一瞬、意識が飛んでしまうかと思った。

「もちろん。」

二コっと照れ臭そうに笑う小日向さんの顔が目に焼き付いて離れない。


顔の筋肉に力を入れなおして朝食を食べ終わると、宿泊研修のしおりを読んで次の場所に動く。

...って、どこだ?ここ。

いや。

自分が知っている場所の方が少ないことはわかっている。

そういうことじゃない。

「工......房......?」

「はい!ここは工房です!具体的に言うと陶器とかを作ったりする場所です!ついては私じゃなくて学年主任からですー!」

丸投げだ。

綺麗な丸投げを見た。

横に音もなくはける城崎先生の後ろから学年主任の日下部先生が現れる。

「事前に告知していた通り、工房に来てもらった。今回は工房で......版画を作ってもらう。簡単なものだ。今から昼の10時までが作業時間だ。」

ちなみに大きさはこれぐらいだ、と言いながら掘る用の板を見せてくれる。

20cm×20cmの正方形のようだ。

版画というには小さめだが作業時間が全部で3時間であることを加味すれば、妥当な大きさだろう。

と、偉そうなことを言っているが、俺は絵に対してはさっぱりである。

小学、中学の頃の同級生や、親をもってしても『向いていない』と言わせるほどの才能のなさである。

昔の恩師?のある人からは『書かなければ上手くはならない。決してだ。興味がないのなら志すことすら意味も無し。......お前はお前のままで良いんだよ。』と言われたが、それでも人並みには書けるようになりたいと思っているのもまた事実。

あきらめが悪いというか、未練がましい。

「版画ですか...版画は小学校以来ですね。上手にできると良いんですけど。」

「俺は、見れる物が作れればそれで良いかな...」

「トシは、そうだろうな!なんせトシは芸術家だもんな!常人には理解できねぇ!!」

「いちいちうるさいんだよ。おまえ。」

日下部先生がマイクを握り生徒を見渡す。

...見渡すというより睨むと言った方が近い。

途端に場が静かになった。

「皆、分かっているとは思うが、この版画づくりは思い出作りだ。後から見直してこの時の記憶が思い出せるようにちゃんと思い入れを持って作るように。では、始め!」

そして皆それぞれの版画作りが始まった。

さぁ、宿泊研修の最後のイベントは版画作りです!

皆さんも一度くらいは作ったことがあるんじゃないでしょうか。

彼らは思い出に残る一枚を作ることができるのか!?

明日も投稿です!

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