もうすぐ学校が始まる
その後、俺達は無事に部屋に帰ってきた。
かかった時間は3時間ほど。ちょうどプレイしていた時間と同じくらいだ。
それから俺は時間の空いている時に時々ゲームに潜るようになった。
入ってもいつでもログアウトが出来るし、一ゲームの時間を短くしたということもあって、とても使い勝手のいいゲームになっていた。
運営側......あのデブ男は純粋にこのゲームを楽しんでほしいらしい。おそらくだが、ログアウト権限を手に入れるまではおそらく緊張感のあるチュートリアルぐらいの気持ちで作ったのだろう。どこにここまで真剣にやらなければいけないチュートリアルがあるだろうか。
ちなみにその後に聞いて話によると、その後五戦ほど同じ形で戦闘を行い、全員にログアウト権限は配布されたみたいである。
その時には携帯食料も配られたらしいが、戦争のリアル感を出すためにとても美味しくないコンバット・レーションが配られたという。普通の戦争の時であれば嗜好品として使わないためにわざと美味しくないものにしてあるらしいが、そこまで意識したのかどうかは定かではない。
ともあれ一度食べてみたいと思わなくはない。
このゲームには良くも悪くもエンジョイ勢とガチ勢の違いがあまり存在しない。
理由は至極簡単。
このゲーム、足腰に来るのだ。
ずっと遊ぼうものなら筋トレで体を整えてから参加する必要がある。
俺も暇だった自粛期間をこのゲームでつぶしてやろうと画策していたのだが、一日遊んで二日寝込むというような感じを続けるうちに何だか筋肉が体について来たような気がする。
このような理由もあってからこのゲームで強くなるためにはかなりの時間を要するのだ。
もう一つ理由が在るとすれば、それはお金がかからないということだろう。
普通のサバイバルゲームを楽しもうとすると、色々な部品を揃えるのにかなりのお金がかかる。どれくらいの金がかかるかというとピンからキリまでだが、良いモデルガンを買おうと思うと白物家電を買うよりも高い金がかかることもあるらしい。
それに比べてこのゲームでは、ゲーム内通過を使う。DLCもなく、買い切り型のゲームとして販売しているため、課金要素が存在しない。
これを作っているあのデブ男はどうやら本当に金に無頓着なのかもしれない。
だがそれゆえに、誰でも対等に実力と経験値だけで戦えること、加えてこのリアルさ、この重厚さ、この緊迫感! リアルでは考えられないリアルさの実現が出来ている!
故に数多の人が引き付けられた。
魔法なるものを使っているからインターネットで大っぴらに広まることは無いものの、口コミで広がった人気はみるみる内に購買意欲を刺激した。
そしてゲームをプレイして様々な感想が寄せられる中、歓喜で打ち震える者やゲームに入りびたりになる者、中にはNPCの真似事をする人が出て来た。
プレイ中でなく休憩中でもログインしっぱなしにして、ロールプレイを楽しみ世界観に浸り、時には初心者のガイドをキャラクターになりきって始める者も居た。
ゲーム内は過密に過密を極めた。
そしてある日中央のモニターにあの時のデブ男が現れた。
『えー、非常に申し上げにくいことでござるが、このゲームは拙者とあと一人の二人体制で運営を行っているため、これ以上の人間の増加に対応しかねるのでござる。ゆえにこれから一ヵ月間の長期メンテナンスに入らさせてもらうのでござる。本当に申し訳ござらん』
その時、プレイヤーたちに激震が走ったのは言うまでもない。
もちろん俺も例外ではない。
俺は途方に暮れた。コロナウイルスの猛威の渦中で何もすることが無い中、こんな勝手の良い娯楽を失ってしまったことに途方に暮れた。
そして現在に至る。
「良いじゃん、別に。もうちょっとで学校始まるでしょ?」
「ああ、もう数日後には始まってしまう。だからこそ! 俺はもっとこのサバゲを楽しみたかったんだ!」
「おにーちゃん。ハマる時は凄い勢いでのめりこむよね。別に嫌いじゃないよ。おにーちゃんのそういうとこ」
俺は頬を膨らませたまま座布団の上で足をじたばたとさせる。
いつのまにか寒かった日を懐かしく思うほどに真夏日が続いている。これで五月終わりとか......正気か、地球。これが地球温暖化のせいであれば俺は人の業を恨むことだろう。
しかし、これは地球温暖化のせいとも言い切れないというのが何とももどかしい所である。
日本近海の海水温の上昇、これが原因である。これが地球温暖化によって引き起こされたという説もあれば海流が変わったのだとする説もある。本当の所は良く分かっていないし、もしかしたらチートのせいという可能性も無いわけではないということを俺は主張したい。
ともあれ暑い。
梅雨も迎えていないというのにもう暑い。
コロナウイルス、気温上昇。もうこれは人間を殺しにかかっているに違いない。
「もしかしたら安倍総理の陰謀か......」
「心にもない事言わないの」
「SNSで陰謀説に踊らされている人を見るのが最近の楽しみでな」
「......人間の屑」
「雨姫さん雨姫さん。的確なところだけ的確に罵倒するのは俺のガラスのハートが砕け散るのでNGですよ?」
冗談交じりに言っているが今さっきのは危なかった。
もう少しで自分で自分の事を人間の屑と認識してしまい爆発四散するところだった。
「ともあれもうすぐ学校かー。そう言えば課題はもう済ませたのか?」
「ギクッ!」
「......俺、口でギクッって言うやつ初めて見たよ。行くぞ」
「ド、ドコヘデスカー」
「おにーちゃんと一緒に缶詰めだ」
ギャーッという悲鳴に耳を塞ぎ、俺は由香を引きずりながら部屋に押し込んだ。
それから夏休みの課題を優に超える宿題の量を必死になって終わらせたのは言うまでもない。
そして来る6月。
もうすぐ学校が始まろうとしていた。
さて、ダメチーターももうすぐ学校になります!
梅雨も入ればようやくあのイベントが出来るかも......?
ちなみに筆者は高校生ではないので、高校生やその他の学生の授業が始まる情報を手に入れるのに一苦労だったりします。
時事ネタをふんだんに取り入れようとしているので仕方ありませんね。