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どうやら俺には知らなくて良い事がまだ沢山あるらしい

 俺達の体はゆっくりと半透明になる。

 あの檻の中へ送られるような劇的なものではなかったが、それだけに何とも言えない味わいのような神聖な感じがあった。

 そして送られたのはある個室だった。

 そこには社長室のようなデスクが一つ、面接のようにパイプ椅子が横並びに四つ置かれていた。

 そしてふくよかな男が一人。

 その男はビン底眼鏡にちじれた髪の毛、腹回りのぜい肉をたっぷりと持て余し、肘掛のある高級そうな椅子に寄りかかっていた。


「あんたは誰だ。チーターか?」


 俺はその人間に詰め寄ろうとする。

 もしもこの男がチーターで何らかのチートで巻き込んだのだったら、一言文句を言ってやらないと気が済まない。

 男は気味の悪い笑顔を浮かべた。


「デュフフww自己紹介が遅れたでござるね。拙者はこのゲームの管理人。つまるところゲーム・マスターでござる!」


 男はガバッとコートを広げながら両手を大きく開いて斜め上を仰ぎ見る。

 場に静寂がもたらされた。

 しばらく皆が唖然としていると、男も冷静さを取り戻したように椅子に座る。

 シュールだ。


「あー、あの、あなたがゲームマスター?」

「そうでござるよ」

「このゲームを作り出した」

「おっしゃる通り」

「ということはチート使いなんですか?」


 デュフ、デュフフと薄気味悪く笑いだす。

 チートと言う言葉がそんなに面白かったのだろうか。

 それとも他に何かツボにはまるようなことでもあったのだろうか。


「チート? デュフ、違うでござるよ。でも中々良い響きでござるね。佐々木氏と指している物が同じとも限らないわけでござるが」

「ちょっとまて、何で俺の名前を知ってるんだ?」

「拙者からしてみれば佐々木氏の名前を知るなんて造作もない事。何なら昔中学のころに蓄えていた黒歴史でも暴露してみるでござるか?」

「いや、良い! もう良い! 俺が理解できない何かだってことは十分分かった!」


 どこまで知っているのかは分からないが、この男が本当に初対面だとしたら末恐ろしい。

 当てずっぽだとしても末恐ろしい。


「デュフフww これはチートとは少し違うのでござる。かといってSFの超技術である訳でもなく、貴方たちの分かる形で説明するなら『魔法』でござるか」

「魔法?」

「そう、魔法。佐々木氏の言うチートが人が稀に持つ特殊能力だとするならば、それを万能にしたものが魔法でござる。あ、ちなみに、魔法なんてものがあることを知っているのは本当にごくわずかで一介の中高生が知るべきではないので、ここ以外で話すのはご法度でござるよ?」


 それは俺を何かの沼に引きずり込もうとしているのか。

 そんな危険な方法を教えるのには何か意味があるのか。


「俺のチートのことは知っているのか」

「もちろんでござる」

「もちろんなのか......なら俺の能力は完全劣化コピー能力だが、これらの行為をコピーできていないのは何故なんだ? 魔法だって要はチートの一部なんだろう?」


 男は顎髭をさすりながら口をへの字に曲げる。


「魔法がチートの一部というか......チートが魔法の一部というか、それが発現していないのは単に佐々木氏の能力の幅を超えているからではないでござろうか。例えば空間転移や次元拡張、木偶人間に痛覚操作と瞬間再生。これらのものを一度にコピーしようとするなら佐々木氏の容量を大幅に超えているでござる。それか、人間が使っていないからかもしれないでござる。もっと詳しい事を知りたいのであれば解剖やサンプル採取などをさせてもらえれば、満足のいく答えが返せるかもしれないでござるよ?」

「もうわかった! だから早口になるんじゃない!」


 男は早口でまくし立てるようにそう言った。

 この男はどうやら頭のネジが何個か飛んでいるというか、俺達とは倫理観がどこか違うらしい。

 まるで違う世界から来たみたいだ。


「と、ところでボーナスステージって何なんだ? なんかそう言うのがあるって聞いてたんだが」


 そう。

 俺が求めているのはこんなものではなくログアウト権限である。

 それさえあればここから抜け出せる。

 だから今はログアウト権限が欲しい! とりあえずこの男と一緒には居たくない! この男を理解するにはもう少し時間がかかる。だからせめて心を安定させてからこの男と話したい!


「ボーナスステージはここに来ることでござるよ?」

「......は?」

「ログアウト権限ならもう付与してあるでござるよ。ほら、視界の端の端の方にメニュー欄が見えているでござろう。それをタップしてメニューを開けばその中にログアウトがあると思うのでござる」


 それを聞いて俺は目を凝らす。

 すると本当に視界の端にぽつりと缶バッジサイズの何かがあることに気づく。

 それに触れようとして手を伸ばす。


「あー! 待って! もうちょっと待つでござる!」

「どうかしたのか?」

「このまま帰ったら、多分戻ってこないでござるよ! もうちょっとお話してから帰るでござる」

「何で?」

「せっかくだからでござるよ」


 俺は後ろを振り向き、小日向さんたちを見る。

 小日向さんたちはあまりこれに関わりたくないようで無言で首を振っている。


「知りたいことがあるならどんなことでも答えてあげるでござるよ」


 俺は何かないかと質問を考える。

 確かにこの男に対しては色々な疑問がある。ただ、それをいきなり聞けと言われても言語化するのが難しい。

 俺はなんとか質問を捻り出す。


「これを作った目的はなんだ?」

「世界で最もリアルなゲームを作ってみたかったからでござるよ」

「......そんなことの為に?」

「そんなこととは何でござるか!? 自分に何でも出来る力があるならば、それを人を楽しませることに使うのは当然でござろう!」


 それを聞いて知りたい質問が出来たので聞くことにした。


「そうだ。魔法はどこで習ったんだ? どこかで教えてくれる場所があるのか?」


 その質問を聞いて男は口を半開きにさせたまま返答を考えていた。

 独り言のように、「これは言ってはいけないんでござるが」とか「でも何でもって言ったし」とか自問自答をしている。

 教えられないことがあるならそんな質問をしなければ良いのに、と思った。

 だが、自分の言ったことには責任を持つ質のようだ。そこには好感が持てると思った。


「仕方ないでござる。正直に話すでござるよ。佐々木氏、こんなことを聞くのもなんですが、異世界は実在すると思うでござるか?」

「......は?」


 俺の頭が一度停止した。

 異世界? どこのファンタジーの世界だ?


「拙者達はそこで魔法を習ったのでござる。色々あって今使っているのは、そことは少し違うものでござるが、今なお国家ぐるみで研究が進められているのでござる」

「はぁ......」


 魔法を見せられていなければ、信じられるどころか妄言としか思えないような話だ。


「あ、この内容を外で話しても妄言としか思われないであろうからお気をつけて」

「言わないし、今でも夢か何かじゃないかと思ってるぐらいだ。そんなことよりもう帰らさせてくれ」

「しょうがないでござるね。後で会いたいと思っても中々会えないでござるよ?」

「構わん」


 俺はメニューを開いた。

 ......本当に開けるんだな。一体どんな技術を使っているのだろうか。

 とりあえず、俺にも知らないことが沢山あることが分かった。どうやらこの世には触れるべきでない世界が山ほどあるらしい。

 向こう側で太った男が手を振っていた。

 気付くと俺は元居た部屋の中に戻っていた。


「一体、何だったんだろうか」

「さぁ......?」


 こうして俺達のゲーム脱出は幕を閉じたのである。

ゲーム編終わりましたね。

実質これがエピローグみたいなものなので次からはついに学校に......?

予定は未定です。

次回をお待ちください。

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