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全ての切り札を出し尽くせ

 避けられた!?


「何度も何度もおんなじような手ばっかり使いやがって、舐めてんじゃねぇぞ。ジッパー! 始末しろ!」

「へい」


 背の高い男は素早く銃を構えると自分ではなく、十字路の向こうに銃を構えた。

 対照的に猫背の男は俺を睨みつけ、二丁拳銃を向けた。


 ここでジッパーを倒せないのは予想外だった。一度目の時にタックルが成功したので二回目もどうにかなると思い侮っていた。

 このまま倒せないと計画が破断する!


 由香が居ても経ってもいられなかったのか角から出てきた。

 そこを背の高い男が狙っているとも知らずに。


 どうする。

 ここで由香が倒されれば、スコアのチームデス数が上がってしまい、俺達のグループがこのままの作戦で勝てる確率は限りなく低くなる。

 俺が倒されれば、計画を果たすことが出来ない。

 ジッパーが倒せなくても計画は破断する。

 何かを捨てるしかないのなら。


「俺に銃は必要ない!」


 アサルトライフルを背の高い男に向かって投げ、自分は身軽になった体でジッパーにスライディングする。

 アサルトライフルが背の高い男の脇腹に直撃し、背の高い男は脇腹を押さえてよろめいた。ジッパーが俺を抑えていると思ってマークを外したのが悪い。

 だが肝心のジッパーの二丁拳銃の銃口が俺の方を向いていた。

 スライディングで相手の足元に潜り込むのが先か、それともジッパーのハンドガンから銃弾が放たれるのが先か。

 いや、これは間に合わない。

 ジッパーがニィッと笑った。


「終わりだ!」


 その時、右側から発砲音がした。

 ジッパーは一瞬で後ろに跳び退き、その弾を避ける。どうやらまだ注意は逸れていなかったらしい。

 紙一重で俺の命は繋ぎ留められた。

 俺は視界の端で、サムズアップしながら銃弾を装填している雨姫を見た。


「ガキが! 邪魔すんじゃねぇ!」


 ジッパーが二丁拳銃の先を雨姫に向ける。

 雨姫はまだ弾の装填が終わらないらしく、極めて無防備な状態だった。

 だがそれはお前も同じ!


「足元ががら空きだ!」

「うおっ!?」


 一瞬の隙、度重なる攻撃により生まれた油断。

 俺が銃を持っていないから脅威ではなくなった。対して雨姫は脅威になり得る。だからここで雨姫を消しておくことこそが最良の選択。

 それを一瞬で判断したのは評価に値する。

 しかし、そこに全神経を集中させたのは間違いだった。

 この男は判断することに向いていない。


「これでも食らえ!」


 俺は相手に足を絡ませたまま、体をローリングさせる。

 足が絡まってバランスが保てなくなった男は勢いよく地面に倒れてしまった。

 二丁拳銃の一つが地面とあたってバラバラに砕け散った。


「この......ヤロー!」


 男がもう一つの拳銃を倒れたまま俺に向ける。

 俺は相手の体をうつぶせにすることで動けないように仕向ける。


「お前と俺のタイマンだったら俺は確実に負けてたし、雨姫との一騎打ちでもお前は勝てたかもしれない! でも今のお前は明らかに不利だ! 何故だか分かるか!?」

「テメェとあのアマが二人がかりでかかって来てるからだろうが!」

「違う! お前が自分の力を過信しすぎたからだ! なぁ、雨姫!」


 雨姫が遠くからコクリと頷いた。

 雨姫のリロードは既に済んでいた。この状況で撃つのは普通の人間はためらうだろう。なぜなら誤射の危険があるからだ。

 でも雨姫ならやれる。信じている。


 遠くでマズルフラッシュが見えた。遅れてやってくる銃声。

 銃弾は音もなく着弾する。

 男がやってしまったという顔でこちらを見た。

 俺は男が消える前にハンドガンを奪う。目を丸くしていた男はハンドガンを奪われたぐらいではもう何も感じなくなっていた。

 そしてその男は消えてしまった。


 そしてハンドガンを背の高い男に向けようとした瞬間。

 撃たれた。


 俺の体は半透明になってジャッジの後を追うように檻の中に放り込まれる。

 檻の中にもモニターがあり、檻の中からハンドガンを握りしめながら背の高い男を見つめる。


「邪魔が入ったが、ここから邪魔は入ることはない。一人一人きっちり始末させてもらおう」


 背の高い男は手始めに由香のアサルトライフルを撃った。

 身体を出していなかったから被弾は免れたが、由香のアサルトライフルは壊れてしまった。

 そしてふらりと体を揺らしたかと思えば、雨姫の放った弾丸が脇を掠めていく。

 男は肩にアサルトライフルを担いだまま、雨姫に近づいていた。


「いよいよ終わりか、思ってみればなかなか良い戦いだったな」

「そうだな。良い戦いだった」

「ッ!?」


 俺の姿は既に檻の外だった。

 後ろでは小日向さんが十字路の向こうから顔を出している。

 小日向さんが鍵を投げながら俺を呼び出したのだ。

 俺の体は鍵と引き換えに檻から解放された。


「奇襲の基本は相手の虚を突くこと。相手に自分の戦力を隠し通すことだ」


 俺はハンドガンで躊躇なく彼の体を撃った。

 彼の体はゆっくりと檻の中に送られていた。


「なるほど奇襲か。それは失念していた。だが」


 男はニヤリと笑った。

 俺は真顔でそれを見つめていた。


「これで勝ったと思うなよ!」


 俺にアサルトライフルの銃口を向けるとともに、半透明の体が現実世界に復帰した。

 男が俺から銃口を避けるように横っ飛びしながら銃弾を放った。

 その銃弾は寸分の狂いなく俺の体を貫いた。

 そして俺は......


 ()()()()()()


 既にピンの抜けた手榴弾が放物線を描いて、俺達の頭上で弾けた。

 男は咄嗟に回避しようとするがそんなことが出来るはずもなく爆風に吸い込まれた。

 気が付いた時には檻の中に放り込まれていた。

 男は唖然とした顔で佇んでいた。


「最初から何もかも分かった上で相打ちにしようとしていたのか」

「お前もあの後鍵を取りに行ったのではないかということは大体予想がついてた。予想が外れても別にそれで良かったし、お前が生き返ろうとしている場合は仲間にグレネードを投げるように言っていた」

「そうか......」


 俺の体は檻の中から出された。

 眉を顰めて諦めたように笑っていた男の姿が脳裏に焼き付いていた。

 そして頭上に輝くのはチープなWinnerの文字。


『おめでとう! この戦いを見事勝ち抜いたグループはこのグループだ! そしてなんと......グループスコアランキング第一位、個人スコアランキング第一位。三冠王を有したこのグループが間違いなく今回の戦いの優勝者たちだ!』


 改めてステージを見渡して、そこがとても広い事に気が付いた。

 俺はモニター越しに聞こえてくるなけなしの拍手を耳に小さくガッツポーズをした。

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