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奇襲は上手くいくと信じてやらなければ上手くいかない

 前方に小日向さんと雨姫が見つかったのはそれから間もなくしての事だった。


「大丈夫だったみたいだな」

「ええ、途中で2つのグループとかち合いましたけど、雨姫さんが倒してくれて」

「二つも!? うたかちゃんだけでよく倒せたね! あ、いや、私が居ても戦力にはならなかったかもだけど」

「......手負いだったから。それにあいつらじゃなかった」

「そうか。だったらまだあの男達は生きていると思った方が良いみたいだな」


 とりあえず雨姫と小日向さんが無事で良かった。

 雨姫はこう見えて凄腕だ。並の奴には負けないと思ったが、もしも俺達と別れている間にあの男達とぶつかり合っていたら、間違いなく檻の中に逆戻りだろう。

 背の高い男と猫背の男。

 これだけエリアが狭くなってくると、もうすぐぶつかり合うことになるのは間違いないだろう。


「最終決戦だ」


 向こう側で銃声が聞こえた。

 一方的にやられる悲鳴、もう一方は何の声も上げずにもう一方の的を撃つ。

 必要最低限の弾で、ここまで生き残ってきた強者を易々と撃ちぬいていく。

 間違いない。

 例の男達だ。


「居るみたいだな」

「何か作戦はあるんですか?」

「無いことはない。というか、ある。だけど100%勝てるわけじゃないし、全部うまくいって初めて勝てる」

「でもやれる方法はあるんですね」

「ああ、二番煎じは無粋だが、今回も奇襲戦法だ。それも気づかれることが前提の奇襲戦法だ。手短に伝える」


 * * * * * * * *


「でもそれって......」

「何かいっつも小日向さんには重要な役を押し付けてばっかりですね」

「まぁ、でもそれしかできませんから」


 小日向さんがもじもじとしている。

 今回の大役は小日向さんだ。もちろん由香も雨姫も大事な役割を持っているが、奇襲戦法は自分達の手を隠し通すことが大事だ。

 小日向さんに期待するべきは......残念だが銃の腕前ではない。だからこそ小日向さんには伸びしろがある。

 だから大役を任せた。

 相手の考えをどれだけ欺けるかが奇襲の要だ。


「見えた」


 俺は小さな声で気づかれないようにそう言った。十字路の中心に男達が立っている。

 だがそんな小さな声でさえ、相手は気づいたようだった。


「ジッパー。警戒モードだ」

「了解っす、兄貴」


 十字路のド真ん中、一番危ないところで二丁拳銃を構えている。

 あんなところで堂々と構えられるということは、周りで囲まれても大丈夫と言う自負があるということだ。

 俺は今、十字路を取り囲むように小日向さんたちを向かわせているところだ。


 すると、十字路のあちら側から何か声が聞こえて来た。

 あそこには由香を向かわせたはずだが、作戦実行にはまだ早すぎる。


「クソッ! なんだって、この俺がこんなクソみたいなゲームしなくちゃいけねぇって言うんだ! 口コミじゃ、中々良いって言ってたからわざわざこんなご時世に買いに行ったって言うのによ! FPSランカーのこの俺が、ペーペーの素人どもに上をいかれるなんてどうかしてるッ!」

「あんまり大きい声出すなよ」


 関係のない男二人組が現れた。

 その男達が目の前の強敵の存在に気づいて体を強張らせるのと、猫背の男が引き金を引くのはほぼ同時だった。

 滑らかな動きで二丁拳銃の先を二人の男に向けると、寸分狂わず敵を撃ちぬいた。

 檻の中に放り込まれた相手は何が起きたのか理解するまでに少しかかった後、クソッと床を叩きつけた。


「ディスプレイ越しにしか何かを撃ったことのない人間が、こんなところに来て使い者になる訳ないだろう」

「へい。兄貴の言う通りです」


 猫背の男は全く隙も見せずに、男たちを撃った後にまた警戒態勢に戻った。


「手厳しいな」


 果たして俺の考えが上手くいくのだろかという考えが脳裏をよぎる。

 だが、もう後戻りはできない。


「時間だ」


 時間ぴったりに向かい側から銃口が光る。その銃口からは何発かの弾丸が放たれた。

 背の高い男と猫背の男は二手に分かれながら十字路の物陰に隠れる。


 まずはこの警戒態勢を打ち砕くべく、由香が相手に向けて発砲する。

 絶対に体の一部を見せてはいけない。だから、当たらなくても良い。

 この役目なら小日向さんも出来るかもしれなかったが、明後日の方向を撃たれては元も子もない。

 だからある程度見なくても狙いが定められるぐらいの技量は必要だ。

 実銃の反動を考えると、ここは由香にさせるしかないだろう。


「知らない間に囲まれていたということか。これは横も注意した方がよさそうだな!」

「へい、兄貴!」


 十字路の向こうに聞こえる声だ。

 おそらく注意を促しているのだろう。

 猫背の男は注意を促されてやっとそんなことに気づいたようで、横にも注意をことさらに向けた。どうやら猫背の男はそういうことに気づきにくい性格らしい。

 その分を背の高い男が補っているのだろう。


 あの背の高い男は俺に少し似ている。

 アイツは参謀役と索敵役を一手に引き受け、さらに銃の素質もある。

 俺には出来ないことだ。

 でもアイツには出来ないことが俺には出来る。

 それは、地道にひとつづつ戦略をくみ上げていくことだ。

 普通の人は仮に戦略をくみ上げたとしても、本当にそれがあっているのかと考えてしまって全く実行しようとしない。

 だが、俺にはそれが出来る。


「小日向さん!」


 俺は小日向さんの方向に向かって吠えるようにその名前を呼んだ。

 その刹那、花火のようにフラッシュバンが宙高くで弾けた。


 仕掛ける!


 猫背の男は目を瞑っていた。

 俺は光の向きに手を翳しながら走る。

 猫背の男は隙だらけのようにも見えたが、何かを探るようにじっとしている。


 俺がアサルトライフルを構えながら近づくと、何かに勘づいたようにこちらに銃口を向けた。

 ノールックだが、しっかりと俺を捉えている。


「同じ手には引っかからんぜ」


 俺はアサルトライフルを捨てながら横っ飛びで銃弾を避ける。

 銃弾が地面を弾きながら俺の足跡を削っていく。


「武器を捨てるとは命知らずだな」

「いつから俺が仕掛けると思っていたんだ?」


 フラッシュバンの光が収まり、十字路の右側で銃口が光を反射した。

 雨姫が万全の態勢でこちらを覗いていた。


 火薬が弾ける音がした。

 その弾丸は猫背の男に一直線に飛んで行く。

 そして、


「だから同じ手には引っかからんぜ」


 避けた。

 ......避けたぁ!?

強敵......強敵過ぎませんか?

果たして勝てるんでしょうか?

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