いよいよ最終局面だ
真っ白な空間に移動した俺はそこに居た人物にホッと胸をなでおろした。
だが、助け出された本人はこの状況が理解できないというように、首を傾げていた。
「......どうして?」
「雨姫が檻の中にいる間に色々あってな。檻の鍵を手にすることが出来て、雨姫を助け出せたんだ。ずっとここに引きこもってたから分からなかったかもしれないけど」
「......ありがと」
雨姫が頬を赤くしながらそう答えた。
......控えめに言って可愛すぎるだろ。庇護欲を掻き立てさせる天才か?
だが、FPSにおいて雨姫は庇護されるほど弱くない。少なくとも俺達のグループの中では一番強いだろう。
「もう出る?」
「いや、もう少しここに居よう。実は敵がここに来ているんだ。しばらくしたらどこかに行っていると思うが用心するに越したことは無い。小日向さんと由香にも手榴弾を投げたら速攻でこの場所から逃げるように言ってあるからしばらくここに居ても心配することは......多分ない」
いや、小日向さんの事だから出てこなければ多分心配するだろうが、だからと言って俺の言ったことを聞かないということは無いだろう。由香はおにーちゃんのことだから、と流してくれるだろうし、とりあえず不用意に出たのがバレて撃たれることだけは避けたい。
ここは中に居るのが一番良いだろう。
「そう言えば、どうしてFPSがそんなに上手いんだ?」
「......引きこもってたから」
「別に雨姫の場合はゲームにはまって引きこもったわけじゃないだろ」
「......引きこもる前も引きこもってた」
多分、引きこもる前というのはあの白い空間に閉じ込められる前と言う意味だ。
孤児院で引きこもることが許されるのか、そもそも孤児院でゲームが出来るのかなど色々な疑問がわいてきた。
しかもこの動きはゲームのソレで鍛えられるものなのだろうか。
そもそも約15年前の技術がこんなものに活かせるものなのだろうか。
雨姫の事を知ろうとしても謎が深まる一方である。
「なぁ、FPS好きだったのか?」
「......うん」
「今、楽しいか?」
「うん」
「ならよかった」
雨姫はハッと目を見開いた。
「......迷惑じゃなかったの?」
「むしろいい暇つぶしになったさ。サバゲももっと強くならなきゃいけないし、ログアウトできないことはやや難点だが、別に命がかかっているわけじゃない。そういう意味で言えば超リアルなゲームを楽しませてくれていることは感謝しこそすれ、迷惑には思わない」
「本当?」
雨姫が心配そうな目でこちらを見ている。
どうやら相当気がかりだったらしい。
こちらに来てから雨姫の様子が殺気立っていた。そこに楽しみのようなものは一つも感じられず、俺から見れば、ずっと塞ぎ込んだような表情に見えていた。
「あぁ、本当。これで一位を取れたらもっと楽しいだろうな」
せっかくやるなら楽しんでほしい。
それが俺のせいで楽しめていないのであれば、雨姫に楽しんでもらえるように威勢を張るだけである。
「もうそろそろ出ようか」
「うん」
やっと笑った。
真っ白い部屋から出ながら雨姫の顔を見つめながら俺も嬉しい気持ちになった。
気が付くと祭壇前に居た。
やはり雨姫が出て来た瞬間にチートが発動していたのでこちらの世界に吸い込まれたのだろう。雨姫があの男たちと会話を避けるために引きこもっていたのが上手くいったらしい。
それを踏まえて考えると、やはり相手はワープ系のチーターだが、ただのワープ系チーターではなく相手の座標を把握して座標ごとワープさせていると考えた方が正しいだろう。もしかするとワープさせているのではなくて、座標を入れ替えているのかもしれない。
目の前には小日向さんが居た。
「あぁ、戻って来ていたんですね」
「あぁ、戻って来ていたんですねーじゃないですよ! 心配したんですよ! もしかしたらもう倒されて檻の中に入れられてしまったのかと」
「すいません」
俺はアハハと笑いながらその場を切り抜けようとした。
頬を膨らませる小日向さんも可愛い。
「でも無事雨姫さんを助け出せていたようでホントに良かった。やっぱり佐々木君は凄いですね」
「そ、そうですか?」
小日向さんに褒められて鼻の下を伸ばしていると、由香が太もものあたりをつねった。
どこで覚えてきたのかは知らないが、痛い所を的確につねってきたので飛び跳ねながらつねられた部分を押さえていた。
由香が軽蔑の目で俺を見る。
もう少しおにーちゃんを慕っても良いんだぞ?と言おうかと思ったが、これ以上体と心を痛めつけられるのは精神衛生上悪いので、自粛することにした。
『諸君! 聞こえているだろうか!』
モニターに屈強な男が映った。
何事かと目を向ける。
『たった今、残りのグループ数が10チームを切った! 諸君らの戦いぶりにこちらも高揚感を表に出さざるを得ない! 決着の時は着々と近づいている!』
男の様子がおかしい。
寡黙な印象だった男が、鼻息を荒くしてゲームの行方を見守っている。
アレは本当にNPCなのかという疑問が頭の中をよぎった。
『ということで白熱してきた戦いを盛り上げるため、ここでランキングを発表する!』
「ランキング?」
『このランキングは、総キル数、チームキル数、デス数、チームデス数を総合的に見て判断した個人ランキングだ! つまりこのランキングが高い者ほど戦場でより立派な傭兵として評価されるということだ!』
どんな評価方法なのかは分からないが、このランキングは見ていて損は無いかもしれない。
もしかしたら最後まで残った人間が優勝者なのではなく、このランキングが高かった人間が優勝なのかもしれないからである。
『まず一位は......ミスター・チャック!』
モニターに現れたのはあの背の高い男だった。
やはりというか、現れたキル数は18。圧倒的である。
『そして二位は......ミス・雨姫!』
現れたのは雨姫だった。
俺は隣の少女とモニターに出る少女を見比べてあんぐりと口を開けていた。
キル数は13。相手と比べると見劣りするが、それでもすごい数だ。
雨姫は静かに笑ってガッツポーズしていた。
『三位は......ミスター・ジッパー!』
これには驚きだった。
確かにあの二丁拳銃の構え方はただ物ではないと思っていたが、まさかそこまでやる男だとは思わなかった。
『まだまだ勝負の行方は分からない! 優勝者およびそのグループには豪華賞品であるログアウト権限を与える! 引き続き頑張ってくれたまえ』
それだけ言うとモニターが切れた。
「一体何だったんだ......」
俺はイメージが食い違ってしまったあの男を思い浮かべながら首を傾げた。
いやー、段々終わりが近づいて来たような感じがしますね!