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機転が実力の差を捻じ曲げるのだ。

 俺達は一目散に走り続ける。

 そして破壊された壁のところまで戻ってきた。


「人影は......いないみたいですね」

「ということは前に居るか、それともまだ来ていないかのどちらかだろうな」


 もしもこのショートカットを利用できるグループがここの鍵を取りに来ていない場合、俺達はほとんど敵なしということになるが、もしも取りに来ている場合、ここのルートは既に過ぎ去っていてもおかしくない。

 つまりどちらの可能性もあり得るのだ。


「ここからは慎重に行きますか?」


 俺は小日向さんに決定権をゆだねることにした。

 ここからはいつ会敵してもおかしくない。だから一瞬の油断が命取りになりかねない。

 だがしかし、ここのショートカットを利用していた場合、そのグループは自分たちが他のグループに比べてかなりのリードを握っていることを察するだろう。

 そのことが分かった相手は、自分達に敵は居ないとみなして大胆に素早く進んでいる可能性が高い。だから慎重に行っても相手に追いつけることはまずないだろう。


「いえ、それじゃ行く意味がないじゃないですか。うたかちゃんを取り戻すのなら最初に行かなきゃいけないんでしょう?」

「その通りです。行きましょう」


 俺達は重たいアサルトライフルを肩に担いで全力でひた走る。

 ここまで慎重に歩いて来たから大分長い道のりに感じていたが、走ってみると短いものである。

 マップ上での俺達の位置は一秒ごとに更新され、目で見て近づいていることが容易に分かった。

 そして最後の曲がり角にたどり着く。


 俺は口元に人差し指をあてがいそろりそろりと歩き出した。

 角の壁から少しだけ顔を覗かせて様子をうかがう。

 そこは祭壇のような場所になっていて、宙に浮かぶようにして鍵が配置されてあった。

 そして予想する中でも最悪の事態が起こっていた。


 その鍵は相手に握られようとしていたのである。

 相手のグループは二人。一人は背が高く長髪の男で、もう一人は猫背で背の低く髭の生えた男だった。

 せめて気づかれずに一人だけでも。

 俺は肩にかけた銃を体に引き寄せた。


 相手の動きがぴたりと止まった。


「......」

「どうしたんでス、兄貴ィ」

「臭い」

「何がでやんスか?」

「横取りしようなどと言うチンケな考えを持った盗人の匂いが、だ!」


 その長髪の男は素早く銃を構えた後、こちらに銃口を向けてすぐさま発砲した。

 銃弾は壁を掠り、俺の頬を掠めた。あと数瞬、俺の反応が遅ければ体は今頃檻の中だろう。


「やはり実銃は重いな。一々構え直すとエイムが遅れる」


 あれで遅い?

 俺は耳を疑った。俺は避けるのが精一杯だったというのに、それでも遅いとは。

 エアガンだったら確実に当たっていた。


 俺は冷や汗を流す。

 会敵することは予想済みだった。だが、まさかここまで強い敵が現れるとは思っても居なかった。

 俺より格上であることには違いない。

 そして俺の見立てによると......雨姫よりも格上だ。

 思わぬ障壁が立ちふさがった。


「さっさと出てこい。出てくればさっさと倒す。出てこなくてもさっさと倒す」

「そうだぞ! 兄貴の手をてこずらせるんじゃねえ!」


 出て行くわけが無い。

 俺は打開策を考える。

 正面から行っても絶対に勝ち目はないが、あちら側に行くためにはこの道を通るしかない。

 どうすればいい。どうすればこの窮地を乗り越え、一人の犠牲も出さずに、鍵を奪取して雨姫を救い出すことが出来る?


 こちらの持っている手札は相手と張り合うにはあまりにも少ない。

 数はこちらの方が多い。技量はもちろんあちらの方が高い。サバゲにおける知識においてもあちらの方が上。武器は......背の高い男が持っているのは俺達と同じアサルトライフルだが、背の低い男は何も持っていない。

 いや、腰元にホルスターがある。二丁の拳銃がその中に入っていた。雨姫の様に訓練場にあったものを拝借してきたのだろう。

 背の高い男の実力は高いことが分かったが、猫背の方は未知数だ。普通に考えて、実力は低いだろうと思われるが、それは見た目や言葉遣いで判断しているだけだ。客観的な事実があるわけではない。

 どうすれば切り抜けられる?


「ジッパー、お前はそこで見張っておけ。何があるか分からんからな」

「へい、兄貴!」


 少しずつ足音が近づいてくる。

 何か、正面から戦わない方法はないか。

 ......正面から戦わない?


 俺は小日向さんを呼び寄せる。そして耳に口を当てて思いついたことを話す。

 小日向さんはコクリと頷いて走って行った。


「仲間を逃がすとは懸命だな。そして時間稼ぎに一人残す。なかなか良い考えだ」


 それは違う。

 要は発想の転換なのだ。

 正面から戦わないためにはどうすれば良いのか。それは正面に行かないことに尽きる。

 その為にも今は俺が時間稼ぎしなくてはならない。


「なぜ、お前のパーティーは四人しかいない?」

「二人はやられたからに決まっているだろう」

「それは違うな」

「......何?」


 相手の足の動きが止まった。


「お前ぐらいの相手になると、どれだけの数の敵がどこに動いているか分かるはずだ。奇襲も効かなければ、正面と戦って勝てる相手も早々居ない。なのにこの序盤で二人も仲間がやられるような隙を作るのはおかしい」

「つまり何が言いたい」

「お前、仲間二人倒しただろ」


 相手はクククと笑い始める。

 言っていることが心底おかしいという風に。

 そしてその笑い方は次第に大きくなっていき、ついには大きく笑い始めた。


「ハァーハッハッハッハ!!! なるほど! 私がそんなに非情な人間に見えるというのか!」

「当たり前だ」


 俺は間髪入れずにそう言い切った。

 そしてある準備をする。

 俺は銃を肩から降ろして地面に垂直に立てる。

 曲がり角の向こうから聞こえていた男の笑いがピタリと止まった。


「正解だ。私のパーティーに足手まといは必要ない。私の行く手を邪魔する者はたとえ仲間であろうと排除する。そして」


 男は素早い動きで曲がり角の向こうから銃を構えたまま走り出した。

 照準をブレさせず一縷の隙も見せずに突撃してくる。


「貴様も終わりだッ!」


 男は銃口を曲がり角の向こうへと差し向けた。


「何......だと?」


 しかしそこには誰も居なかった。

 あるのは倒れたアサルトライフルだった。

 男はそのアサルトライフルを拾う。


「一体どこに行った......まさか!」

「あぁ、そのまさかだよ。そしてこの壁、壊せるんだぜ?」

「......ッ! ジッパーッ!!」


 そう、この壁は決して高い壁ではない。

 背の高い一般男性がジャンプして壁の上に届くか届かないかぐらいだ。おそらく3m弱だろう。

 銃を背負った状態で届かないであろうこの壁を登ろうという人間はあまりいない。

 だが、決して登れないわけではない。

 それに何らかの足がかりがあればわりと簡単に上ることが出来る。

 短時間、ほんの一瞬で良い。体を支える脚立のようなものがあればよかった。

 そして自分の肩にはそのための道具があった。


 男が叫ぶと同時に祭壇の両側の壁が爆発する。

 爆音が鳴り響き、数多の破片が宙を舞う。

 背の高い男は慌てて祭壇に走って行った。


「奇襲だ! 警戒モードに入れ!」


 先程、俺は小日向さんに、由香と共にこの祭壇を壁の向こうから回り込んで爆破することを頼んだ。

 でも目的は奇襲ではない。

 攪乱だ。


 誰しも慌てることぐらいある。

 予期せぬ事態が次々に起こった時にはなおさらだ。

 土煙が行き交い、爆音と高熱が交錯するような戦場では言うまでもない。歴戦の兵士だって心を乱される。

 そんな時物を言うのは圧倒的な実力でも、経験の差でもない。


 相手の行動の予測と準備の差。これだけである。

 俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「へい、兄貴」


 ジッパーと呼ばれた男はスッと眉をひそめてホルスターから二丁拳銃を抜き、開いた壁の穴へと素早く向けた。

 その格好は映画で見たガン=カタさながらである。

 その時、完全に注意は開いた壁に向かっていた。


「うっ!?」


 ジッパーの体がぐらついた。

 それは銃に撃たれたからではなく、体当たりされたからだった。

 他でもない俺の体に。


 土煙が巻き上げられ視界が不鮮明になっていたこと、手榴弾の破裂する音や瓦礫の散らばる音で足音が掻き消されていたこと、それらすべてが功を奏した。

 猫背の男の体は前に押し倒された。

 そして俺の手は鍵に触れた。


「しまった!」


 背の高い男がそう口走る。

 俺は鍵に向かって腹から声を出して叫んだ。


「雨姫宇鷹を檻から出せぇぇぇーーー!」


 次の瞬間、俺の体はフッと溶けるように消えた。

 土煙が無くなる。

 そしてその祭壇には男二人だけが残されていた。


「スイマセン! 逃がしちまいました!」

「......良い。俺にも落ち度はあった」


 男二人は雨姫のチートで二人が白い空間の中に逃げ込んだことを知る由もない。

 そして男は祭壇を後にする。


「次に会った時は、必ず俺が貴様を倒す」


 そう言い残して。

いやー、強キャラが出てきましたね。

こういうキャラ自分はめっちゃ好きです。

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