仲間を助けるためにはまずは頭を働かせるしかない
敗者復活戦のお知らせの後、モタモタしている暇はない。
一刻も早く監獄の鍵を手に入れて、雨姫を助け出さなければ、他のグループに助け出された後で鍵を手に入れても意味がない。
「だが、このマップの恐ろしいところは自分以外の人間が表示されていないところだ」
「書いてあったら位置がバレちゃいますもんね」
「だからどこの鍵を何グループが取りに行こうとしているかが分からない」
ゆっくりと考えている暇はない。
だが、やられては元も子もない。
「待てよ......これはチャンスでもあるのか?」
「どういうことですか?」
皆が集まるということはリスクが高いということだ。
皆、牢獄の鍵は貰いたいかもしれないが、生き返らせることが出来る人は一つの鍵につき一人である。
鍵を取りに行くことのメリットは、味方が一人増えることだ。だが取りに行くために味方が減ってしまったら意味がない。
仮に味方が一人やられたとしても、その分強い人が分かっていれば助ける価値はある。だが二人以上はダメだ。それ以上はデメリットの方が大きくなってしまう。
「つまり容易に動くことはできません。動いたとしても大胆に移動するのはすなわち死につながります。第一、俺達よりも近くにグループが居て、近づいたにも関わらず全く間に合わないなんてことも......」
そこまで考えて思考が止まった。
そして急速に違う回転をし始める。
「マップ、見せてくれ!」
「は、はい!」
由香が俺達の様子を呆れた顔で見ている。
熟考している俺を見て、こんなところですべきではないと思ったのだろう。
だが、こんな時だからこそ、考えなければいけないのだ。
「小日向さん。ここまで通ってきた道を覚えていますか?」
「え......覚えてないです」
「俺達がここまで通ってきた道では三回の会敵、うち二回は挟み撃ちでした。ここに至るまでに六回の交差したT字路がありました。そして右が四回、左が二回、だから俺達の出発点はここです」
「へぇ」
まるで昔のテレビ番組で流行ったような掛け声である。
それだけ言われても「だから何?」と言われてしかるべきだろう。
だが、これが分かれば見えてくるものがある。
先の見えない山道の中でも、獣道を探し鉈を振るえば、開けて道が見えてくる。
前に進めばさらに鉈を振るい、それを繰り返して目的地を目指すのだ。
「最初のグループ数は?」
「えっと......確か40組です」
「そう。つまり出発点は40個あるはずですよね」
「そう、ですね」
至極当然という感じで返答してくる。
確かにそう。至極当然だ。
「そしてそれらしい場所が横一列、東西南北各10個設置されています。そして角と中央に鍵の設置場所が配置してあります。一見、中央の方が近いように見えますが、等間隔に配置されたT字路が角に向かうのと同じだけの数あります。つまり、角に行くのも中央に行くのも距離からしてみればほぼ同じということです。まぁ、見た目では中央の方が近いのでそこに集まるのを予想して、少しずつ数を減らすための救済策とみることも出来ます」
「はぁ......?」
まだ何が言いたいのか分かっていないようだ。
自分も分からない。
今は鉈で道を切り開いているところだ。その先に何があるかなんてわからないし、もしかしたら何も無いかもしれない。
「ではここから、行くべき道を探します」
「はい」
しばし長考。
マップを見つめて分かったこと。
良く出来ている。
出発点の違いでそれぞれの鍵からの場所が違わないようにしているだけでなく、どのルートを通るかによってほぼすべてのグループと会敵できるようになっている。
「あ、そうか」
「何か分かったんですか!?」
「ええ。イレギュラーが見つかりました」
「イレ......ギュラー?」
俺はマップの一部分を指した。そこは俺達が通ってきた場所であり、敵と会敵した場所でもある一つのT字路だった。
「ここのマップ変わってないですね」
「変わってないって......あっ!」
そう、マップが変わっていない。そのままの状態になっているのである。
そこは俺が手榴弾を使った場所だった。
雨姫のチートと組み合わせることにより、壁を破壊してその瓦礫で道を塞いだはずの場所である。
そこの場所が変わっていないということは、つまりこの完璧なマップに変化が生じたことに運営側は気づいていないということである。
「つまりこの道路が封鎖されたことにより、ここからこっち側のチームはこの鍵を取るためにこれだけの遠回りをしなければならないということになります。これは鍵を取るタイムアタックをするのであれば致命的です。そして、これで振り落とされたグループ数は約半数になります」
「半数!? それってもしかして......」
「ええ、ここの鍵に関してはこの情報にたどり着けた俺達だけが有利ということになります......ん?」
「まだどうかしたんですか?」
それだと、この壁が壊されたことにより、つながった道があることになる。
俺はマップを指差しながら続けて小日向さんに説明する。
「もしもこの道路とこの道路がつながってしまった場合、1グループだけですが大きくショートカットできるグループがあります。相手はこのことに気づいてないと思いますが、このルートで鍵を取りに行くとしたら、間違いなくこの穴が開いた場所にたどり着くと思います」
「それって不味いのではないですか?」
「とてもまずいです」
俺は地面に置いていた荷物を持ち上げる。
「急ぎましょう」
「急いでなかったのはおにーちゃんじゃん」
「あれは必要な時間だったの!」
由香が不貞腐れたような顔をしてこちらを見ていた。
どうやら俺が推理していた間、大分もどかしい時間を過ごさせてしまっていたみたいだ。
俺は由香に尻を叩かれながら目的の場所へせっせとひた走る。