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自己犠牲は本当の奥の手だ

 俺達はグループの人間が一人減った状態で先の見えない路地をひた走る。

 まさか雨姫の居ない状態で歩くのがここまで厳しいものだったとは思いもよらなかった。

 俺達は知らず知らずのうちに、索敵も何もかも雨姫に押し付けてしまっていたのかもしれない。


「雨姫......」


 モニターの中にはむさくるしい男達の中で紅一点、静かにたたずむ少女が見えた。


「あ、あの、君も撃たれてしまったのかなー? た、大変だったねー」

「......」

「ていうか、こんな子もこういうゲームしたりするんだなぁ。何~? そういうの良くしちゃったりするわけですか~?」

「......」


 俺があそこの中に居たら、怒鳴り散らして頭おかしい奴だと思われる自信がある。

 それで雨姫に人が寄り付かなくなるなら本望だ。雨姫も寄り付かなくなる可能性が十分にあり得るので多分しないと思うが。


 そんなことを考えていると雨姫の姿がふわりと消えた。


「な......え? は!?」

「嘘! これ、どうなっちゃってんですか~?」


 デブオタとチャラ男が困惑しながら辺りを見渡した後、檻の外にいる屈強な男に話しかける。


「これ、反則っしょ!?」

「何がだ?」

「だから、相手が消えるのって、ていうか消えるってどういうことなんすか!? 仕様? バグ?」

「そこにいるではないか。何を言っているんだ」


 屈強な男はタブレットを取り出した。

 そこには雨姫のアイコンとその位置情報を表していると思われる光が見えていた。

 どうやら男はその情報で場所を理解しているらしい。こういう融通の利かないところはNPC特有のバグなのかもしれない。

 それはそうである。相手が異空間引きこもりかもしれないなんて想定していないだろう。


「だがこれは逆に困ったな」


 これでわかったことがいくつかある。

 一つは、雨姫がチートを発動してもこちらのチートが発動しないほど物理的距離が離れているということ。

 次に、距離が離れているだけで異空間に送り込まれるタイプではないという事。

 俺のチートは物理的距離の違いで反応する。雨姫が異空間にいても距離さえ離れていなければ俺のチートは発動する。なので距離が離れていると考えた方がよさそうだ。

 それと同時に、絶望的な状況であるということも理解する。


 ここがもしも実在の世界であるならばこんなに大きい場所を確保することは出来ないだろう。

 と言うことはここは実在の世界ではない。雨姫が作り出しているような異空間と考えてよさそうである。ということはどうにかして脱出と言うことは難しいだろう。正攻法でやるしかない。


「雨姫が居ない中で一体どうやって戦えば良いって言うんだ......」


 もしも俺がいなければ、誰か他のグループと共闘しながら戦っていくことも出来たかもしれない。

 だが、俺がこのグループに居ることによって俺達は皆のヘイトを買っている。

 否、もっと言えば『俺達が』ヘイトを買っているのではなく『俺が』ヘイトを買っているのだ。

 今ここで俺が檻の中に行くことが一番手っ取り早くて不正もないやり方である。


「今、なんか嫌なこと考えてませんでした?」


 そう尋ねてきたのは小日向さんだった。


「え!? いや、そんなこと......ないですけど」

「顔にそうですって書いてありますよ」

「ないですよ」

「嘘つかないで下さい。思考ダダ洩れですよ。どんなこと考えてたのかは知りませんけど、いっつも無茶をするときの顔をしてました。本当のことを言って下さい」


 小日向さんが頬を膨らませてこちらを睨む。

 それを見て気づいた。

 多分、小日向さんは俺が居なくなっても、他のグループと手を組んだりはしないだろう。

 万一、相手側からそれを提案されたとしてもきっぱり断って、次の瞬間には檻の中に入れられてしまうタイプだ。

 俺の解決方法はどうやら間違っていたらしい。


「分かりました。本当は自分を撃って檻の中に行けば、小日向さんたちと手を組みたいと考えている人は沢山居るはずなので、手を組めばゴールすることができると考えていました」


 小日向さんが大きなため息を吐いて頭にデコピンをする。

 思いのほか結構痛かった。


「そんなことするわけないじゃないですか」

「デスヨネ」


 俺はおでこをさすりながら小日向さんを見た。

 小日向さんは俺の目を上目遣いで見つめながら頬を膨らませていた。


「馬鹿」


 小日向さんが俺から目を逸らす。

 申し訳ない。申し訳ないとは思っているが、控えめに言って今の小日向さんは......


「可愛い」

「ふえっ!?」


 小日向さんはこちらを向こうとして慌てて目を逸らす。

 だが耳の方が赤くなっているのが俺には見えた。


「い、行きますよ! もうっ!」


 可愛い。可愛すぎる。あざといを通り越して最早可愛いの感情しか残っていない。

 俺の中で可愛いの気持ちが臨界点を超えて核分裂するぐらい可愛かった。

 やはり天使であったか。


 そんな余韻に浸っている時、どこからともなく轟音が聞こえた。

 サイレンのような音だった。

 その音と共に手の中に何かが握られているのに気づく。

 それは携帯端末のようなものだった。


『残された20グループの傭兵に今、携帯端末を支給した。そこには地図情報ととあるものが書かれてある』


 俺はとあるものと呼ばれたものを探す。

 そこにはマップと思われるものがあった。あの屈強な男が見ていたものと同じだ。

 そして五つの黄色い点と赤い点が描かれている。

 俺はその場で短距離シャトルランをしてみた。


「何やってるんですか」

「ん? いや、この地図の赤い点は」

『その携帯端末に書かれている赤い点は自分の位置を指している』

「......みたいですよ」

「みたいだな」


 ちょっと恥ずかしい。


『そして黄色い点は、とあるアイテムの位置を指している。そのアイテムとは“牢獄のキー”だ』

「!!」


 それを聞いて俺達の中に電撃が走った。

 考えていることは多分一つだろう。


『この鍵は使い切りだ。この鍵を使うことによって、呼び出したい相手を檻の中から呼び出すことが出来る。もちろん仲間でなかった人間を呼び出しても良い。健闘を祈る』


 その言葉を聞いて俺の中には喜びを感じたが、その中で一抹の不安も感じた。


「これ、一番最初に手に入れないと駄目だ」

「何でですか?」

「おそらく、おそらくだが、この敗者復活戦で一番の人気株は......」


 俺はモニターを睨みながら、そこに居るはずの空白の少女を睨む。

 小日向さんも由香も俺の言わんとしていることが分かったらしく、二人ともタイミングを同じくしてゴクリと息を飲む。


「雨姫だ」

敗者復活戦......!

雨姫ちゃんを奪い合って必死に戦います!

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