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顰蹙を買うと大抵悪いことになる

 足音が聞こえる。雨姫はあちらに手いっぱいでこちらを振り向くことが出来ない。

 雨姫の額から汗が流れているのが分かる。

 ギリッと歯ぎしりが鳴る音が聞こえた。


「......来るっ!」


 その言葉と同時に自分が向いている方から何かが飛んでくるのが見えた。

 俺はあの時みたいにならないようにしっかりと目を凝らす。少し短い円柱のような形をしたそれは、予想した通りスタングレネードであることに気が付いた。

 俺はあの時の二の舞を避けるため、慌てて目を閉じる。


 瞼の裏が激しく光っているのが分かった。

 目を閉じるぐらいではどうにもならないほどの想像を絶する光線に俺は目を瞑ったまま下を向く。

 なんとかスタングレネードの回避に成功したが、ここからが重要だ。


 相手と同じタイミングで目を開けたのでは遅すぎる。

 そのタイミングを見極めなければ俺に勝機はない。


 俺と彼らの距離はおよそ10m

 対人FPSだとこの距離で対峙することもあるかもしれないが、サバゲをすることを前提とした場合にこの間合いはすこぶる短い。

 今回はこれが功を奏したとも言える。

 普通は良しとされていないこの間合いだが、この距離で普通の手榴弾を投げれば自分達も巻き添えを食らうであろうことは明白である。

 かといって何もせずにこの間合いから走って出て行くことは格好の的になるのと同じである。実際、俺が倒せたのは相手が動揺していたからという理由だけではなく、単に狙いやすい近さだったからとも言える。

 そして彼らのグループはそこに何の対策もせず玉砕覚悟で突っ込んでくるような馬鹿ではなかった。

 その結果が、警戒のためのスタングレネードだったという訳である。


 このスタングレネードは両者に平等に時間を与えた。

 否、俺がフラッシュバンは初見で適切な対処が取れなかったなら平等な時間すら与えられなかっただろう。

 そして俺は感覚だけを頼りに銃を構えた。

 目を開けた瞬間に出て来た敵を撃てるようにするためにだった。


「突撃ィーーッ!!」


 その号令と共に目を開けた。そして俺は壁際に照準を定めて訳も分からぬままに一発だけ発砲した。

 その弾丸は駆け足で出て来た4人グループの一人を見事に撃ちぬいた。

 相手の体がホログラムとなって消え、残る相手の数は三人となった。


 俺達の姿を見た敵の一人は、俺達を見た瞬間とても驚いたようだった。

 そしてその表情はみるみる内に憎しみの表情へと変わっていく。


「お前......」


 俺はその男の顔をじっと見つめる。

 どこかで見た顔だっただろうか? 会ったことは......無い、無いはずだ。でも俺は人の顔を覚えるのが苦手なので、もしかしたらどこかで会ったことがあるかもしれない。

 思い出せ、と頭で念じているうちにその答えは相手の口から明かされた。


「ハーレム男じゃないかぁぁぁぁッ!!!」


 半ば絶叫にも似たような声でそう叫びながらのたうちまわっている。

 ハーレム男と聞いてピンときた。

 グループを組んでいる最中に何人かの人間が俺のことを恨めしそうな目で見てきていたのを思い出した。

 注意深く脳裏の中の記憶を探っていく。


 み、み、見つけたーー!


 一番近くで俺を睨んでいた男。しかもこの男、着替えの時に俺の隣で着替えていた男ではないか!

 この時からずっと俺に恨みを持っていたのだと合点がいった。

 ......待て待て、がってんポーズなんかしている場合ではない。


「お前、お前が、唯一居た女の子たちを三人も独り占めした男だったのか!」

「待て待て! 俺とこいつらは知り合いなんだからグループぐらい組んでも当然だろうが!」

「うるさぁぁぁい!」


 彼は俺の口を黙らせるように俺に向けて発砲した。

 どことなく撃ってきそうな気配はあったため、俺はタイミングを合わせて回避した。

 そのやり取りにどことなく周りがざわついて来たのがなんとなく理解できた。


「アイツ、この子たちとそんな関係だったのか」

「恋愛ゲームの主人公でもねぇのにこんなこと許されると思うか?」

「理不尽は粛清ナリ」

「しかも顔がかっこよくない」

「つり合ってない」

「ああ、普通だな。凡人レベル。俺の方がかっこいいかもしれない」

「それはないから諦めろカス」

「は?」


 仲間の間でも敵との間でも火花が散り出す異様な雰囲気に、緊張の糸がぷっつりと切れる音がした。

 それは理性的なプレイが出来なくなったことを意味していた。


 顔を真っ赤にして打ち震える目の前の男が血眼でこちらを見た。

 狂気にも似た何かを感じた。

 そしてその男は唾をまき散らしながら叫ぶように言葉を発した。


「テメェは粛清じゃぁぁぁぁぁああああ!!!!」


 一人が突撃したのを皮切りにグループの奴らが全員飛び出してくる。

 それと同じくしてあっちに居た奴らも全員玉砕覚悟で駆け出していた。

 自分が向いている方3人、雨姫たちの方3人の合計六人による挟み撃ちと化していた。


 俺は彼らの弾を避けながらも構えて弾丸を放つが、中々上手く当たらない。

 相手の頬を掠めて弾丸は明後日の方向へ飛んで行ってしまった。

 だが、幸いなことが一つあるとすれば、走り出した敵の多くが俺をターゲットにしていたということだった。

 俺は銃を向けることも忘れてただひたすらに相手の弾丸から逃げまどっていた。


 相手の武器も支給されたアサルトライフルと同じ型だったので、連射をすると手元が狂うみたいである。

 思ったように照準が定まらないもどかしさが、ますます八つ当たりの様に増長されていく。


「うおおおおおおおおおお!!」

「ひええええええええええ!?」


 俺は奇跡的に雨あられのように振りそそぐ弾丸に当たることもなく走ることが出来ていた。

 最早相手の銃が向いている方向など見る余裕もない。

 でも止まってしまったら即座に打ち殺されるだろうと思った。


 その時、一人の男がホログラムとなって消えた。

 そして続くようにもう一人。

 男達は正気を取り戻したように弾が飛んで来た方向を見た。


 雨姫が撃ったのだった。


「ナイスだ!!」

「......」


 だが、男たちの標的が俺から雨姫へ変わろうとしていたのを感じ取った俺は慌てて銃を構えて発砲する。


「お前達の相手は俺だろうが!」

「......」


 男達の間に沈黙が流れた。

 そして血眼の男が真顔で答えた。


「いや、あの子を倒してからなら、お前はどうとでもなるな」


 その言葉が彼らのタガを外した。


 4人が雨姫の方を振り返った。

 雨姫に突撃するように、叫びながら突っ込んでいく。

 雨姫の顔は冷静なようだったが、それは何もかも諦めたような顔だった。


 雨姫は銃を構えた。

 三脚を立てていたライフルを持ち上げて、俺達がするような体勢になった後、一人ずつに照準を合わせて一発ずつ撃っていく。


 一人が倒れ、二人が倒れ、次に倒れるのは男の方では無かった。


「雨姫!!」


 雨姫がホログラムになる寸前に撃った弾丸は、見事三人目を捉えていた。

 俺は最後の一人が慌てている間に撃ち倒すことしかできなかった。

 そして俺達のパーティーは最高戦力の一人を失い、三人となったのだった。

 頭上から何か音が聞こえた。


『初期パーティ40から、20まで減った。のこり戦力はおよそ半分だ』


 モニターには屈強な男と監獄が映って居た。

 そこの端に雨姫が送り込まれる瞬間を見ながら俺は黙って床を叩いた。

佐々木君はパーティーで最も頼りになる雨姫ちゃんを失ってしまいました。

まだ半分あるのに大丈夫!?

果たしてダメチーターは無事に生き残ることが出来るのでしょうか!?

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