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ゲームの上手さは経験の差に違いない

 俺は一丁前に銃を構えては肩にかけ直しを繰り返していた。他の人から見れば変人かもしれないが、誰だって初めて銃を持ったらこういうことをしてみたいだろう。


「おにーちゃん。いつになく張り切ってるね」

「佐々木君、良く分からないところで達観してるのに、急に男の子になりますからね」

「......アホ」

「さらっと酷い事言ったよね!? どこまで言って良いことなのか分かってて言ってるよね!?」


 このまま言いたいように言わせているとどんどんエスカレートしかねないので、適当な所で窘める。

 ともあれいつもに比べてテンションが上がっているのも事実。少し気を引き締めなければならないと戒めを心に刻み込む。


 それはそれとして、俺達は今『第一ポイント』と呼ばれる場所に移動していた。グループはそれぞれ出発点と呼ばれるところからスタートして、出会ったグループと対戦しなければならない。勝ち残ったグループは優勝ということになる。

 なにより優勝するとボーナスステージと呼ばれる場所に行けるようになり、そこの特典に『ログアウト権限』が含まれているのだとか。


「絶対勝ってここから出ましょうね!」

「まぁ、勝てなかったとしても次があるしねー。そんなに気張らなくても大丈夫なんじゃない?」

「いや、今回勝たなきゃ駄目だ」

「何で?」

「もしも次のステージで勝つつもりなら、仲間同士で戦わなくちゃいけなくなるからだ」

「あー、でもあたしは別に良いよ?」

「俺が嫌だ」


 俺はきっぱりとそう言い切った。というのにもそれにはある事情があった。

 まず、今回のステージで勝てなかったら、個人のスコアが公表される。その個人のスコアによって『戦力調整』と言うのが行われるらしい。それでグループの平均の戦力を弾き出し、できるだけグループによる不公平を無くすということをするらしい。

 ゲームとしてはとても真っ当だ。誰が見ても良運営に違いない。グループによる偏りが生まれず、誰にでも勝てる可能性を残し、全ては自分の努力次第で勝ち負けが変わる。普通にプレイするなら俺もそのシステムを賞賛していただろう。

 しかし、それが今回の場合はいけない。俺はこのグループを解散し、どこの誰とも分からぬ陰険な奴らに小日向さんや由香や雨姫とグループを組ませるのが嫌なのである。

 本人たちはそこまで何とも思っていないかもしれないが、俺は今回の勝負に少し特殊な危機感を抱いていた。サバゲの時と言い、男たちは可愛い子に弱い。弱すぎるのだ。だからこそ、何かにつけて自分のグループに入れてしれっとした顔で関係を持ちたがる。

 俺はそれを阻止しなければならないと思った。ましてやここはゲームの中。現実世界と乖離した空間の中、お互いの身分や処遇も分からない状態で美少女と共に放り込まれたら、慣れないことにタガが外れる男の一人や二人居てもおかしくない。


「絶対勝つぞ」

「目から炎が出そうなほど燃えてるね」

「やっぱりいつでも本気で挑まないといけないってことですよね!」

「いや、なーんかそういうことでもないと思うんだけどなー?」


 この勝負、絶対勝たなければなるまい。

 そしてあわよくば、小日向さんにかっこいい所を見せつけてやるのだ!


 --------------------


 俺達はスタートラインと思われる白線に一直線に並んだ。


「それでは位置につけ。俺のゴーという合図が開始の合図だ。健闘を祈る」

「分かりました。よし、じゃあみんなで気合でも入れ直して——」

「ゴー!!」

「えぇ......?」


 拍子抜けした俺は、この男がNPCだったことを思い出す。だとすれば、指定の時刻にゴーというのも無理はない。

 だが、人間の形をしているをしているので思わず人間かと思ってしまう。こんな男の形にしなければ良いのに。


「行きますよ!」

「何してるの!?」

「お、おう」


 小日向さんと由香が振り返って俺を呼ぶ。雨姫は既に角待ちで見張りをしていた。俺のことなど気にも留めていないらしい。何だかこちらに来てから雨姫のマイペースがさらに加速している気がする。

 俺は雨姫の後ろから角の向こうを覗き込んだ。

 ......見たところ誰も来ていないようだった。


「あのー、雨姫さん。前に出ないんですか?」

「......リスキー」

「そうですか」


 俺も見様見真似で角から覗き込み狙ってみる。

 だが、誰かが出てくる様子もなく、なんだか空しい気分になってきた。


「俺、ちょっと見てこようか?」

「ッ!」


 雨姫の顔を覗き込んでいると、雨姫が突然目を見開いた。それと同時に鳴る発砲音。放たれた弾は寸分たがわず、出てきてこちらを伺おうとした相手の頭を打ちぬいた。

 あちら側から悲鳴が聞こえて来た。まさか少し顔をのぞかせただけで撃たれるとは思ってもみなかったのだろう。常人の反応速度ではこちらに弾を撃つどころか、こちらを見る事すら不可能である。


「ビューティフォー......」

「......まだ」


 そうだ。相手はグループだ。まだ数が残っている。油断は禁物だ。

 でも相手はこちらに顔をのぞかせることすら出来ない。どうやって反撃をしようと......

 その時、頭に思い当たる攻撃方法が浮かんだ。


「雨ひ——!」


 俺が叫ぼうとしたのを雨姫が片手で制した。

 その時、何かが放物線を描いてこちら側に飛んできていた。

 手りゅう弾だ。

 俺が伏せて、と叫ぼうとした時も雨姫は気を緩めることは無かった。

 そして、


 ドヒュンッ!


 撃ちぬかれた手りゅう弾は地面でワンバウンドして相手の方に転がっていき、激しい熱線を相手に浴びせかけた。


「もうこいつだけで良いんじゃないかな」

「走って!」

「うおおい!?」


 突然走り出した雨姫に着いて行く。

 雨姫は手りゅう弾が当たったと思っていた相手の所に駆け込み、2、3発銃弾を浴びせかけた後、ようやく身軽になったようにこちらに振り向いた。


「......こんな感じ」

「了解デス......」


 俺は片言のようにそう呟いた。

 出鼻をくじかれるどころか、雨姫とのレベルの違いに恐れおののいている自分が居る。

 果たして俺の出番はあるのだろうか?

 俺はそんなことを思いながら手元のアサルトライフルを握りしめた。

佐々木君、このままじゃ主人公失格ですよ?

ダメチーターの為せる業改めプロゲーマーの為せる業にしますよ?

果たして佐々木君の出る幕はあるのでしょうか? この戦いを勝ち抜けるのでしょうか?

疑問符ばっかりのリアルFPS編はまだ始まったばかりです。

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