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女心は意外にしたたかである

「えー! ずっと着いてきてたの!? 全然気づかなかった!」

「私達、上手く尾行出来てたんですね!」

「いや、単に由香が鈍いだけだと思うぞ」


由香をサバゲから連れ戻した俺たちは四人で家路を辿っていた。

街路樹の桜が少しずつ蕾を開いていることに季節の流れを感じる。コロナのせいで外出しなかったからそういう風に感じるのか、それとも元からインドア派で久しぶりに外に出たからそう感じたのか、どちらなのかは俺にも分からない。


「それにしてもなんでこんなコロナで騒いでる時期にサバイバルゲームなんだ? それにあの人たちとは一体どういう関係なんだ?」

「どういう関係って......ただの社会人学生混合サークルに混ぜてもらってるだけだよ。一人であそこに行っても人数集まらないし、友達は行きたがらないもん。だけど社会人の集まりだから中々集まれなくて、前から予定していた今日に集まることになったんだよ」


サバイバルゲームは女の子がやりたがる物なのか微妙なラインだと思う。由香の友達の嗜好に合わなかったのだろう。

それに行っても戦う相手は男ばかり。尚更行きたがる場所ではないだろう。


「あんな男ばっかりの所で楽しいのか?」

「私からしてみれば逆ハーレムじゃん」


なんというかメンタルが強いというか手段を選ばないというか、普通何かがしたくてもそういう環境に自ら飛び込めるのは度胸があると思う。


「小日向さんはサバイバルゲームやったことあるんですか?」

「いえ、ないですよ? それがどうかしたんですか?」


こっちもこっちで度胸があると言うか......男は度胸、女は愛嬌なんて言葉が馬鹿らしく思えてくるような今日この頃である。


「それにしても小日向さんはすごいよねー。初めて会った人の心まで鷲掴みにしちゃうんだから。私もあれぐらい自信を持って男の人を誘えれば良いんだけどなー」

「まぁ、使えるものはなんでも使っていかないとですからね」


小日向さんは照れ臭そうにそう言っている。

かく言う俺も小日向さんに一目惚れした人間のうちの一人だ。あんな「延期してくれたら私も参加します!」なんてことを言われたら気持ちが傾いてしまうのも頷ける。というかそうならない方がおかしい。

小日向さんはこう見えて策士というか悪知恵が働くというか......だからと言って嫌いになるわけでもなく、やはり可愛いのは正義である。


「小日向さーん! おにーちゃんが小日向さんの今さっきの交渉を見て『いやー、あれは反則だろー。可愛すぎー』みたいな事を内心考えながら、気難しい顔をしています!」

「おいっ、バカ!」

「いかにも佐々木君といった感じなのでそっとしておいてあげましょう!」


俺がそう思っていたのは事実である。小日向さんはあざとい。あざと可愛い。

だが妹がそれを言い当てるとは思わなかったし、しかも本当に口に出しそうになったから尚更バツが悪い。

大体、『おいっ、バカ!』なんて返事は『はい。そうです』って言ってるのと同じじゃないか! 隠す気があるのか!?


小日向さんの気遣いが痛い。心に刺さる感じがする。

大体、自分のことを好きな人が近くにいて、それに触れないようにしながら何気なくやっていくのはどれほど凄いことなのか。そういうことに慣れているのだとしたらなかなかハードな人生だと思う。

雨姫が後ろから俺の脇腹をつんつんとつつく。俺は振り返って雨姫に視線を合わせる。


「......よしよし」


何だかとてもいたたまれない気持ちになった。

まさか雨姫がこんなことをしてくれるほど成長しているろは思わなかったし、その行為自体は嬉しい。昔の雨姫なら、この状況が良くないものであるということすら分からなかっただろう。その気遣いが今ではない他のタイミングだったならどれだけ良かったか。


「なんだかなぁ......」


俺は空を見上げてそう呟いた。


「そうだ! 行ける時になったら佐々木君もサバイバルゲームに行ってみませんか?」

「俺も行っていいのか......?」

「うーん。難しいところだと思うけど、おにーちゃんならうちの人達とも馬が合うだろうし、事前に連絡さえしとけばどうにかなるんじゃないかな?」


そうかと呟きながら俺はまた空を見上げた。

行けるなら行ってみたい。興味が無い訳じゃない。


「連絡、させて欲しい」

「......おにーちゃん、変わったね。なんかこの一年でちょっと変わった気がするよ。前のおにーちゃんならすぐ断ってた」

「そうか?」


由香が驚いたような目線をこちらに向けてきた。

一年前の自分がどれほど奥手だったかなんて思い出せないけれど、この一年色々なことを経験して少しだけ変わったのかもしれない。

俺の新しい一年は一体何色になるだろうか。出来ることなら、横の川の土手に生えた桜並木のような少し桃色ぐらいの色であって欲しいと思った。

それでも一年間色々なことがありました。これから変わっていく佐々木くんにも期待ですね。

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