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理解できないことが多すぎる

俺は部屋の中でベッドに潜りながら悶々とした気持ちで由香のことについて考える。

もしかして電話の相手は彼氏ではなく、もっと言いにくいものではなかったのか?


「おにーちゃん。今日の昼から出かけてくるからね」

「......は!?」

「だから昼ご飯、私のは作らなくて良いから」


俺は後ろから聞こえて来たその声に思わず勢いよく振り返る。

ベッドの上に寝ころんでいた俺は案の定ベッドから落ちた。全身を横から強打されるような強い痛みに俺は悶絶する。


「由香......いつの間に俺の部屋の中に......?」

「ノックしたじゃん。じゃあね」

「じゃあねってお前......何しに行くんだ?」

「友達とカラオケ」


パタンと扉が閉まった。由香にしては言葉少なだった。

何か後ろめたいことがあるのではないか?

そう勘繰らざるを得なかった。

感染症が流行っているこの時期にカラオケに行くなんて、と俺が思っているのは分かっているのだろう。だから後ろめたさがあってすぐに俺から顔をそむけた。確かにそう理解することも出来る。

だがこれまでの流れからして、何だか嫌な予感がするのだ。


そもそも俺はコロナウイルスがまさかここまで大きな事態になるとは思ってもみなかったのである。

感染力はそこまで高くない。致死率もそこまで高くない。潜伏期間が長くて、高熱がずっと続いてだるい感じがする。稀に肺炎を起こすことがある。

というだけである。

病状としてはインフルエンザより下だ。抗生物質の類いや明確な対処の方法が無いというだけである。

要するに免疫力がそんなに低くなくてもかかるただの風邪である。


まあ、そんな感じなので、カラオケに行くこと自体をそこまで否定しているわけではないのだ。

誰かが感染していたら間違いなくかかるだろうが、この家には老人が居ないので万が一かかったとしても人に感染させないようにすれば良いだけである。家にいる人間は多分全員かかるだろうが、人を家に招かない限りそんなに封じ込めは難しい事ではない。


だが、何か胸騒ぎがする。


部屋を出てすぐさまキッチンに向かい炊飯ジャーの中をのぞく。

そこには案の定、朝ごはんの残りが入っていた。

俺は手際よく残りの白米を電子レンジにかけ、塩を振り、白米を球にしていく。

ドンッ!

おにぎりの完成だ。


「雨姫ー」


居間で座って本を読んでいた雨姫を呼ぶ。

心なしか雨姫も少し退屈そうだ。


「ちょっとお出かけしないか?」


そう言いながら由香の方を指差した。由香は既に家から出て行こうとしていた。

若干いつもよりお洒落しているような気がする。どこがどうだからお洒落をしていると言えないところが、お洒落勉強不足の男の辛い所である。


「......ん」


雨姫はそれしか言わなかったが、少し頬が緩んだところを見ると結構乗り気であることが分かる。

俺もわりと雨姫の心が分かるようになってきたことが結構嬉しい。


「それじゃあ行くか」


俺達は三分で作ったお弁当を携えて由香を尾行することにした。


--------------------


「ストップ」


俺は雨姫に声をかけてストップを促した。

雨姫は俺の背中に張り付くようにして少しだけ顔を出していた。周りから見れば不審者だが、俺からしてみればこの温もりは天使のソレに違いない。

ともあれ、由香は待ち合わせ場所と思われる場所にたどり着き、誰かを待っているようだった。


「誰か来たみたいだ」


俺達はさっと顔を隠す。

様子を見ながらそっと顔を出した。


「男だな」

「......男」


それは背が高くて筋肉もがっしりとついている男だった。そしてかなり平凡的な見た目をしている俺よりは、確実にイケメンだった。


「クソッ......」


ここからでは話声までは聞けないが、何か和気あいあいと話していることは分かる。少なくとも家にいるときよりは楽しそうにしていた。

彼氏にしてはかなり年齢が高そうである。少なくとも20は行っている気がする。

きな臭い。


「また......誰か来た」

「は?」


由香と待ち合わせていた男の方が誰かに手を振っている。

やってきたのはひょろ長の男だった。

ひょろ長いからと言ってかっこよくない訳では無い。むしろ今流行りの塩顔というやつである。今流行りなのかどうかは知らない。


「また男だな」

「......男」


一体どういう集まりなんだ?

彼氏彼女でないのだとしたら、まさか......

いやいや、そんなはずはない。妹はそんなふしだらな人間では......


「また来た」

「はぁー!?」

「しー......声」


雨姫がひょっこりと背中からこちらに顔を向け、人差し指を立てながら俺を窘める。

やはりこの小動物感、天使であったか......

気を取り直してやってきた人物を見る。

その男はたっぷんたっぷんに脂肪を蓄えたふくよかな男だった。世が世なら肘掛イスに座ってワインを回しながら興を楽しむ悪役貴族でも遜色ないだろう。

お世辞にもかっこいいとは言えなかった。今の流行りがどうなっているのかは知らないが、アレがモテるのなら俺だってモテて良いはずである。

何が一体どうなっているんだ? まさか男なら誰でもいいのか!? 既にその段階まで来てしまっているのか!?


「ありえんありえんモグモグありえん」

「......ハムハム」


おにぎりを食べて一旦落ち着こう......

俺がおにぎりを食べて振り向いた時、そこには驚きの光景が広がっていた。


「ブッ!?」

「ん!」


10人弱の男たちの塊が出来上がっていた。

あの中に俺の妹もいるというのか!?

ちょっとまてちょっとまて!

だがここで出ていったら元の木阿弥、ここまでの努力が水の泡。

悔しいが見届けるしかない。

一体何がどうなっているんだ!?

佐々木くん、あなた疲れているのよ

こうなってくると、多分佐々木君が思っているような関係では無いと思いますが......先入観って怖いですね。

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