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童貞には矜恃がある

「あのさ、おにーちゃん」

「お、おう」


 俺が誰かと電話していることに勘づいてから約三日、ずっとソワソワしているのがバレているのか、はたまたバレていないのか。

 由香が俺に神妙な面持ちで話しかけてくる。


「最近、様子変だよ?」

「ま、まあコロナのこともあるしな。ちょっと警戒気味になっているのかもしれない」

「ふーん」


 妹は何かを探るように間延びした声でそう言った。

 こういう時の我が妹の勘はかなり強い。自分の周りに居る女性陣は総じて勘が鋭いのだ。とかいいつつ(すぐる)もかなり勘が鋭い。

 俺の周りには佐々木スレイヤーしか居ないのか?


「ねえ、もしもだよ」

「おう」

「私が紹介したい人が居るって言ったらどうする?」


 ブッ。

 俺は噴き出しそうになったお茶をなるべく口の中で押しとどめ、口からはみ出した液体を服で拭う。

 今さっき何と言ったか。

 紹介したい人、だと?

 人の恋路にとやかく言うのは無粋だと分かっている。分かっているつもりだったが、妹は断じて他人ではない。

 紹介したい人と言えば、十中八九彼氏である。それを兄に報告するなど聞いたことがあるだろうか。

 俺はない。大体、父親でもない限り、妹の惚れた晴れたに口出すことがあるだろうか。

 はっきり言おう。俺はシスコンだ。

 自分の身内は是が非でも守ってやりたいし、自分の身の次に家族のことが大切だ。


「とりあえず紹介は受けてみる。何個か質問して、お前に合う人か見極めた後、合う人だったら受け入れる」

「気に要らなかったら?」

「追い出す」

「だよねー」


 だからついつい口出ししてしまう。俺が逆の立場ならうっとうしいと思うだろう。だがそうせざるを得ない。俺の見立てに合わないということはそれだけの理由があるということだ。

 妹が好きになった相手にとやかく言うつもりは......無いとは言い切れないが思いは尊重するつもりだ。

 俺達の今の両親はあまり家に居ない。とくにお父さんは色々な管理があって家に居る事はほぼないと言っても良い。

 それでも前の両親よりは優しいことを知っている。

 だから俺が父親代わりになってあげなければならないと思っている。父親が役目を放棄しているわけではない。だからせめて、頼れるおせっかい焼きのお兄ちゃんぐらいの立場でいなければならないと思っている。


「じゃあだめだね。まだ紹介できないや」

「何で?」

「おにーちゃんが好きそうなタイプじゃないから」


 待て。待て待て待て。

 今はもしもの話じゃなかったか? そりゃここまで来たら本当かもしれないとも思う。この頃、人の目を気にするようになって、俺も気にはしていたが、本当にそういうことだったのか!?

 しかも俺が好きそうなタイプじゃないって何だ!? 俺は男は好きにならないぞ!?


「だってそうでしょー。おにーちゃん、固い人の方が好きじゃない」

「固い人......?」

「ブコツな人って言うのかな? 一度好きになった人と一生添い遂げます!みたいな人。おにーちゃん、すぐに相手に聞いちゃいそうだもん。『我が妹を一生守っていける自信はあるかー!』とか」

「普通聞くだろ」

「聞かないよ。ただの彼氏だよ?」


 でも彼氏って言ったら好きになった相手だし、その恋をしている間はその恋が続いてほしいと思うものだろう。だったら行きつく先はそういう所ではないのだろうか。

 それに女性側だってそういうことを言われたら嬉しいのではないか?


「古いねー、考え方がアンモナイト並みに古いねー」

「そうか? でも付き合うんだったら両思いの方が良いじゃないか」

「そうだよ。でもね、お兄ちゃん。重いよ。その思いはたかが彼氏には重すぎるよ。そりゃ私だって、大切にしてもらいたいなーとか、イチャイチャしたいなーとかは思うけど、別に身を固める相手を選ぶなんて思ってないもん」


 それは......そうかもしれない。

 実際にモテるのはイケメンだ。そんでもって明るくて、出来る事なら気の利く方が良い。

 小学校の時、同級生の女子に「佐々木くんは結婚は出来るかもしれないけど、恋愛はできないかもね」と何気なく言われたことが脳裏をよぎる。実際それまでもそれからも、恋愛とは程遠い人生を送ってきた訳である。


「それに前の彼氏はすぐ浮気したし、前の前は——」

「ちょっと待て」

「何?」

「待て、それは聞いてない。お兄ちゃん、心の準備が出来てない。それはこんなどうでもいい流れで聞いていいことじゃない」

「......童貞かな?」

「童貞だよ!!!」


 俺は机を勢い良く叩いた。

 新聞が地面にバサリと落ちて、『高校教師、売春行為か』という見出しのページが開く。俺はそのままの勢いで新聞を踏みつけて立ち上がった。


「良いか!? 金を払えばなんでも出来るようなこんな世の中だからこそ大切にするべき矜恃と純情があるはずなんだ! そういう生殖行為は軽々しく行うべきではない!」

「おにーちゃんが思うほど神聖な行為じゃないよ」

「馬鹿言え! 確かに聖書でも性行為は欲望として書かれているし、綺麗なものと言うよりは人間の薄汚い一面の一つとして書かれていることの方が多いし、七つの大罪の一つにも色欲がある! だが恋愛としては一つの進展、節目じゃないか! ABCDEでいえばC地点、エロゲでいえばゴールラインだ!」

「恋愛の一つの形ってだけだよ。まあそんなに楽しいものでもないけどね」

「お前、一言言う度に俺のHPを削ることしか出来ないのか......? さすが、我が妹」


 だんだんお腹が痛くなってきた。どうやらこれはコロナのせいではないらしい。このまま妹と話していると粉微塵にされてしまいかねない。


「ちょっと......部屋にこもってくる」

「悟りは開かないようにねー」


 今日は妹のことを知り過ぎた。もしかしたらこれまではリビングでも彼氏と話していたのかもしれない。

 俺はベッドに寝転びながら、頭にその光景を思い浮かべる。

 そして俺はある一つの考えに行き着いた。

 俺はベッドの上から跳ね起きる。


「だったら話していたのは誰だったんだ......?」


 その答えが分かるのはもう少し後の話だった。

あとがき書いてて気づいたのですが、今回で100回目です。

節目を祝ったりする質ではないんですが、今回見てちょっと嬉しかったりします。

この小説において気を付けていることがあるとすれば

・先の流れは考えない

・時事によって流れを変える

・どんな流れでも3年で終わらせる

この3点に尽きると思います。

残り二年もどうぞお付き合い下さい。

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