時を止める少女
俺は佐々木宗利。
普通の公立の中学三年だ。
季節も冬。
中学生活は過ぎ去ってみればあっという間だが、今は受験シーズン真っ盛りでありゆっくりと回想している暇も無い程、焦りに焦っていた。
第1志望は少し高めの偏差値の高校だ。
B判定が出そうで出ない志望校。
1つ難易度を下げてしまえば良いのでは?と考えてみるもそれでは本末転倒だと考え直す。
何度もそんな事を繰り返しながら、なんとなく過ぎ去っていく受験勉強もラストスパートを迎えていた。
木枯らしが吹き荒れて冷たい風が頬を打つ。
身体中の毛穴が引き締まり、吐く息は白くゆらゆらと風にたなびいていた。
そんな塾の行き道のある日の夜にそれは起こった。
大通りはいつもとは違い人通りが多く、そこかしこで笑い声や恋人達の愛の囁きが聞こえた。
ほとんど気にも止めていなかったが、今日はクリスマス・イブ。
道理で人も多いはずだ。
こんな日ぐらい遊んだって良いじゃないかと唆す内なる自分の声から耳を塞ぐようにしながら、クリスマスの雰囲気だけ味わうためにケ〇タッキーを2ピース買った。
いやぁ、1人で外で食べるケ〇タッキーは最高だなぁ。
と横であーんをしているカップルを尻目に見ながら1つ分を平らげる。
どうせ小腹を満たす程度のつもりだ。
夕食は帰ってからゆっくり食べる。
もう1つは持ち帰りにしよう。
塾に行くまでの時間にどこかで食べるだろう。
雑踏と笑い声は雑音でしかない。
単語帳をめくる手の動きは次第にゆっくりとなっていき、やがてピタリと止まった。
塾までの時間潰しに単語帳を見るのがとても味気ないような気分になった。
まだ30分ある。
何時もなら何でもないような待ち時間だが折角だし少しクリスマスの雰囲気だけ味わっておこう。
のらりくらりと店先を歩き、目的地もなくサンタのコスプレをした店員などを見ていた。
何か面白い事はないかと思いながら辺りを見渡した所でそんなに簡単に面白い事などあるはずもなく、風景は色を失いつつあった。
突如、周りが静かになった。
周り全ての人々が動きをピタリと止めていた。
落ち葉は宙を舞ったまま静止し、店員の引きつった笑顔はそのまま動かない。
辺りを見渡さずとも分かる。
これは『チーター』の仕業だ。
『チーター』
チートと呼ばれる都合の良い能力を持つ人間の事を俺はそう呼んでいる。
チートには多種多様な物がある。
今回のように色々なものをピタリと止めることも能力によっては有りうるという訳である。
かく言う俺もチーターである。
チートの効果は『人が能力を使っている時だけ自分もその能力が使える』というものだ。
今回の場合は誰かが能力を使った事により、その能力者の性質を模倣して他の物が止まっている中でも動いているのだろう。
大抵、こういう時はいつも関わらないようにしている。
チーター同士が顔を合わせるとロクなことにならない。
そんな事は遠い昔の話だ。
もう十分だ。
我関せず。
いつもならそうしていた。
こんな退屈な日でも無ければ、の話だが。
自分も他の物と同じように動きを止めていた時。
自分と同じぐらいの年齢の少女が長い黒髪をたなびかせながら自分の目の前を走り抜けていくのを何かに惹かれるように見ていた。
涙が目から溢れ出ていた。
ふわりといいにおいが香る。
自然と足が動いていた。
追いかけるように足のピッチが早くなる。
俺の方が走る速さは速かった。
「待って……」
声の最後の方は尻すぼみだった。
引きつった笑いを浮かべているのが自分でも分かる。
この瞬間、後悔と自責が好奇心を踏み潰した。
どうして動いてしまったのだろう。
「どう……して……?!」
明らかなパニック状態。
こんな経験は初めてだったのだろう。
そもそもチーターなんてそんなにありふれている訳では無い。
自分以外にチーターがいることすら知らない事も結構あるのではないかと思っている。
特に話すことも無い。
が、このままでは終われない。
俺は小脇に抱えたビニール袋を差し出した。
スパイシーな香りが鼻腔をくすぐる。
「一緒に食べませんか…?」
「はぁ……へ?」
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