プロローグ 永遠の夢の中で
森の中を走っていた。
声が聞こえる方へ、ただひたすらに走っている。
――たすけて――
声は繰り返し呼び掛けてくる。
声音で時間がないことがわかる。
「急がないとな……」
リルトはそう呟き、足に力を込める。
刹那、眩い光が目に入った。
本能的にそこに声の主がいると感じた。
考えるよりも先に、光の元へ一気に駆ける。
「何だ……?この場所は……」
目に入ってきたのは不思議な光景だった。
草木が陽光を受けて煌めき、七色の蝶が祝福するかのように舞い、その中心に銀色の髪の少女が眠っている。傍にある雪のように白い杖が淡い光を放っている。先に見た光はこの杖のものらしい。
「君が、俺を呼んだのか?」
彼女の呼吸は深く、目立った外傷も無い。助けを求めてきた人物とは思えなかった。
「ッ……!」
少女に返事は無かったが、驚いたように目を開き、整った顔をこちらに向けると、リルトの予想に反して、こくんと頷いた。
周囲に敵の気配が無いにも拘わらず、少女が助けを求めてきたことを訝しみながら、状況の説明を求める。
「何があった?敵襲じゃあなさそうだな……トラブルか?」
少女はそれには答えず、リルトの顔をじっと見つめている。
まるで、何かを確かめるように。
――何だ……?人違いか……?いや、それよりも……
まとまらない思考を頭の隅に押し込み、質問を重ねるべく口を開こうとすると、少女はそれを手で制し、やおら、
「リル……あなたは変わらないね……。無事で良かった……あなたが無事で、本当に良かった」
そう言って、少女は儚げに微笑んだ。




