不思議谷の勇者
はじめに
私の名はカイザーク、冒険家である
今から話す事は私がアンデス山脈の奥地を旅したさいに、古い洞窟にて発見した書物を解読したものである。どうやら異世界の神話集らしいのだが、マヤでもインカでも、無いようである。 ここに書かれていることが全て真実とは思えないのだが書き記す事にした。 1998年 カイザーク17世
第1章 オシメ神による創生神話
〔1〕 世界の誕生
最初宇宙には何も無く、ただ白空の闇が辺りを包んでいたと言う。
ある時、空間が二つに裂けるとその中か
ら3面の顔に4枚の翼を持った裸体の女神オシメがエネルギーを放ちながら、星の種を宇宙にばら蒔いたと言う。
そのひとつナスビの種のような世界が不思議界となったらしいのである。
〔2〕妖精人達の誕生
オシメが蒔いた種の中には沢山の実が熟しており、それらが妖精達の祖先 妖精人になったのだった。
最初に生まれたラマォがリーダーとなり皆を束ねようとしたのだが
そこには大きな問題があった。
世界にはまだ光が無く、真っ暗だったからだ。 そこでラマォは天に向って叫んだ「神様どうか光をください」とすると太陽の精霊ラードが現れ日の恵を与えた。次にラマォは「土地をください」と叫んだ、
すると大地の精霊ラホメルモァーラが出てきて大陸を切り開いた。
最後に「水をください」と叫ぶと、海の精霊の神龍が出てきて、海と川と沼地を作ったのだった。ラマォは割れんばかりの大きな声で
「ありがとう」とお礼を述べたのだった。
第二章 5つの世界の誕生
〔1〕7人の妖精神たち
星の種を蒔き終えたオシメが再び、不思議界を訪れた時、人も文明もすでに消え去った後であった。 困った女神はヤナホイ、アルモア、ナムジィ、ラウドネス、リブエラ、カワモス、ダイゾネス等、7人の妖精神を作り 彼等に後を任せ何処かへ消え去ったと言う
〔2〕妖精達の誕生
まず妖精神達は新たな人間を作らなければならなかった、そこで彼等は ナスビの種とトウモロコシとをすりつぶし、水を加え捏ね合わせて妖精や動物そして他の人間(黒い種族)達を作ったのだった。 次に彼等は四方にエルフ、ライオマ、ミレーネ、ルイクス等4つの国を作り、その中心にエンドラの国を作った。そして最後に神奈川県程だった不思議界を、現在の大きさ(地球と同じ)にまで拡張させたのである。
第3章 勇者フデーロ
〔1〕少女ロズマリナ
日の国、太陽神殿アラーマにはラード神が住んでいた。彼は朝になると 空飛ぶイルカに曳かせた銅の車を操り東の空から昇り、夜は西の方へ消えて行くと言う毎日を日課としていたのだった。ある時ラードは所要のためルイクスの町を訪れた時にミレーネの泉水で水浴びをしていた美しい娘ロズマリナを目にした。ラード神は「これは美しい」と一目で気に入り、太陽の国に連れて行ったのである。
〔2〕ラホメルモァーラの嘆き
大地の精霊ラブレルモァーラは娘ロズマリナの帰りがばかに遅い事を心配していた所、どうやら太陽神に攫われたらしいと言う噂を聞いたのだった。
最初は間違いかもしれないと思いしばらく待ってみたのだが何の連絡も無い、やがてそれが事実と分かると、モァーラは嘆き悲しみ それ以来全ての食物が枯れ果ててしまったのである。
〔3〕不思議谷の勇者
ラードがラホメルモァーラの娘を連れ去って以来 人々はたいへん困っていました。と言うのも種をまいても眼が出ず全く収穫に成らなかったからである。当時ミレーネの国の長をしていたカルトジは、皆をミレーネの神殿に集めて「誰か太陽の国へ行って、ロズマリナ様を救い出す者はいないか?」と勇者を募ったところ、エルフの国のフデーロと言う少年が「私が参りましょう」と進み出たのだった。
カルトジは「日の国は空にあるのだぞ、いったいどうやって行くつもりだ?と尋ねた、すると「私には友達のモーモ(不思議谷に住む大鷹)が居るのでこれに乗れば天にだってあっという間さ」と答えた。 カルトジは「日の国にはそれで行けても、周りは100万度もあるのだぞ、たちどころに溶けてしまうぞ」と言った。 これにはさすがに少年も困ったのだった。
その言葉を神殿の奥で聞いていたラホメルモァーラは「もしあなたが娘を救い出してくださるのなら、太陽の国に行く時に使うクリームをあげましょうと言って、また泣き崩れたのだった。
カルトジは「少年よ、お前に任せよう
見事姫を救い出してくるが良い」
と言った。フデーロは「それで日の国にはいつ出発すれば良いでしょう」と尋ねたところカルトジは「明日の朝すぐに出発するが良かろう」と答えたのでフデーロは早速、日の国へ行く準備を始めたのである。
〔4〕囚われた姫君
太陽宮殿アラーマの地下の牢獄に一人の美少女が囚われていた、目の前には王冠を被ったハゲタカの様な老人が居た 太陽霊神ラードであった。 ラードは「姫よ、そろそろ泣くのは止めて、わしの妻になると誓ってくれぬか」と尋ねた。 すると少女は「それは死んでもお断りします。それより私をお母様の所へ返しください」と泣くのだった。ラードは仕方なく「ではもう少し牢獄にいて貰わなければなるまい」と言うと門番の霊下達に「よく見張っていろ」と言って何処かへ行ってしまった。
〔5〕鷹の精霊モーモ
エルフの国は 人間界との国境にあった。出発の準備を終えたフデーロは翌朝 友達の鷹を呼ぶため不思議谷へ向った、そして大きな声で「モーモ」と呼んだ すると大きな鷹が舞い降りたのである。フデーロはモーモに向って「太陽の国へ」と叫ぶとモーモは少年を乗せて天高く舞い上がって言った。
〔6〕霊下長ギリモナィ
ラードの神殿には王を守る10万もの霊下達がいてその隊長が蝮の化身ギリモナィである。フデーロはすでに神殿の近くまで来ていたのだが、10万もの兵をどうしたものかと?思案していた。するとそこに神龍が現れて「神殿に入ると この粉を撒くといい」と言って粉を渡した。フデーロは「この粉を撒くとどうなるのですか?」と尋ねた。神龍は「時間が止まるのだ、ただし10分だけなので気をつけて使え」と言うと青いセルゲイアの剣を渡し天に消えて行った。 フデーロは神殿のそばまで来ると「不思議谷の者フデーロ、ロズマリナ様を貰い受けに来た」と叫んだ。城は大騒ぎとなり たちどころに霊下達がウジャウジャと出現したのだった。フデーロはタイミングを計って神龍から貰った種を撒いた、すると霊下達の動きが一世に止まったのだ フデーロは「モーモ、今の内に一気に住ませようぜ!」と言うとモーモは「オー」と答えると霊下たちをかき分け神殿内に攻め入った。地下の牢にはロズマリナが囚われていた、粉の力により宮殿内の時間が凍結していたので門番から鍵を盗みロズマリナを救出するのは簡単だったのである こうして姫を大鷹に乗せ共に脱出しようとしたときだった、一人の男が行く手を阻んだ霊下長ギリモナィだった、フデーロは「何故?まだ時間は充分あるはずなのに」と叫んだ するとギリモナィは「俺も時間を操れるものでね、わるいな すでにラードは氷河に閉じ込めてある この神殿はもはや俺様の物さフハハハハ」と笑うのだった。
〔7〕勝負の行方は
ギリモナィはミレーネ国一の剣士であると亡くなったおじいさんから聞いた事があった、しかしフデーロは怯まず「勝負だ!ギリモナィ」と叫び神龍に貰った青いセルゲイアの剣を振りかざし、ギリモナィに向って行ったのである。ギリモナィは「よかろう、それほど消滅したいのならかかって来るがいい」と言うと強魔の剣で迎え撃ったと言う。戦いは熾烈を極めたが、フデーロは段々に追い詰められて行ったのだ もう後が無いと思われた時何処からともなく 矢が飛んできてギリモナィに刺さった。ギリモナィは思わず「ウオァー」と叫びを上げた、その一瞬の隙をセルゲイアの剣がつらぬいたのだ。
「おのれー」ギリモナィは怒りの形相で振り向くと、そこには太陽霊神ラードが居たのである、ギリモナィは「どっ!どうしてお前がここに?」と尋ねた、するとラードは「わしも危ない所を神龍に助けられてナ、それにオマエの野心は初めからわかっておったわ」と笑った。ギリモナィは雄叫びを上げそのまま絶命した。
ラード神は「すまなかった少年よ、ロズマリナは連れて帰れば良い」と言うと神殿は霧に包まれて跡形もなく消え去ったのである。 気が付くと少年はミレーネの荒野にロズマリナと共に倒れていた。
この結末をたいへん喜んだ母ラホメルモァーラは勇者フデーロとロズマリナの2人を結婚させ宮殿内に住まわせ仲良く暮らしたのであった。 それ以後ミレーネには毎年、豊富な作物が実り国はますます栄えたという。