閑話 ある冒険者達の苦悩ーsideイサイ①
俺はスルギ。冒険者をやっている。
この世界には統一ギルドというものがあり、依頼達成の貢献度で徐々にランクが上がっていくシステムだ。あるラインまでランクが上がると’’勇者’’と呼ばれるようになる。しかし、俺がそのランクに到達するにはまだまだ時間がかかる。
17の歳にギルドに登録し、もう直ぐ10年になる。その間、色々な奴とパーティーを組み、多種多様な依頼をこなしてきた。
中でも、護衛任務や成長補助の依頼は実入りが良いので積極的に受けてきた。
今回の依頼も、実入りとギルド評価の向上が破格だったので、1も2もなく飛びついたのだ。
’’うまい話には裏がある’’今回の依頼でその言葉を実体験として理解できたのが、一番の報酬だったと思う。
依頼
不思議な能力を持つという妖精’’イサイ’’を’’精霊樹マザーツリー’’まで連れて行き、力のコントロールが出来るように導くこと。
詳細は依頼受諾時に説明します。
報酬
6万ルーツ 妖精ペンダント ギルド評価2ランクアップ
その依頼を見つけたのは、’’ フィール’’という田舎町にある出張 ギルドの掲示板だった。
普通の護衛依頼の報酬金額が2万ルーツ、成長補助が5000〜1万ルーツだ。1万ルーツあれば少なくとも3ヶ月は生活出来る。切り詰めた生活を送るなら1年は生活出来るだろう。
6年は生活出来るだろう金額が報酬として用意されている上、中級迄の妖精を使役出来るようになる’’妖精ペンダント’’まで付いてくる。普通に購入したら10万ルーツ以上する品物だ。その上、ランクまで2つも上がるとか。
どんだけ難易度高い依頼なんだよ
それが、この依頼に一番最初に感じたこと。この時に、手を引いていれば・・・。
今日、このギルドに来た理由は依頼達成の報告と、ランクアップ申請の為だ。俺の現在のランクは’’5’’。今日の申請で’’6’’になる予定だ。そして勇者と呼ばれるようになるランクー通称’’勇者ランク’’と呼ばれているーは’’8’’。
この依頼を達成すれば、一気に勇者ランクまで上がれる。普通なら後10年はかかる所だ。この誘惑は大きかった。
「おい、この依頼どう思う?」
もう、依頼を受けるつもりになっている俺は、一緒に掲示板を見ている仲間達に一応声をかけた。
こいつらとは、もう3年ほど一緒に行動しており、中々上手くいっている方だと思っている。きっと、こいつらも依頼を受けることを選択するだろう。
「そうだな。かなり良い話だが、詳細が全く解らないのがチョット・・・な。依頼を受けるまで詳細が解らないとか、危険な匂いがするよな。」
背が高く、筋肉質なイケメンのザックが顎を撫でながら、あまり乗り気では無い様子で言う。
「でも、この報酬はとっても魅力的よ。多少の危険は仕方ないんじゃ無い?」
両手を頬に当て小首を傾げながら発言したのは、このパーティーの紅一点ミーシャだ。彼女は、あどけない顔立ちに豊満ボディーを持つ’’男の夢’’を体現しているような存在である。
「しかし、この依頼内容では、危険の度合いが判断出来ないぞ?そもそも’’精霊樹マザーツリー’’ってどこにあるんだよ?」
「この報酬の内容から考えると、かなりの難易度だって事は解るわ。危険度も相応に高いでしょうね。でも、やってみる価値はあるんじゃない?なんたってランクが2つも上がるんだしね 。」
「・・・・・・確かに。おい、スルギ。お前はどう思うんだ?」
2人の話を黙って聞いているだけの俺に、ザックが問いかけてくる。
「危険だと解っていても、受けたくなるよな。本能の部分は’’手を引くように’’って言っているが、それでも俺は受けたいかな?」
俺が依頼を受ける事を選んだので、多数決で依頼の受諾は決まった。
「’’本能’’や’’勘’’が言うことは大事にした方が良いぞ。」
ザックは、’’’納得出来ない’’と顔には書いてあるが、’’決まったことには従う’’ という感じに渋々了承してくれた。
「あの時ザックの言うことを聞いておけばよかった」と後悔するのは、結構すぐだった。