6 朝ご飯を食べました
僕はまず大きく息を吸い込んだ。そして、火炎が出ないように気を付けながら大きな声で吼える。
必殺の目覚ましだ。大きな声だけじゃなく、僕を中心に半径5mの範囲が大きく揺れるんだ。
弱い魔物や動物なら、怯えて逃げ出すくらいの威力があるんだよ。
これなら、妖精さんも流石に起きるだろう。
・・・・・・・・・・・・・。
全く起きる気配ないよ。これで起きないなんて、よっぽど疲れてるんだろうね。
無理に起こさずにゆっくり寝かせてあげよう。
この子が起きるまでに、木苺でも摘んでこようかな。きっとお腹空いてるだろうしね。
・・・ん?
さっきの寝言ってもしかして、’’お腹空いたよ’’って言ってたのかも?きっとそうに違いないね!
じゃあ、早く採ってきてあげなくちゃ。
その前にお水も用意してあげよう。この樹の朝露は疲労回復にも効くしね。
僕は自分の喉を潤してから、大きめの葉っぱに朝露をすくって、寝ぐらの中に入れた。
次に小川の所までパタパタと飛んでいき、木苺を少し多めに摘んで持って帰ってきた。
ワザワザ飛んで行ったのは、飛行練習の為だよ。これからは色々な練習を一生懸命頑張ろうって決めたんだ。
木苺を両手に抱えて寝ぐらの中に入ると、寝ている妖精さんの鼻がヒクヒクと動きだした。
「この匂いは、私の大好物の木苺だぁ!!」
突然大声をあげて、妖精さんが起き上がった。血走った目で僕の抱えている木苺を見ている。
な、なんか怖いな、この子。
「お腹減ってるでしょ?良かったら、僕と一緒に食べない?」
抱えていた木苺を地面の上に置き声を掛けると、’’にぱぁっ’’と音が聞こえる様な錯覚を起こすほど嬉しそうな笑顔を見せて、こちらに飛んできた。
「あなたは、とっても良いドラゴンさんね♪」
小さな口一杯に木苺を頬張りながら、懐っこい笑顔で妖精さんが話しかけてきた。
何だか’’警戒心’’ていう物が、全く見当たらない気がする。
リストラされたような僕が言うのも何だけど、この子大丈夫だろうか?悪い人間に攫われたりした事、あるんじゃないだろうか。
「この樹の朝露もあるから、良かったらそれも飲んでね。」
僕も木苺をアムアムと食べながら、優しく水を差し出した。
だってこの子、悪い人に攫われたんだよ。きっと。其処からなんとか逃げ出して、此処にたどり着いたに違いないよ!
だから今朝、あんなに深く眠ってたんだよ!
そう思うと、妖精さんが気の毒で僕が出来る事はしてあげたいって思ったんだ。
出来る事は少ないけどね。
「ありがとう。私、喉もすごく渇いてたのよ。」
妖精さんはそう言うと、一気に朝露を飲み干した。
そして、満腹になったのかお腹をさすりながら、洞の中をフワフワと飛び回り始める。
鼻歌まで歌ってるし。
何だか僕、この子とはとても気が合いそうな気がする。僕まで楽しい気分になってきたよ。
考えてみれば、勇者さまと別れてから、初めてお話が楽しめる状況なんだよね。
「えっと、改めて。初めまして、僕はクゥって言います。ねぇ、君って誰?そしてどこから、いつ此処に来たの?」
僕は気になっていた事を聞いてみた。
「私はイサイ。’’イサ’’って呼んでね。昨夜、此処に置いて行かれたの。私を置いていった人は、貴方が居ることを確認して、私を置いていったわ。此処なら魔物は来ないし、1人じゃないから寂しくないだろうって。」
どうやらイサも此処に置き去りにされたらしい。