プロローグ
僕はしがないベビードラゴンです。
魔物ですが、勇者に憧れているチョッピリ変わり者のドラゴンです。
勇者になれるのは、人間の選ばれた者だけという話を聞いたときは、人生に絶望しました。
やけになった僕は、ママが持っていたきつい酒を飲み、飲み慣れないそれにムセて火炎を吐き、住処の山を炎の海へ沈め、ママにしこたま叱られました。
でも、僕はやっぱり勇者への憧れを捨てきれず、勇者の仲間になる道を選択しました。
勇者の元へ向かい、仲間にして欲しいとお願いしました。
僕はまだベビーなので、火炎しか吐けませんが、ドラゴンと言う将来性に期待され、喜んで仲間にして貰えました。
仲間になり、始めのうちは僕はとても役に立ちました。
最初の頃のフィールドやダンジョンは、火炎だけで倒せるモンスターばかりでした。
でも、冒険が進むにつれ僕はドンドン足手纏いになってきました。
成長を期待されていましたが、ドラゴンの成長はとても遅く、ゆっくり成長する者なら生まれてから「キッズ」になるまでに20年、大人になるまでには100年はかかるのです。
才能のあるドラゴンなら、色んな事を覚えてドンドン成長していきます。
でも、僕は仲間にしてもらって半年経っても火炎しか吐けないドラゴンでした。
仲間になった頃は、何時も優しい笑顔で話しかけてくれた勇者さまでしたが、ドンドン僕を見る目が変わってきました。
僕が話しかけると舌打ちをし、モンスターに遭遇すると、僕をモンスターの方へ押し出し最前線に立たせました。
装備は何も着けていない僕をです。
野宿の時は徹夜で見張りをさせられ、街に泊まるときは、僕専用の毛布を一枚渡され路地裏で過ごすように言われました。
「ああ、コレが今話題の(ブラック企業)ってやつなんだな」と思いました。
あの日僕は、本日の野営地点である街からは大分離れた場所にある大樹の下で、とうとうリストラされてしまいました。
食べ物もろくに貰えない生活に嫌気がさしてきた僕は、勇者さまに「お腹が空いた」とたった一言愚痴をこぼしただけです。
しかしそれを聞いた勇者様は、鬼の様な怖い顔で「お前クビ。」と一言告げると、僕以外の仲間を連れ移動呪文で何処かへ行ってしまいました。
呆然とした僕は、それでも勇者さまは直ぐに迎えに来てくれると思い、その場で待つことにしました。
しかし、勇者さまは戻ってくること無く、3日たった時にようやくリストラされたのだと言う事に気付いたのでした。