表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

妹の世界

空で信じられない光景を見ていた筈の私は、知らない部屋で目を覚ますことになった。


目を開けて、知らない天井を見た時、ああ、夢オチって事にはならないのか…とため息をついた。


お兄ちゃんも、夜ちゃんも、あそこに居たトリイさんも誰も居ないただ広い畳の部屋の真ん中に私は寝かされていた。


触った事の無いような高そうなふかふかの布団の上に。

体を起こして、一度瞬きをすると一瞬バリッと私を囲んで存在してるような透明の壁が見えた。


とにかくここは何処だろう。

そう思っても、頭は凄く重たくて、もしかしてあれから何日もこうしていたんじゃないかと思う位、意識は曖昧だった。


身を起こして気が付いたのは、制服を着ていた筈の私の服は、上下とも白い巫女装束に変わっていた事。

一瞬、誰が着替えさせたんだろうと考えてカァっと顔が熱くなったけど…そんな事は置いておかないと…。


布団から這い出てさっき見えた透明の壁の辺りを指でなぞってみた。

その壁は薄い氷の壁のように、私が触れた途端にパリっと音を立てて消えたようだった。


その途端、静かで物音もしていなかったこの部屋に鳥のさえずりや、生活音、人の気配を感じた。

少なくとも私は誘拐されてここに来た筈だけど…拘束する為にあの壁があった訳では無い事に気がついた。


ただ音をさえぎる為だけにあったように感じた。


慣れない巫女服で(ふすま)を開こうとした時、その襖は誰かの手によって自動的に開いた。


「わっ」


「あっ!」


ほぼ同時に私と、ちょうど入ってきた相手と衝突して、声を上げた。

私は倒れはしなかったけど、入ってきた人物はドテーンと大きな音を立てて尻餅をついていた。


「だ、大丈夫…?」


そう声をかけた先に居たのは、普通の巫女装束を着た小さな女の子だった。

外国の女の子のような、綺麗な金髪と青い目が印象的だった。


はっとした表情をした後、その子は土下座をした。


「しっ失礼しましたっ!

お目覚めの頃だとトリイ様に伺ったので…っ急いで来たんですけどっ!

はう〜…まさかぶつかってしまうなんて…これは切腹すべきですよね…」


どこかの武士よろしく、そのブロンドの女の子は何処からかナイフを取り出して涙を浮かべていた。


「ま、待って待って!

ただぶつかっただけなのに切腹はちょっと大袈裟かも!

私なら大丈夫だから…ね?」


屈んでその女の子の肩を押さえて視線を合わせると、ボロボロと泣き始めてしまった。

わたし、何かしたかな…。


「大事な巫女様にぶつかってしまったのに…お優しい方ですぅ!」


ぶわぁっと泣きながら、少女は言った。

大事な…ね。

結構乱暴に連れてこられた気がするけど…。

でも、この子は私に悪意は無さそうだった。


「うん、大丈夫だよ?

心配してくれたんだね、ありがとう。

で、あなたは誰で、ここは何処なのか教えてもらっていいかな…?」


なるべく優しく、問いかけてみた。

そうするとその小さな女の子はためていた涙を袖で拭って、改めて頭を下げた。


「もっ申し遅れました!

私の名前は、スージー、スージー・アットソンと申します。

神の巫女である貴女様のお世話係として申し使っておりますです!」


「スージー…外人さん?」


私は流暢な日本語を話すその女の子、スージーに向かって首を傾げた。


「あ、えっと…一応天使家(あまつかけ)の生まれなんですけど…皆さんと違って名前だけ何故かカタカナなんです、えへ。」


さっきまで私が見ていた世界に、こんなほのぼのとした子が出てくるなんて思ってなかった私は、一瞬言葉に詰まりつつ、次の質問をする事にした。


「えっと、スージー?

ここは何処なの?」


一言そう言っただけなのに、スージーは少し固まって、ゆっくり顔を上げた。


「歩けるようでしたら、私がご案内します。

ここは天使家(あまつかけ)の敷地内です。

貴女様は神の巫女様です。

ここから逃げたりしない方がいいですよ」


『時はちゃんと来ますです、なのでそれまで…世界さんと夜様をお待ちくださいです』


スージーの声に出してる言葉に重なって、心の中に別の言葉が流れてきた。

声に出した言葉は少し脅しが混ざってるように感じたけど、心に伝わってきた言葉は安心出来るような名前が含まれていた。


少し頭がキーンとしたけど、今は我慢して、って事なのね。多分。


「あ、私はまあこっていうの、神の巫女なんてそんな堅苦しくならなくても…」


「駄目なのです。そんな事したら切腹物なのですよ。…へへ。」


またあの切腹用ナイフ?をちらつかせて、スージーは体を起こすと私の前に立った。

身長…130cm位。

見た目は本当に外国の小さな女の子にしか見えないんだけど…。


「では、ご案内するのですよ。」


にこりと笑って、私の前を進み出す小さな背を私は取り敢えず追う事にした。

凄く服の丈が長くて引きずるし歩きにくいけど。

気が付けば頭痛のような頭の重さは消えていた。


「さっきのお部屋が今後神の巫女様のお部屋になります。

ここの廊下を通ると中庭に出れるのですよ。」


外の光はオレンジ色。

夕方なのか、早朝なのか、まだ私は分からないでいた。


「今は何日の何時なの…?」


歩きながらスージーに問うと


「今は12日、まだ神の巫女様が来てから1日も進んでないです。

夕方、16時頃の筈ですよ。」


そっか、私がここに来てから全然時間は進んでないんだ。

私は少し安心した。


お兄ちゃんと夜ちゃん、今何してるだろう。


中庭を見渡すと、とある一室の襖が開いていて2人の人物が見えた。

中庭を囲んで建物は建っているようだった。


日本家屋に似合わないその2人を暫く足を止めて見入ってしまった。

それに気がついたのか、スージーは歩く足を止めていた。


私の視線の先に居たのは、真っ白な翼を片方ずつだけ生やした、真っ白な2人。


真っ赤で金色の綺麗な刺繍の入った着物姿で、長い真っ白な髪をツインテールにしている優しそうな女の子の顔をした天使。

右側には綺麗な羽があるのに、左には()がれたように何もない。

その視線の先には、膝の上にうつ伏せでだらしなくしている顔付きは男性の青にツインテールの天使と金の同じ刺繍の入った着物を着た真っ白な髪を後ろで束ねている天使。

こっちは左には綺麗な羽があって、右には何もない。

着物はゴロゴロしているからか、胸元がはだけて、足はリズム良く左右別々に動かしている。

膝枕をしてもらってご機嫌に見える。


ツインテールの赤い着物の天使も、ポニーテールの青い着物の天使も、お互い視線は合って居ないものの、仲が良さそうに感じた。


「あのお二人は、あの姿から人になれないので、天使家(あまつかけ)からはあまり出ません。

赤い着物の(かた)(さき)様、青い着物の(かた)(さく)様です。」


(さき)(さく)…ね。


「真っ白な髪…顔つきもだけど…似てるのね。」


(さき)の方も、(さく)の方も、男女なのは見て分かるけど、全く他人じゃないのも感じた。

兄妹…でも、双子でも違う感じ。


「元々あのお二人はお一人だったんですよ。」


「え?」


「ミカエルが、撃ち落としたと聞いてますです。」


ミカエルって、お兄ちゃんが夜ちゃんを通称名って呼んでた天使の名前だ。

私はそれを思い出していた。

夜ちゃんがあの2人に分けたって事?

私はそれを信じられなかった。

とても信じる気にもなれなかった。


「話しますですか?」


スージーは私を見上げながら、青い瞳で問いかけてきた。

私は正直避けたいと思ったけど、どんな人なのかは気になった。

暫くここから出られないなら、話してみても…。


「お願い出来る?」


現実離れし過ぎた出来事の後で、少し怖かったけど、私はスージーに頼んでみた。


「余りお邪魔をすると、ご機嫌損ねちゃうので、少しだけなら大丈夫だとおもうのです。」


先を歩き始めるスージーについて、私は2人の居る部屋へ向かった。

ご機嫌を損ねるって、短気な人達なのかな。


…でも、スージーは攻撃的じゃないし、お世話係って言ってたし…一緒に居てもらえれば大丈夫だよね…?

私はその時そんな風に簡単に考えていた。


その時の私は、天使の人格を甘く見過ぎていたみたいだった。

スージーの目を見た時に好奇心を止めればよかったと、後悔するのはすぐだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ