銃刀法違反
「ちょっと署まで同行ねがえるかな?」
「えっ?」
突然警察官に声をかけられ、青年は動揺した。隣に立っている青年の彼女も困惑した様子だった。
今日はクリスマス。
青年は恋人である彼女と、予約していたレストランに向かっている最中だった。
「私が何かしましたか?」
周りの誰もが振り返る素晴らしい彼女と過ごすクリスマス。今年こそは結婚を申し込もうと指輪を隠し持ち、酷く浮かれていたのは確かだが、警察に目をつけられるようなことはした覚えがない。
「君には銃刀法違反の容疑がかけられている」
「そ、そんな!」
「何かの間違いです!」
警察官の言葉に、青年とその恋人は目を見開いた。
青年は卒倒しそうだったが、恋人の手前、無様な姿は見せられないと必死に気を保ち、あらぬ疑いを否定しようと頭を働かせた。
「荷物検査をしてもらっても構いませんが、私は危険なものを所持していません。令状を持ってきていただければ家の中を探していただいても構いませんよ」
平静を装った青年の言葉に、警察官は首を横に振った。
「いや、荷物検査も家宅捜索も必要ない。現行犯だ」
「現行犯!? 私が何をしたって言うんですか!」
青年が驚いて叫ぶと、警察官は呆れたような顔をして言った。
「周りを良く見なさい」
青年は素直に辺りを見回したが、目に映るのは何の変哲もない繁華街だった。立ち止まってこちらを見ている人々が見せ物を見るような目で青年達を見つめていた。
その中には美人の恋人を連れている青年へ嫉妬の視線を向ける人もいたが、青年は気にしなかった。彼女と一緒にいるとそうした視線に晒されることはよくあったし、今日はクリスマスだ。嫉妬されるのは毎年の事だった。
それに、そうした嫉妬を向けられることに多少の優越感を感じていた事は否めない。彼女を自慢したい気持ちと、他の奴らに見せたくないという気持ちが微妙に混ざり合っていた。
だが、警察官が何を言っているのかは理解できなかった。
青年が理解していない事を察したのだろう。
警察官はやれやれと頭を振って青年に伝えた。
「最近の若い者は法律が変わった事も知らないのか?」
「法律が変わった?」
不思議そうな顔をした青年に、警察官はあっさりと答えた。
「そうだ。この間の法改正で、非モテの心を抉るリア充はリアルの銃の所持として扱われる事になったんだ」
「ええ!? そんな!!」
「さっ、ついてこい」
「やめて下さい! 彼を連れていかないで!!」
警察官が青年の手首に手錠をかけ、青年の彼女がすがりついた。
「無駄だ、無駄だ! リア充はおとなしくブタ箱に入るがいい!!」
「そうだそうだ! リア充爆発しろ!!」
警察官が明らかに私怨の混じった様子で高々と笑い、それを見ていた非モテ達が歓声を上げた。
どうしても警察官が逃すつもりがない事を悟ると、青年は自由な方の手で彼女の手を握り誓った。
「ゴメン。でも、私は必ず君の元へ帰る!」
「あああ、待ってます。貴方が帰ってくるまで、何年経とうとも必ず待ちます」
青年とその彼女は見つめ合い、お互いに誓い合うとそっとキスをした。
「「「ゲハッ!!」」」
その甘々な光景に、警察官と非モテ達は血の涙を流して崩れ落ちた。
『・・・警察官一名を含む多数の通行者が繁華街でリア銃に撃たれ入院しました。警察は犯人の青年を指名手配し・・・』