プロローグ:私と悪魔様 その1
さて、成り行きで助けたものの、あのまま放置しておけばよかったか?
狼に喰われて死んでくれれば、こっちとしても死体の処理に困らないかもしれなかったな。
あの老人が処理してくれるのは、俺に依頼したあの男と、ボディーガード二人だけだろう・・・
そこに、民間人の小娘を入れたら・・・流石に俺の信用がなくなるな・・・
銃を突きつけられても、女は反抗的な目を崩さず、ずっと俺の目を見て来た・・・
どことなく勝ち気な印象を受ける、銃の恐さくらい知ってるだろうに・・・
俺はこういう目が嫌いじゃない。
しかし、まぁ、話を聞いて駄目だと思ったら消すけどな。
「名前を言え、
この付近の住人なら住所も言え、
観光客ならパスポートを見せろ」
女は『パスポート』という単語に困惑の色を見せた。
言葉が通じてないのか?
それともパスポートを見せれない事情があるのか?
女は俺の目をじっと見て答える。
身長は俺より少し低いくらいだから、見上げる感じだ。
「ーーーーリリス・キスキル・リラ
この近くのテンプルムという村に住んでいます、
住所は、教会よこ3ば・・・」
俺が銃を眉間に押し当てたら、直に黙った。
息を飲むのが解る、そして恐怖しているのは手に取るように解る。
「嘘を言うな、
コレは警告だ、
俺を馬鹿にしているのか?
残念だったな、俺は東洋人だがこの付近に住んでいる
だからこの近くに、お前の言う様な地名が無いのは知っている
本当のことを言え」
トーンを出来るだけ低くして忠告する。
あまり上手い嘘ではなかったな・・・
それほどまでに隠したいことがあるのだろうか?
女は、困惑の表情を濃くしたが、数秒後には顔を上げた。
その顔は、
敵に向かおうとする勇ましさと、生き残りたいが為の浅ましさが混在した、勝負師の顔だった・・・
この歳の女がしていい顔ではないな・・・
この状況でその顔を見せるのだ、十中八九、嘘を吐く気だ・・・
美人の部類で、この顔をするとなると、将来はとんだ勝負師になれるだろう。
俺は楽しくなってきていた・・・
嘘が面白ければ生かそうとも考えた程だ・・・
「わ、わかりました、本当のことを言います、でも、その前にお願いがあります」
ほう?
つまらん命乞いだったら、直に引き金を引いてやろう・・・
「言え」
女は、目に涙をためて俺を見る。
嘘泣きまで出来るとは、役者だな・・・
「はい、・・・じ、実はこの近くで近所の子供達を遊ばせています
先程の出た狼がそちらにも出ないとは限りません
その後、私はどうなっても構わないので、
どうか、どうか、子供達の安否を確認させて下さい!!」
叫ぶ様に言い終わると、女は大きな息を吐いた。
子供か、子供ときたか・・・
見た所、子供の居る様な歳には見えんが・・・、情に訴えてくるとはな・・・
他の人間に付く嘘としては駄目だが、俺に付く嘘としたら合格だ・・・
「解った、案内しろ」
俺が銃を下ろすと、女は固まった。
自分の嘘が通ったことが信じられないと言った顔だ・・・
子供など居ないのに、口から出任せ言って、それが通ったので焦っているのだろうか?
だとしても愉快なので、促してやる。
「どうした?
早く連れて行け、子供達が心配なのだろう?」
「・・・はい!!」
なんか、妙に明るい返事が返って来た・・・なんだこれ?・・・
■
「なんだ、コレ?・・・」
女に案内されて森を抜けると、
焼けこげた畑と、その畑に火を放つ赤色の小鬼ような不思議生物が5匹、そして・・・
「おい、女・・・・なんで、岩が空に・・・」
俺の問いかけを無視し、女は走り出し何事か叫びだす。
「グレイ君!!、メリッサちゃん!!、ケヴィン君!!、ヴィヴィアン・・・」
人の名前か?
まさか、あそこで火遊びしている小鬼の名前じゃないよな?
小鬼に目線を移すと、奴等、女に向けて欲望丸出しの目をしてやがる。
3匹、女を取り囲む様に散開してるな、女の方はまだ泣き叫んでやがる・・・
俺には2匹・・・一番貧相なヤツと、一番ちっこいヤツだ・・・
俺は無言で引き金を引き、一匹撃ち殺した。
もう一匹も作業的に撃ち殺す。
女の方に居た3匹は、異変に気付いたのか、怒りの形相で俺の方に向ける。
その時になって初めて女が小鬼の存在に気づき悲鳴を上げていたな・・・
「「キィイィイイィ!!!」」
一匹、叫びながら俺の方に走って来る・・・五月蝿い!!!
銃声が響くと小鬼の頭は弾け飛んだ・・・こんな威力だったか? まぁ、いいか・・・
残った2匹は、かなりガタイの良いのが残った・・・群れのボスか・・・
一匹、俺を牽制し。一匹が女を人質に取る・・・
「きゃああ」
アホか、
そんな所に棒立ちしてたら捕まるに決まってる・・・
まぁ、アホなのは小鬼どもも一緒だが・・・
人質を取り、勝ち誇った小鬼の片割れは、武器を携えて俺の元に来る。
目前に来ると大きく斧(今、斧だって気付いた)を振り上げる・・・
モーションが大きすぎるんだよ・・・
銃を持っていない方の手で腰から軍用ナイフを抜くと、小鬼の喉元に突き立てた。
鮮血が飛び散る、汚いな・・・
もう一匹が怒り狂いながら、女に斧を振り上げる・・・
嗚呼、鬱陶しい!!
俺が引き金を引いたら、もう一匹の頭も弾き飛んでいた・・・
だから、ベレッタにそこまで威力ねぇえって・・・
■
私が鍵を持っていた村長の小屋に隠れています。
この小屋だけはレンガで出来ているので、ゴブリンの放った火でも焼けてなかったからです。
私が鍵を持っていたのもありますが・・・
私は何故、こんなことになっているのか理解出来ませんでした・・・
自分が生きてることも、畑が燃えてることも、周辺を魔物が闊歩していることも、そして・・・
「ちっ・・・マガジンが残り少ねぇ
後、2つ・・・10+10+銃に残ってんのが4で24発・・・ああ、くっそ!!」
この、先程から焦りの表情を浮かべている野郎のことも理解出来ません・・・
なにやら呪文の様な言葉を呟き続けています・・・異世界がどうとか・・・
「畜生、ここから先、俺はどうすりゃいいんだよ・・・ん? この匂いは・・・」
野郎は、何事か小屋にあった備蓄を漁りだします。
そして・・・
「・・・おい、女
これは、何処で手に入れた?」
野郎が取り出したのは、村長が隠し持っていた王都の甘味。
「・・・ドラーヤーキ、ですか? こんな時に食い気ですか?」
私は自分の苛立を野郎に向けていました。
自分より年下の子供を死に追いやったかもしれない重圧で、どうにかなりそうだったのです。
・・・私にだって罪悪感はありますよ?
「いや、これ、どう見ても『どら焼き』・・・
じゃ、なくてお前、これを何処で手に入れた!?」
野郎は必死な顔で私の肩を掴みます。
・・・なんでしょう? 引っ叩きたくなりました・・・
私が右手を大きく振りかぶり、放った、生涯最高クラスのビンタを、野郎は手を添えるだけで止めてみせました・・・えっ、なにこれ、凄い力・・・
「いいから聞け!!
ここから先、俺はお前・・・リリスだったか?・・・リリスを全面的に信用してやる!
銃を突きつけたことも、謝れというなら謝ってやる・・・
だからな、俺の質問に正直に答えてくれ、知ってる範囲で良い、頼む!!」
あまりに情けない・・・必死過ぎる表情に、怒気は収まりましたが・・・何でしょうね? 悪い虫が出てきそうです・・・
「解りました、謝って下さい」
「解った、銃を突きつけてすまなかった!!!」
野郎が頭を垂れる・・・なんでしょう、この優越感・・・
「そうじゃありません、女の子に暴力を振るったことについて、言いたいことはありますか?」
野郎が頭を垂れながら・・・『面倒臭い女』と、呟いたのは聞こえましたが、私は優しいのでスルーです。
「・・・その、暴力振るってすまなかった・・・」
私は可笑しくて笑ってしまった。
この野郎、よく見るとそんな恐そうなヤツじゃない。
だから、教えてくれるかもしれない、訪ねてみよう・・・
「名前はなんて言うんですか? この野郎」
「この野郎って、おい・・・、俺の名前はキナサ マコトだ」
マコト・・・はい、覚えました!
私が人の名前覚えるなんて珍しいんですよ?
「じゃあ、マコト
私からの頼みです、先程もいいましたが、この近くに子供が居た筈なんです、だから・・・」
「・・・嘘じゃなさそうだな」
「はい、でも死んじゃってるかもしれないから・・・」
「いや、構わない、リリスはここで待ってろ
探して来る・・・」
「えっ・・・・」
マコトは呆気なく、小屋の外に出て行きました・・・
まるで、助けるのが当たり前の様に・・・




